謳歌と怨火:孤立無縁の想いの渦1:寿小羽
扉を閉ざされ、孤立無縁となった少女は、声と向き合うことになります。
栞が姿を消したとたん、世界は真の姿を露にした。
あれほど浪々と輝いていた社は今や、月明かりのみでかろうじて門が見えるくらい。
そして、金色とともに立派に祭り上げられていた神は最早どこにもおらず、私はただのーーー廃墟に、綴じ込められていた。
そして。
「あ、あ、う、あ……」
そして、私の中で『何か』が拍動を始めていた。
ドクン、ドクン!っと、確かな重量をもって、『それ』は「内」から私を打つ。
さらには。
『あの娘、許せぬ。我らが同胞に、このような仕打ちを』『ころせ、容赦はいらぬ』『ここはどこ?なぜ、私達がこんな目に!?』『ひひひ、やっとこれで自由の身だ!』『夜がくる!夜が来るのよ!』『あのくそ野郎、馬鹿にしやがって!死ねばいいのに!』
さらには、ヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒそひ粗ひ素ヒ素……と、私を取り囲むように、声が響き渡る。何を言っているのか、全然分からない。意味なんて、全然分からない。
けれど、声は全て例外無く、何かを呪っていた。
「い、いや。なんで? なにが? いや、にいさま……! たすけて、にいさま!」
私は、どんどんと扉を叩くと、無理矢理外へと逃げ出そうとした。けれど、扉はびくともしない。傍目には今にも崩れそうな外観なのにも関わらず、それは私が外へでることを頑に拒んでいた。
『扉は開かぬか?』『扉は開かぬ』
『扉はこれでいい』『なぜか?』『開けば同胞は我らを忘れる』『そんなのかわいそう!』
『孤独とは神をも殺す毒よ』 『同胞は我らが守る』『我らは同胞が守る』
『我らは同胞のために』『同胞は我らのために』『ゆるさぬ』『ゆるすな』
『それを許すな』『はなさぬ』『はなせぬ』 『我らは一つ』 『同胞は、渡さぬ』
耳元でささやかれる声が、絶え間なく何かを呪い続ける。それは、私を守る力だ。そのことが、私には分かる。この声は、私に敵意は無い。
むしろ、彼らには私が必要だった。私が、彼らを必要としたようにーーーー?
「ちがう、ちがう!こんなの、ちがう!わたしは、わたしは!」
『あの女が生きておるぞ』『同胞の仇か?』『そう、その女よ』
『ゆるすな』『扉を開いてやれよ』『開くな、同胞は我らを手放す』
『同胞は我らを見捨てぬ』『この子は私達よ?』『あの女を殺せ』
『お兄さんを懲りずにたぶらかしてるって!』『死して尚、本性は変わらぬか』『ころせ』
『ころす、なんのために?』『同胞のためよ』『我らのためよ』『ころせ、ころせ』『死ね!しねぇぇええええ!!!』
響く、声。それは、怒号となり、扉に向かった。
二つは衝突し、大気を震わせる。びりびりびりびりと、社を振るわせ、そして、声は消滅した。
「やめて! わたし、そんなこと望んでない! だって、にいさまは、そんなこと、望んでない!
あれは、過去! 今はちがう! わたしは、だって、だって!」
『過去は母よ』『今は赤子よ』『切っても切れぬ縁よ』
『偽らないで、私達には』『わかるよ、おねぇちゃん、悔しいんだよね?』
『のうのうと生を謳歌するアノ女が』『許せぬのだろう?』
『僕たちにはわかるよ』『我らは一つ』『ともに時を過ごしたであろう?』『時が満ちたのだ』
『巡る因果に感謝を』『繰り返す命は、この時をもって証明する』
『因果応報だよね!』『罪を償わせよう』『アノ女を殺せ!』『はらわたを引きずり出せ!』
怒号はいつしか笑い声に変わり、私の周りで楽しそうに誰かを殺す話し合いを始めた。
それは耳を塞いでも、鮮明に頭に響き渡る。
「あたりまえでしょう、私の声なのよ?耳を塞いだって、声は内から生まれるものなのよ」
自分の口がひとりでに動き出し、勝手にしゃべりだした。
あまりのことにびっくりした私は、必死に耳を塞ぎながら、歯を食いしばったーーーなのに。
『ころせ、ころせ!』『目をえぐり出せ!』『脳をかき回せ!』『皮膚を生きたままはぎ取れ!』
「ぜんぶ、私の声よ?なんで、認めないの?」
『同胞は混乱しておるのだ』『兄上に引き上げられた故に』『しかし、思い出すさ』
「わたしは、認めてる。なのに、私が認めない。そんなの、おかしい」
『同胞よ、ゆるしてやれ』『ゆるすよ、僕らが』『いずれ、わかるさ』『さあ、外へ』『外へ』
「でも、扉が開かないの。どうするの?」
『力を合わせるのだ』『我らならできる』『そうだね、僕らなら出来るよ』『皆で、力を合わせるんだ!』
「さあ、力を貸して。力を、さあ、はやく!」
『同胞よ、力を』『私達の手を取って!』『外へ!』『兄上にもとへ!』『アノ女の元へ!』
「はやくしてよ、ふざけないで。私自身のことでしょう?ねぇ、はやく!」
『因果は巡る!』『さあ、はやく!』『正義を!』『鉄槌を!』『さあ!』『ははは!』『フハハ!』
声は響き、声は漏れる。どうしようもない程に声は木霊する……たすけてよ。
たすけてよ……にいさま!わたし、こんなところで・・・・・・にいさま!にいさま!
う〜ん、重い話です。
さて、次回は。
……プロット見ないと分かんないです。