Ⅲ_過去
死神は茶々入れしないと気が済まない。
初めてシニガミと会ったのはいつだったか。
?幸運を操る?能力を授かった日。
辺り一面が血に染まった日。
俺は人間界の生まれじゃない。ある一定の年齢になると能力を得られる、神界の人族の里で生を受けた。
神様に最も近しい人族。人間界では"天人"とか、"無神族"とか呼ばれるが、能力を持つ以外は普通の人族と変わらない。
だが、そこから神様は現れる。志ある者は、既に権力がある神様の門下に弟子入りして、修行に励む。それが?神様候補?と呼ばれる人たちだ。
「そもそも"神様"って何か、というと。人を助けることで利益を得る存在♪」
……いきなり何? お前。
「んー? スロスが走馬灯みたいなこと考えてるから、俺も頭の中の整理手伝ってる♪」
あ、そう。勝手にしろ。
……太古の昔、人であった"神様となる者"は、誰にも知られていない神秘の力を見つけた。"神様となる者"はその力を使って、病や災害といった、災いから人を守るために奮闘した。
その神秘の力は、今は"神術"と呼ばれる。お伽話風にいえば、魔法。そして"神様となる者"は王様となり、人間の世界から隔離した、異空の国を作った。神術は、その国の人たちだけが持つ、秘密裏の技術だ。
やがて、人と神の国は完全に分離し、神様は人間界に直接姿を現わす機会がなくなった。人間界の多くの人々は生涯神様に会うことはないため、神様を雲の上に感じ、存在を認識できなくなった。
そして、時が経ち、次々と新しい神様たちが現れるようになる。神界で神様になった者達は、神術を利用して人間界の信仰を集め、見返りを貰うようになった。やがては如何に人に信仰されるかどうかが、神様の身分に影響するようになったんだ。
「ホント不思議♪ 元々人族だったんでしょ? 神様ってのも。俺も人間界行って、神界との違いにびっくりした♪ 怪魔もたくさん見たし。人間界の怪魔が俺の祖先? あはは♪」
神様たちはそれぞれアイデンティティのある能力を売りにする。怪魔という物理の悪魔に対抗する力の他、病払い、恋の成就、勉学の補助など、あらゆる方面で人を助けている。
例えば、戦の女神で有名なのが天神フェリス。教会としての軍力も高いから、人間界では世界中にその勢力を広げていて、町によってはフェリス教会が町内統治をしていたりする。
信者の数が神様の勢力になるから、フェリスさんはどんな神様の中でも一番権力が高い。神様の位を軍隊の階級で例えれば、将軍レベルだ。
「コネをフル活用して、"不運を操る"フェリス神と文通するまでこぎつけたのにさ。結局能力のことは何も分からなかったじゃん♪ ただの取り越し苦労♪ 残念無念♪」
能力の"代償"は自分に返るものとは限らない。程度にも個人差がある。フェリスさんの"不運を操る"能力の代償は、「動きたくなくなるほど体が疲れる」だそうだ。
ある"時を操る"力を持つ人は、「時を操られた存在が周りから一定時間認識されなくなる。自分に使えば自分が、他人に使えば他人が」と、言っていた。
これはまー……見方によっては代償というより"追加能力"なんだが。こういう感じに、能力の反動が良い方向に働くパターンもある。
フェリスさんの能力は俺の逆バージョン。"不運"も"幸運"も形があるものじゃない。
フェリスさんからは、
「良き運も悪しき運も、誰かの行動から始まるもの。不運を名乗るその"存在"をお前がどうにもできぬ相手だと言うなら、妾もどうにもできん」と、答えをもらった。
そういえば、シニガミが……こいつが"不運"を自称したのもいつだ? 確か、最初からではなかった。
「いつだったんだろうねー? スロスが神様候補になる寸前くらいだったと思うけど♪」
……怪魔という"存在"。
幸福の"代償"。
「俺の不運」は、元々俺の意識が考え出した肩書きなのか?
なら、シニガミは一体何者なんだ?
絶滅したとされる神殺しの怪魔が、何故"代償"の形で現れる?
どうして俺の姿をしている?
どうして俺を追いかける?
……その答えにはまだ辿り着かない。
「俺ってさ。たぶん、死ぬ度に死んでるんだよ♪」
……?
「俺も、俺が誰だかわからないし? スロスも俺のこと知らないし。わかっているのは、"死神"という怪魔であること。あんど、スロスの"不運"であること。スロスが知ってること、そのまんま♪」
……。
「俺がやってきたことは、スロスが全部知ってるからさ。だから、スロスと俺は同じなの♪」
……?
「"死神"は次々に死んで、転生している。生まれ変わる度にスロスになっている。だから結果として、不死身になる。なーんて♪ 仮説を立ててみたんだけど。どう?」
……。
「……ま。結局何でなのかわかんないんだけど」
どういう意味だ?
「教えな――――い♪」
……。あ、そう。
「知りたい? 知りたいなら三回回ってワン! って奴やって?」
動けないから無理。
「じゃあ教えられない♪ 死ぬまでもやもやしてなよ♪ あはははははは!」
……。




