XⅠ_持論
再び現れる死神。
「くそ! 無理だ! 近い!」
息絶え絶えに、そう叫んだ。
俺たち三人は、何の変哲もない山の街道を全力疾走していた。
シニガミが傍にいる。慣れていながらも冷や汗が出るような……嫌なあの空気を感じる。
先頭を走るラティロが突然路上から外れて、林の中に入っていく。俺とマイフが後を追う。
正規の道からだいぶ離れたところまで来ると、ラティロは走りながら右手を横に伸ばし、親指以外の四本の指を立てて、『止まれ』とハンター語で合図した。
「……はあ、ここなら、通りすがりの、人を、巻き込むことも、ない。戦う、準備を、しよう……」
息を整えながら、ラティロがばっと荷物を投げ降ろし、ぱっとクロスボウの弓を広げた。
それぞれの武器を持ち、背中合わせになって全方角を目で確認する。
臨時の戦闘体勢。シニガミの姿を確認したら、二人には「自分の身を守ることだけ考えて」と言ってある。いつものことだけど。
日が差す昼間。呑気な鳥の囀りが、木と木の間に響く。
張り詰めた空気が俺たちの周りを包んでいる。
あと何分後だ? 十分後? 三十分後?
一時間以内には間違いなく来そうだ。
シニガミの復活が今から十九日前。かなり移動ペースを上げて動いていたんだが、結局は何処かで追いつかれてしまう。休憩で立ち止まる時間がロスになるから、眠る時は馬車を使うこともある。この進度を維持すると、倒してからだいたい三、四週間周期でシニガミに会うかな。今回はちょっと早い。
「……」
「……」
「……」
無言。風が木の葉をさわさわと鳴らした。血液を巡らせる心臓が少し平常に戻ってきて、ふうと肺に溜まった息を出す。
シニガミは何処から来るのかわからない。すごい時は空から降ってきた。川から忍び寄って水鉄砲を飛ばして来たこともあるし、切り立った崖をよいしょと登ってきたこともある。あの時はすぐ蹴り落としたが。
「普通に現れろよ」と思っても、気まぐれにドッキリを仕掛けてくる。
ぱきっと、小枝を踏む音がした。気配がある方に視線を向ける。動物か? シニガミか? 普通の怪魔は、この時間帯にまずいない。
びゅっと何かが木の陰から飛んできた。それを剣で切り裂くと、ちゅっと酸っぱい匂いの飛沫が散る。
「うわっ!」
顔にかかった。強い香りが目にしみる。
「……これは、枸櫞?」
ラティロが正体を口にする。枸櫞はぼこぼこした楕円形の果物で、よく料理に添えたり、水に汁を絞って飲んだりするものだ。
枸櫞がまたぽいぽいと飛んでくる。皮が硬いから、当たると地味に痛い。
「っ、シニガミ! そこにいるんだな!」
「秘技・果物投擲♪」
「食べ物を粗末にするなよ!!」
自分の懐から投げナイフを抜き取り、枸櫞の飛んでくる木の傍をしゅっと掠めさせる。
果物攻撃が止まった。数拍の間のあと、ひょこっとシニガミが顔を出し、全身像を現す。右手にはいつもの武器を持ち、左手でぽんぽんと枸櫞を弄んでいた。
次回は下劣なコメディしかありません。




