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 あれ以来、私はあいつを見ていない。私は城での生活において覚えなくてはならないことだらけで、あいつと話す機会がなかった。それに、私が暇を見つけて、あいつの部屋に行っても、いつも留守だった。

 あいつは一体、何をしているのだろうか?日を重ねるごとに、その疑問は大きくなるばかりだった。

 そんなある日、私は王と面会することになり、王宮へ訪れることになった。実際、今回で二回目だったわけだが、最初は会話らしい会話をすることなかった。

 何の為に呼ばれたのか、思う当たる節もないまま、王宮へと行くと、そこには王はおらず、その代わり、王の傍らにいた白フードの青年がいた。彼は私の姿を見ると、

『………お前が赤犬、か?』

 そう尋ねてきた。

 彼は“黒龍”と言い、ライセンス試験を15歳と言う年齢で通った天才魔法使いとして、知れ渡っている。だが、私が知っているのはそれくらいで、この人物のことはほとんど知らない。

『何故、お前はここに来た?』

 彼はそんなことを言ってきた。

 ここにくれば、あいつと同等になれると思ったから………。ただ、それだけである。

 なのに、どうして、そんなことを言われなくてはいけないのだろうか?

『お前はあいつに宮廷魔法使いになると言ったか?あいつはお前になって欲しいと言ったか?』

 その言葉に、私は絶句するしかなかった。彼の言う“あいつ”が誰なのか、容易に想像できた。

 あいつは私が宮廷魔法使いになって欲しくはなかった?その理由は分からない。何故、彼がそんなことを言ってくるのか分からなかった。

『お前は宮廷魔法使いのことを知らずに、ここに来たのか?』

 彼はそう言って、この後に、言葉が紡がれる。

 聞きたくなかった。知りたくなかった。だけど、知ってしまった。

 この国のシステムが何処までも馬鹿げていることを………。

 宮廷魔法使いが生み出すものは負の感情しかないと言うこと………。

 そして、既に、あいつがそのシステムに食われてしまったと言うことを………。

 おそらく、このシステムのことは、国民はおろか、城で働く兵士や使用人も知らない。もしかしたら、ほとんどの宮廷魔法使いも知らないのかもしれない。

 権力を持った貴族出の魔法使いたちが宮廷魔法使いの表の顔を代表するなら、彼やあいつのような力のある魔法使いは宮廷魔法使いの裏の顔として働く。

 それがどんなに理不尽であることを知っている。

 私もそのシステムに加担することなり、自分の弟子をそのシステムに送りつけることとなった。

 それがどんな愚かしい行動だったか理解している。あの少年に恨まれても、憎まれても仕方がない。それでも、祈りたい。

 どうか、彼だけはあのシステムに喰い殺されませんように。

 そして、彼の笑顔が奪われませんように、と。


***

 黒龍さんと別れた後、どうやって自分の部屋へ戻ってきたのか、記憶にない。

 俺はのそのそとベッドに横たわり、仰向けになる。

 彼の会話が蘇る。俺は悪夢を見ているに違いない。目が覚めたら、自分の部屋のベッドにおり、いつものように、お袋が俺を起こしに来てくれる。そして、この出来事をや友人達に笑い話として語る。

「………そうだったら、いいのにな」

 流石に、夢にしてはリアルすぎるし、先ほどの恐怖が現実だと物語っている。

 俺はもうここから出ることはできないのだろうか?有休をとれば、実家に帰ることくらい出来るだろう。だが、宮廷魔法使いを辞めることが出来るのだろうか?あの彼の話しぶりだと、自発的にはやめられそうにもない。

 俺はどうやってもここから出ることは許されないのだろうか?

