表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流浪の遊び人 *王道少年漫画風・お下劣ファンタジー*  作者: 紅山 槙
虚無の天使は遊び人と契らない愛を交わす(全13話)
41/49

Ⅴ_救助

ep3の見た目ロリなヒロイン、登場です!


 シニガミの顔がにっと歪んで、俺を見下ろした。


「あは♪ 何だ、よかったじゃん、スロス。お前のこと見捨ててない奴がいたよ♪」


「シニガミも。そこを退いて」


「嫌だね♪ スロスを助けるなら俺を倒してみろよ、モダ=イリス」


「お願いだから」


「い・や・だ♪」


「……全く。君も我儘だ」


 しゅぱぱぱと、天井を見上げる俺の視界に、光る細いナイフが横切った。地を蹴って逃げる足音。シニガミを狙っていただろう刃物は、落ちる音もなく、何処かに消える。


「俺に勝とうとか百万年早いんじゃないの? 弟子に先を越されたモダ=イリス?」


 あー、そういえば。ナイフの投げ方、モダに習ったんだよな、と。助けがきたという実感が薄いせいか、つい呑気なことを考えてしまった。


「ナイフ投げのこと? スロスに頼まれたから、ちょっと教えただけだよ。ボクは人を指導できるほどの腕はないのに」

 と、モダは言う。


「シニガミ、武器を降ろして。戦わなくていいなら戦いたくない。ボクは君の敵じゃない」


「俺を殺せたら降ろすよ♪」


「もしスロスが死んだら、君も困るはずだよ?」


「困るって何? 俺が二度と復活できないとか、その辺の心配?」


「そうだよ。君はスロスに執心してるからね。二度と復活できないとしたら、二度とスロスに会えないかもしれない。離れている間も、寂しいと思わないの?」


「全然♪ スロスの考えていることは何処にいても頭の中に入って来るし、召喚されてない時は俺寝てる感じっぽいし? そんな気にならない♪」


「なら、スロスが死んだら君はどうなるの?」


「さあ? ずっと眠ってんじゃない?」


「楽観的だね」


「そりゃあ、俺何百回も死んでるし♪ 意識ない状態にも慣れてるってか♪」


 モダのため息が聞こえた。


「シニガミ。ボクは別に、スロスから君を遠ざけようと思っているわけじゃない。少しの間そこを退いてくれるだけでいいんだ。君のやんちゃぶりは怪魔らしいけど、調子に乗りすぎだよ。いつも頑張っているスロスの邪魔をして、周りに迷惑をかけて。シニガミも、もう少し聞き分けを覚えて大人しくしてくれれば…………」


「うるせえくどくど説教すんな!! お前は俺のお母さんかよ!?」


 ………………。


 うん。モダはそういう性格だから。


「お前、ホントに変な奴だな。何考えてんだかわかんない」


「それはお互い様。ボクもシニガミの考えていることはわからない」


「どうして俺を憎まない?」


「ボクは怪魔を全部が全部、悪いものだとは思っていないから。怪魔もまた、意思があり、自由がある。君はスロスの味方ではないけど、敵でもない」


「は。さすが精霊信仰の中毒者。あんなカルトにハマってるとか」


「人の信仰の悪口はだめだよ」


 ナイフがまた飛んだ。今度は全てのナイフの尻から、光る糸が伸びて、あちこちの方向に線を引く。シニガミもまた、躱すためのステップを踏む。糸はくんとうねって、きらきらと塵のように消えた。


「シニガミ、お願いだから、人の話を聞いて。スロスを助けさせて」


「嫌だって言ってるだろ。『スロスは餓死する』ってことに、八ゼリカ賭けてんだから」


「賭け? お金は持っているの?」


「いや? 持ってないけど♪」


「それは賭けとは言わない。賭けをするなら、ちゃんとお金を用意しないと」


「っ、説教すんなつってんだろ、クソアマが!!」


 声を荒げたシニガミが動こうとした。ぱあっと鞭のようにしなる糸が、何十本と広がり、宙で踊る。小さなナイフ型の光もいくつか飛んだ。


 モダの無限ナイフと光の鞭は、持ち手も糸も全部が、切れ味の鋭い刃物みたいなものだ。下手に近づけば八つ裂きになる。


様々な形の光が空中を支配している時に、シニガミもその中を掻い潜るのは難しいだろう。何故って、俺が無理だから。


 モダの光る凶器は能力の産物ってわけじゃないんだが、普通の武器じゃない。時には光を球状のボールにして、雪合戦の玉のようにぽいぽい投げることもある。それも掠めた場所が抉れるという、トンデモ技だ。


