ⅤⅢ_粗茶
マイフがぐうぐうといびきをかき始めた。その少しあとに、ぱさっと布を動かす音がした。
アイニーちゃんだ。ラティロを起こさないように、そろり、そろりと、手と膝で歩きながら離れて、俺と目が合った。
「どうしたのー? 喉が渇いた? それともお花摘み?」
俺が聞くと、アイニーちゃんは首を振って「ずっと起きていました」と答えた。
「やっぱ眠りにくいよねー。地面はベッドと違って硬いしさ♪」
「え、ええ、それもありますけど……」
アイニーちゃんはもじもじしている。んー、やっぱりトイレかな? 男しかいないし、はっきり言いにくいよね。
「何処か行くなら、近くまで付き合うよ♪」
「……いえ」
「生理現象は我慢しないでね。現実的な話をすると、排泄は少し離れたところでやらないと厄介なんだよ。怪魔が匂いで、人の存在感じ取って寄って来ちゃうからさ♪」
ちなみに、その習性を逆手に取って怪魔を一網打尽、なんて戦法も世の中にある。
ついでに、女型怪魔のマーキング跡を集める変わった趣味の人も世の中にはいる。
「その……」
アイニーちゃんは俺の近くにそろそろと近づいて来て、小さな声を出した。
「……黄色です」
「ん?」
「ぱ、ぱんつの色……黄色です……教えていなかったので……」
「……」
この子。超、いい子だ!!
「いやー、無理してくれなくてもよかったのにー♪ でもありがとう。お礼覚えててくれて♪」
「……スロスさんは、怪魔から直接助けてくれましたから。怯える私を慰めてくれて、お茶もご馳走になったのに……お礼を言わないのも、申し訳なくて……」
ちょっと天然っぽい感じが可愛いらしい。
黄色かー。黄色。うん。アイニーちゃんっぽい♪
ようやく頭に詰まっていたもやもやが取れて、すっきりした♪
「あ、またお茶でも飲む? ぬるめのを飲むと、落ち着いて眠りやすくなると思うよ?」
「……はい。いただきます……」
木の取っ手がついた鉄製のカップを用意。それを石で囲った焚き火にの上に乗せて、水筒に汲んでおいた水を注ぐ。
続いて、ハーブの茎で編まれた籠から、小さく切った干し飴(果物とかを小さく切ってガチガチに乾燥させた砂糖菓子のこと)を取り出して、いくつかドボン。そこに少ーしだけ蜂蜜酒を垂らすと……超簡単な甘いお茶が完成!
ハーピィ狩り待ちの時に煮出したような紅茶の葉でもいいんだけど、今は火力弱いからね。加熱不足でお腹壊しちゃうと怖いから。
「はい、どうぞー♪ カップの底は熱いから、気をつけて♪」
「ありがとうございます」
アイニーちゃん猫舌なんだって。慎重にカップの中身に口をつける姿も、なかなかいじらしい。
「……甘くて、美味しいです」
「それはよかった♪」
……しっかしねー。こんな大人しそうな子が、神域にねー。見たところ、十八歳かそれ以下くらいだろうし。度胸あるよ。
次回、とうとう禁断の関係に……