 すると、暗かった部屋がパッと光が点き、目を細めると、

「………珍しく、貴方は暗い顔をしています」

 青い鳥がたくさんの料理を乗せたトレイを持って、俺の部屋に入ってくる。

「………俺だって、落ち込むことくらいある」

 俺がムスッとした表情を浮かべると、

「そうですか。まあ、いいです。それより、夕食の時間です。ご飯を一緒に食べませんか?貴方は友達を作ることが苦手なので、一緒に食べる相手はいないと思っていました。だから、今日は付き合ってあげます。これは貴方が好きなオムレツです。城のコックは天才としか言いようがありません。私はこんな豪華な料理を食べたことがありません」

 こいつはそんなことを言って、料理をパクパク食べていく。

「………城のコックが作った料理がまずかったら、ここに置いて貰えるはずがないだろ」

「確かにそうです。この料理を食べることが出来ただけでも、私はとても幸せです」

 こいつはそう言っているにもかかわらず、無表情だ。こいつは表情に出すのが苦手ではあるが、感情は豊かだ。こいつの醸し出す雰囲気がコロコロと変わるのだ。

 こいつを見ていると、自然と表情が緩む。どんなに絶望な事態が起きても、こいつを見ていると、そんな風には思えなくなってしまう。本当に不思議な奴だと思う。

「………なあ、お前は宮廷魔法使いが何をするところか知っているか?」

 俺がそう尋ねると、青い鳥は手に持ったフォークを止め、

「宮廷魔法使いは、昔から、表向きはお飾り、裏は王に盾突く因子の排除する役割を担っています。こんな悪臭が今の時代で通用するのか、と疑問に思いますが」

 淡々とそう答える。やはり、こいつは知っていた上で、俺に付き合ってくれたようである。知っていたのなら、宮廷魔法使いにならないように止めることが出来たはずだが、

「知っていたのに、どうして、止めてくれなかったのかと言う表情をしています。確かに、止めるべきだったと思いました。ですが、それは無理だと言うことも分かっていました」

 青い鳥はそう言って、俺の方を見る。

「貴方が宮廷魔法使いになることを止めたら、間違いなく、赤犬さんは殺されていたでしょう。そして、彼らは貴方の身近な存在、貴方のお母さん、もしくは、幼い弟さん達を人質にして、宮廷魔法使いになるよう強要していたでしょう。貴方は赤犬さんや家族を失っても良かったですか?」

「………なっ」

 俺はあいつの言葉に絶句するしかなかった。何故、俺如きの餓鬼を手元に置いとく為に、赤犬さんを殺して、家族を人質にする必要があるのか、分からない。

「ちょっと待て。確かに、宮廷魔法使いや宮廷騎士は強いからと言って、そう簡単に殺せるはずもないし、そもそも犯罪者でもない赤犬さんを殺すことなんて………」

「さっき言いました。宮廷魔法使いは危険因子を排除することが仕事です、と。赤犬さんくらいの魔法使い相手だったら、彼一人でも簡単に殺せるでしょう。それに、彼らのバックがあれば、赤犬さんを自然死に見せかけることも可能です」

 こいつはそんなことを言ってくる。赤犬さんはトップクラスの魔法使いの一人である。そんな彼女を赤子の手を捻るようにあしらうことのできるような魔法使いなんているはずが………。そう思った瞬間、脳裏にある男の姿が過る。

「………黒龍」

 規格外の天才と言われた宮廷魔法使い。彼の実力は謎に包まれており、どれくらいの強さを持っているのか、分かっていない。

 彼なら、赤犬さんを簡単に息の根を止めることが可能かもしれない。

「彼は最強の魔法使いと言っても過言ではありません。彼ほどの魔法使いは千年に一度生まれればいい方だと思います。彼を凌駕する能力を持つ魔法使いは今のところはいません。そして、その彼は“教会”と繋がっている可能性が高いです。先代と大将の暗殺は鏡の中の支配者が行ったものですが、おそらく、黒龍がその手引きをしたと思われます」

 そうでなければ、王暗殺など出来るはずがありません、とこいつはそう断言する。

 どんな手を使ったのか分からなかったが、娼婦館に連れて行かれる際の鏡の中の支配者(スローネ)との会話で、鏡の中の支配者(スローネ)が先代の王と将軍を暗殺したのは薄々気づいていた。だが、まさか、それに先代の側近であった“黒龍”が関与していたとは思わなかった。

 一方で、納得できる部分もある。流石の鏡の中の支配者(スローネ)と言えど、眠れる龍を欺いて、先代を暗殺できるはずがないし、先代の遺言書が出てきたら、側近だった彼が偽物だと気づくだろう。