「本当に、君のことも見ていて心配だよ。スロスもそうなんだけど。二人ともなかなか周りの意見に耳を傾けようとしないから、もう少し寛容になるべきだ。シニガミも、いつまでボクの話に反抗するつもり?」


「話に反抗って何だよ!? 俺とスロスは思春期のガキか!?」


「言ったはずだよ。過去にも、何回も。ボクは君の敵じゃない」


 光のナイフが飛ぶ。シニガミの方からナイフを弾く音が鳴った。光の糸を振り払うようにぶんぶんと空気を掻き回す音もする。モダの意思で張り巡らされていく光の糸は、次々と新たな線を引き、蛾が繭を作るように、数を増やす。


 シニガミが接近戦を諦めた。今度は石を拾って投げているようだ。モダの光の武器を対処するには、ナイフや弓矢が有効なのは確かだ。小さいから糸の隙間を通りやすい。


 だが、突然、全ての光の糸がぱあっと消えた。とととと軽い足音が、俺の方に近づいてくる。シニガミが俺の頭の傍に立ち、大鎌を構える。モダは光る大きな盾を作り出し、キンと高い音を立てて、シニガミの攻撃を防いだ。


「ほら、退いて」

 盾の向こうから声がする。


「退かねえよボケ」


 シニガミが鎌で、ギンギンと盾を連続で叩く。モダが後退りしていく。シニガミの方が物理的な力は上だ。小さな体では力を受け流して踏ん張ることができない。


 天使と不運はどんどん俺から遠ざかる。モダは盾を天井に届くくらいまでどんと巨大化させ、それをシニガミに向かってぐいっと押し倒した。


 ごごごごと、俺にも迫り来る光の壁……下敷きになるよりも、触れたら体がミンチになるだろう。シニガミの壁に当たらないように逃げる音がした直後、俺の足にどすんと痛みが走った。


 ふと、急に俺の視界がはっきりする。頭がすっきりして、体の中の痛みが消えていく。


 首を動かして自分の太腿を見ると、光っていない、普通の刃物が突き刺さっていた。


「"復活の短剣"。スロスはこれで起きられる」


 光の壁は地面に触れる前に、粒になって散り散りになった。俺はまた頭を傾ける。豆鉄砲を食らった顔をするシニガミと、短剣を投げ終えたポーズのモダ。二人と目があった。


「……モダ、てめえ……! 余計なことしやがって!」


「いい加減にしなよ。君はスロスに甘えすぎ。二人は同じ意識なのかもしれないけど、存在としては違う。依存しないで、"独立"しなよ」


「……っ」


 ぼっ、と。俺の視界に、黒い火の粉が映った。


「何だよ。何なんだよ!! いつもいつもいつもいつもいつもいつも!! 腹立つんだよ、お前!! 死なす……っ、ぐ!?」


 俺は立ち上がってシニガミの手を蹴り、黒い炎を灯した大鎌をはたき落とした。そのままそいつの後ろに回り込み、背中から抱きかかえる。


 腹までがっちりホールドしたら、もう片方の腕で、ぐっと首を締め上げた。


「がっ! ……はっ……!」


 シニガミは俺の腕に爪を立てて、暴れる。びきびきと、首の骨にヒビが入る音もした。


「……っ……ロ……ス……!」


 モダも、俺も、何も答えない。


「……俺……っう…………だ……れ……は!!…………」


 息苦しさにもがくシニガミは、やがて腕をだらりと垂らして、ふっと物理の抵抗をなくした。


黒い煙が霧散して、消える。


「……スロス」


「ありがとうモダちゃん。助かった」


「どういたしまして。短剣、まだ抜いちゃだめだよ」


「うん」


 シニガミに殺意を向けられても、モダは何事もなかったかのように平然としていた。


 さすが肝っ玉というか。モダは度胸がありすぎる。シニガミが即死の術を発動した時は、俺の方が肝を冷やした。


 転がってるオークやサキュバスの死体を避けながら自分の剣を拾って鞘に納め、ぱんぱんと服の土埃を払い、帰り支度をする。


「……神界に戻っていないと聞いて、変だなと思ったんだ。スロスはいつも無理をするから。まだ懲りていないの?」


「んー? 何が?」


「遠回しに何度も忠告したのに。君を傷つけたくなかったから」


 モダは表情のない目で、俺を見据えるように、じっと見る。


「……ねえ、スロス。もうやめなよ」


「……」


「君の信念は十分にわかった。でも、君のその力は、自分を苦しめるだけだ」


「……」


「決めるのは君だけど。ボクは心配なんだよ」


 モダの瞳に、にっこりと視線を返す。

「もう少しだけ、頑張るよ♪」


「……。そう」




この度は更新が滞ってしまい申し訳ありませんでした。明日からまた定期更新しますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=978209740&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