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流浪の遊び人 *王道少年漫画風・お下劣ファンタジー*  作者: 紅山 槙
虚無の天使は遊び人と契らない愛を交わす(全13話)
48/49

Ⅻ 悪戯

暴走する変態たちの宴である。


「何で枸櫞が飛んでくんだよ」


 マイフの言葉に、シニガミは笑って答える。


「俺が大鎌使いとは限らないし? 面白いもの拾えたら結構使う♪」


 ……俺は剣とナイフをメインにしてるが、どんな武器も基本的な心得はあるからね。シニガミもそういう節がある。


「そりゃあ、俺はスロスと繋がってるから♪ スロスが強くなれば、俺も強くなる。スロスは神界にいた頃は、『お前をいつかワンパンする!』って宣言してたけど、結局諦めたし♪」


「……」


 俺が色んな武器を経験してきたのは、対シニガミ用の相性のいい武術を探すため。慣れた剣が手元になくてもその場しのぎで戦えるようにするため。だが、そんな俺の苦労を踏みにじるように、シニガミも俺の実力を反映する。イタチごっこだ。


 これも、あいつが俺の記憶を共有しているせいだろう。それには反射神経も含まれているのか? シニガミは体の動かし方も、俺とよく似ている。


 シニガミはかりっと枸櫞の皮を齧り、「……んー。やっぱ酸っぱくない」と言って、ぽいっとまたこっちに飛ばしてきた。口つけたもの投げるな。


「そういえば♪ 人参と枸櫞を混ぜた汁は媚薬になるんだっけ? スロスがよく作ってる奴♪」


「……それがどうかしたか?」


「俺もむらむらしてみたい♪」


「何言ってんのお前? 媚薬欲しいの?」


「うん、欲しい♪」


「断る」


「じゃあ奪うからいいや♪」


 ……不運(シニガミ)も、何でここまで変態なんだろう。


 俺は確かに媚薬作りが得意だけど、持っているのはいきなり発情させるような魔法の薬じゃない。女の子はベッドに連れ込む前に、心身を良い状態に保たせるのが重要だ。『その気にさせる』んじゃなくて、『する気がなくならないようにする』のがまず大事。俺の媚薬はそのためにある。


 俺の恋愛持論。

セックスをしたければ相手の健康が第一。


「スロスは女を抱くためなら手段を選ばないからね♪ 唯一、同性で体の関係持ったのは俺くらい?」


「……体の関係?」


 ラティロが不思議そうな声を出す。


「そ♪ 一回くらい試したくてさ、スロスでエッチしたことあるの♪ 聞きたい?」


 ちょ! まさか……!?


「や、やめろ、その話は……!!」


「あは♪ スロス顔真っ青♪ この恥ずかしがり屋さんめ♪」


 ラティロがクロスボウを構え直して、シニガミに問う。


「死神は三大欲求を持たないと文献で見たことがある。飲食と睡眠が不要で、生殖能力もないはずだ。なのに体の関係って、どういうことだい?」


「ラティロ何で興味持ってるの!?」


「スロスの羞恥を聞きたいわけじゃなくて、真面目に知りたいんだよ。怪魔の生態は文献の情報と必ずしも一致しない。現実との相違点は、ハンターとしてちゃんと覚えておくのが大事なんだ」


「いや、アレはハンターの人にも全然大事じゃない情報だから!! 本当にやめて!?」


「そもそも死神に×××あんのかァ?」


「さあどっちでしょう♪」


「お前らは何でシモトークしてるの!?」


 シニガミが愉快そうににやりと笑った。


「ラティロの質問答えてもいいよ♪ スロスを悦ばせた時の話、教えたげる♪」


 慌てて何本か小ナイフを飛ばしたが、さっさっさっと躱されてしまう。


「言うな!! 言ったらぶっ殺す!!」


「じゃあ次復活した時に言う♪」


「ふざけんなっ!!」


 シニガミは何も、俺を殴る蹴るの暴力で嬲るとは限らない。大きなものから小さなものまで、俺を不快にさせるためなら何でもする。


「スロスを無理矢理脱がせたらさ♪ 『ヤる時はドS』って自称してるくせに、嘆くような声出して、いやらしい顔してた♪」


「二人も攻撃してくれ!! 早く!!」


「気ィ落ち着けろやスロス。怪魔の精神攻撃に動揺したら思う壺だろ」


「そうだね! 頭ではわかってるけどさ!?」


「怪魔が揺さぶりをかけてくる時は、次も同じ手を使われる可能性が高い。わたしはスロスのどんな恥ずかしいエピソードを聞いても、他言しないことを約束するよ」


「聞く前提!?」


 さすがプロと言うべきか、怪魔ハンターは冷静すぎだ。ここで感心するのも複雑だけど!


「さあスロス♪ 答えてみなよ? ケツにぶち込まれた黄色くて長いアレにあんあん言わされた時の気持ちはどうだった?」

「っ!!」


 黄色くて長いアレの形が頭の中で暴れた。


「うわああああぁああああ――――!! シニガミいぃ――――てめええええ――――――っっ!!」


 俺はバナナが嫌いだ。元から得意じゃなかったが、こいつのせいで黄色くて長いものに触れるとパニックを起こすくらいトラウマになった。見るだけも生理的に無理。恐怖で体が竦む。


 バナナを凶器に使われた時のアレは、苦痛だった拷問ランキングベスト三に入る。気持ちよかったかって? むしろ死にかけたよ!!


「スロスの恋愛持論。真実か不真実か問うのはナンセンスで、客観的事実なんでしょ? ひゃっひゃっひゃっひゃっ♪」


「言うなっつっただろ変態野郎!! 勃つ×××もないクソ怪魔が!!」


「あーあ。スロスがネタバラシしちゃった♪」


 シニガミがちろりと舌を出す。だからいつまで経っても、こいつとの戦いには慣れない。


 たぶん、怪魔ハンターの二人も「黄色くて長いアレ」の意味は察している。俺がバナナ嫌いなのは知ってるし。こいつらも変態スキル高いし。俺とシニガミを交互に見て、何とコメントするべきか悩む顔をしていた。


「ね? ハンターには無用の情報でしょ? 同情しないで! 余計辛いから!」


 というかまずさ! 何で一触即発の状況でコントしてんの俺ら? 武器構えてるよね?


 シニガミも二人を巻き込んでノリ過ぎだろ!


「だって面白いから♪」


 だよね! お前ならそう言うだろうね! わかってたよ!!


「よ、よし! もう聞いたからには二度も効く技じゃない。スロスも前向きに考えるべきだ」


「ラティロも微妙に動揺してない!? てか効いたの!?」


「変態しかいねェな、この空間……」


 戦う時は無口になりがちなマイフまで、今回は台詞が多い。相当緊張感に乏しいようだ。


「あは♪ 何だ、スロスの仲間、超いい奴らじゃん♪ その絆も壊したい♪」



シニガミはからからと笑った。

そんなこんなで。

次回がep3最終話です。

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