 眠れる龍が教会側の関係者なのか、教会側が眠れる龍に協力したのかは分からない。教会と眠れる龍が繋がっているのははっきりした。ただ、彼が教会に協力する理由は分からないが。

「彼がいる以上、ここから出ることは難しいと思います。ですが、私は貴方を長くここにいさせる気などさらさらありません」

 貴方が宮廷魔法使いのままにして置くと、私の趣味ができなくなります、と青い鳥は言ってくる。

 確かに、俺が宮廷魔法使いを続ける以上、休みなど滅多に取ることなどできやしない。必然的に、俺は青い鳥に付き合うことができなくなる。それは俺としては嬉しいことだが、宮廷魔法使いの仕事よりは遥かにマシだと言える。

「最終的、貴方のことを諦めて貰うつもりですが、その為には、私達が城の中の支配者でもある黒龍を倒し、彼らを屈伏させる必要があります。ですが、残念ながら、私達には黒龍を倒す準備が整っていません。今、彼に立ち向かった場合、貴方は二度と歯向かうことが出来ないようにさせられますし、私は間違いなく、殺されます」

 黒龍を倒すチャンスは一度きりしかありません、と青い鳥は言ってくる。

 俺をここへ呼び出したのは他ならぬ、王だ。黒龍としても、俺がどんな行動をとろうと、命までは取りはしないだろう。だが、青い鳥は違う。あいつは俺がここに入る条件として、宮廷騎士にした。

 青い鳥が何も行動を起こさなければ、彼らは青い鳥を排除しようとはしないだろう。だが、青い鳥が行動に出た時はその限りではない。その時、彼らは青い鳥を排除しようとするだろう。

「………なら、どうするつもりなんだ?」

 俺達二人がかりでも、倒すことは無理である黒龍相手だと言うのに、こいつは黒龍を倒すつもり満々である。こいつは無理なことはしない主義である。だが、五分五分の場合なら、勝負に出ると言う思いっきりの良さも持ちえている。

 今までだって、可能性がゼロでない限り、こいつの生まれつきの運の良さで、ひっくり返してきた。おそらく、今回も、その運で、ひっくり返そうとしているようだ。

「黒龍相手に二人で闘いを挑むことは愚の骨頂としか言いようがありません。しかも、その時、どんなトラブルが起きて、絶望な状況に追い込まれるかも分かりません。そう言った場合に備えて、私達と一緒に立ち上がってくれる同志を仲間に引き込まなければなりません。それには時間がかかるかも知れませんが、私がどうにかします。もう一つはとある人物に協力を仰がなければなりません。彼の協力を仰ぐことさえできれば、私達の勝率がかなり上がります」

「とある人物に協力を仰ぐと言うことは、そいつも一緒に戦うのか?」

 青い鳥がそこまで言うほどの実力者なら、戦力として期待できると思うが………、

「確かに、彼が一緒に戦ってくれるのなら、それ以上の心強い味方はいません。ですが、残念ながら、彼を味方として引き入れるのは無理です。彼は一応黒龍側の人間ですから、出来るとしたら、裏工作くらいです」

 青い鳥はそう断言する。

「まあ、それに関してはいいとして、その人物をどうやって、引き込むつもりだ?」

 黒龍側の人間がそう簡単に俺達の協力をしてくれるとは思えない。

「今は言うことはできませんが、彼の協力を仰ぐことが出来るか、出来ないかは貴方の頑張り次第で変わります、とだけ言っておきます」

 こいつは空っぽになった皿達をトレイに乗せ、立ち上がり、

「明日の夜、彼と接触するつもりなので、夜の外出は控えて下さい」

 部屋から出ていこうとする。

「最後に一つだけ聞かせてくれ。お前は誰を引き入れるつもりなんだ?」

 俺がそう尋ねると、こいつは振り返り、

「………かつて、“蒼狐”と言われた魔法使いに、です」

 それだけ言うと、こいつは部屋から出て行き、扉をパタンと閉める。

 あいつはさっき、何と言った?あいつや鏡の中の支配者(スローネ)の話しぶりだと、その魔法使いはもう死んでいるはずである。

 一体、あいつは誰に会わせるつもりなんだ?

一話追加。

余裕があったら、もう一話追加する予定です。

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