↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男の服を着た女――女に戻るたび、自由がなくなった  作者: 八雲 海


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/9

第一話 兄の服

冒頭注記

本作は、実在した海賊メアリー・リードを題材としたフィクションです。

メアリー・リードの生涯、とりわけ幼少期、軍隊時代、結婚生活については、1724年刊『A General History of the Pyrates』の記述に大きく依存しており、その史実性については現在も議論があります。

本作では、裁判記録などから確認できる歴史的事実と、同書に残された伝承を下敷きにしながら、人物の会話、心理、出来事の細部について創作を加えています。

母がメアリーの髪を切った。

鋏《はさみ》の音は、思っていたより静かだった。長い髪が一房ずつ、板張りの床に落ちていく。メアリーはそれをただ見ていた。自分のものが、自分から離れて床に落ちるのを、他人事のように眺めていた。

母は何も説明しなかった。

切り終えると、木箱から男児の服を出した。継《つ》ぎの当たったシャツと、丈の合わない半ズボン。誰かが着古したものだった。

「着なさい」

メアリーは服を受け取った。生地は硬く、襟《えり》のあたりが擦《す》り切れていた。

「どうして?」

母はボタンを留めながら答えた。目は合わせなかった。

「食べていくためよ」

それだけだった。理由はそれ以上語られなかった。メアリーも、それ以上は聞かなかった。

その服は、何度も小さくなった。

そのたびに母は、別の男物をどこかから持ってきた。

*

メアリーはもう働いていた。荷を運び、怒鳴られ、時には殴られた。それでも週の終わりには、いくらかの銭が手に渡った。重さのある銭だった。

ある日、埠頭《ふとう》の前で一人の女が仕事を求めていた。監督《かんとく》はろくに顔も見ずに手を振った。

「女はいらん。帰れ」

女は何も言い返さず、来た道を戻っていった。

女を追い返したのは、メアリーに仕事をくれたのと同じ監督だった。

違ったのは、着ているものだけだった。

その日、家に帰る道で、メアリーは自分の袖《そで》に目を落とした。何かに気づいたが、それを言葉にはしなかった。

ただ、次の朝も、その次の朝も、同じ服に袖を通した。

第一話 完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。