VII 夜番
マイフの性癖が暴露される回。
「オイ、起きろ」
組体操のように絡まる女体のてっぺんに登ると、魔王がいた。
……という、訳のわからない夢から覚めて、俺はマイフと場所を交代した。
アイニーちゃんとラティロが寝ているエリアはしんと静かだ。
「ラティロも言ってたけどよォ。変な気ィ起こすなよォ?」
マイフは耳たぶ以上に大きい、丸い風穴の空いたピアスをつんつんと弄りながら言う。
「大丈夫、マイフを襲ったりしないよ♪ 俺、男に興味ないから♪」
「……あのなァ。オメェの行動次第では、オレたちの仕事の信用にも関わってくるんだ。余計なトラブル起こすんじゃねェぞ? 調子づくのは勝手だが、時と場所は考えろよ」
冗談をシリアスで弾き返されて、ちょっと拍子抜け。
マイフは堅い所があるだけで、別に男色ってわけじゃない。綺麗なお姉さんにばぶばぶ甘える性癖がある、ごく一般的な変態だ。
「ッたく……町以外で女と会うと、だいたいロクなことねェからな……スロスがいると特になァ……」
ぼやくように呟いて、マイフもじっと静かになった。
ちっこい明りの面倒を見ながら、闇の中の音に耳を澄ます。「カラカラカラカラ」と骨を吊るして打ち鳴らすような鳴き声が遠くにある。生首怪魔のツェンツェかな? こっちには来ないだろうけど。
夜こそ怪魔は活動的に動く。環境によっては、夜に動いて昼に寝る、っていうサイクルで歩くこともあるけど。ここはまあまあ標高が高く、岩を積んだような道ばかりで足場が悪い。ただでさえ霧が多くて視界が悪いから、逆に夜道は危ない。
例の怪魔とは、もうちょっと町に近い場所で争うつもり。ラティロ曰く、ツェフェリ町近くの神域なら、平坦な地面も多いという。
シニガミは容赦なく人を襲う。あいつが出現して俺を追ってくる時は、できるだけ町に入らないようにして、ほとぼりが冷めるまで待つようにしている。
倒す方法は二つ。
ひとつは、遭遇した時に息の根を止めること。殺害してから十三日後に復活するから、一時的な平穏にすぎないけど。その期間だけはシニガミの襲撃を心配しなくていい。
もうひとつは、"幸運を操る"代償の、時効まで逃げ切ること。幸運を使った分だけ、シニガミは何度でも現れる。だからその"使った分"の時間が過ぎれば、自然消滅して、次に能力を使うまで絶対に復活しない。
……俺は幸運の量を日付や時間で例えているが、これは俺独自に決めた、量の単位に過ぎない。メートルとか、リットルとか、ラジアンとか、それと同じ。「このくらいの量でシニガミの出現何日分」って、俺はざっくり計算している。
「"幸運を操作"するって、運を先取りさせる能力なのか? お前の運を分け与えることなのか?」と人に聞かれたことがあるが、答えはどちらもノー。
俺の操る幸運はおそらく、枯れた泉から水を無理矢理引っ張り出すようなものだ。実質、一万年分でも一億年分でも、本気出して人に与えようとすれば可能だろう。
はっきりいって、能力そのものは最強だと思う。俺が散々死にかけて命を落とさなかったのは、この能力のおかげだ。人に与えるだけじゃなくて、自分にも使えるから。
……だからこそだろう。
俺にとって、シニガミが一番恐ろしい相手だと感じるのも。




