1st
とあるSNSでそいつの名前を見つけたのは、完全な偶然だった。
別に探していたわけじゃない。SNSで本名なんか使ってる向こうが悪い。
【川瀬亮】
名前を眺めていれば、自然とかつてのクラスメイトの顔が浮かぶ。
中学の同級生だった。たぶん、当時のわたしにとっては男子の中で一番話す相手だった。だからといって、仲が良かったわけではなくて。
細くてチビっこい少年だった。女子の中でも二、三番目くらいに背が低かったわたしと同じくらいの身長だったから、当然のように男子の中では一番背が低かった。
口が悪くて、成績は良かったような気がする。同じくらい口が悪かったわたしとは、よく言い合いになっていた。
よくあることだろうけれど、卒業してから十年、ほとんど会ってない。何回か、卒業生の集まりで顔を合わせたくらいだ。
「……ふーん」
思い返すとなんとなく、じわじわと面白くなってきて、わたしは友人申請のボタンを押した。個人宛のメッセージに手早くメッセージを打ち込む。
『久しぶりー。ゆきだよ、覚えてる?』
メッセージが送られたのを確認してから、わたしはふと我に返った。いきなり声をかけたりして、何をしているのだろう。
一度送信したメッセージを取り消すことはできない。どうせ返信なんてないだろうと思うことにして、わたしはスマホをしまいこんだ。
どうせ返信なんてないだろう。そう、思っていた。
――だと、言うのに。
夕飯を食べて戻ってみれば、スマホが新着メッセージの受信を通知していた。
「いやいや、まさか」
呟きつつアプリを立ち上げる。予想に反してというべきか、予想通りというべきか、亮からのメッセージが返ってきていた。
最後に会ったのなんて数年前だし、どんな会話をしたのかも全く覚えていない。だというのに、そんなブランクなど感じさせない調子で。
『おう、久しぶり。どしたよ』
うわ、マジで返信きたよ。感心しているのか驚いているのか自分でも判らないまま、ほとんど何も考えずに返信する。
『んにゃ、別になにもー。名前見かけたから』
すぐに返信がくる。
『暇人か』
『暇人だよ、悪いか』
『社会人?』
『一応社会人。そっちは』
『俺も』
『何の仕事してんの』
『教えねー』
『いや、なんでだよ』
「いや、なんでだよ」
謎の返しに思わず声が出た。相変わらず腹の立つことしか言ってこない。
そうだ、こいつはこういうやつだった。
そんなわたしも、なんともまあ色気のない文章だけれど。これが仮にも年頃の男と女のやりとりか、と考えて可笑しくなった。
部屋に持ち込んだココアを抱え直して、スマホを前に考え込む。亮のやつも、随分と会話を続けにくい反応を返してくる。
考えながら、わたしは文字を打ち込んだ。
『紅葉の葉もいよいよ色づいて参りましたが、いかがお過ごしでしょうか』
『手紙かな??』
『皆様ますますご健勝のこととお慶び申し上げます』
『手紙だな??』
短い文面にどう返すか考えている間に、続けてメッセージが届く。
『わかった、暇なんだな。この暇人め!!』
『よくわかったな、暇なんだよ! 相手してよー雑談のネタを所望する!』
『友達いねーのかよ』
そのメッセージに、わたしはふはっと笑った。
『友達いるよー失礼な! せっかく亮の名前を見つけたから相手をしてやろうってのにーありがたくおもえー』
『誰が思うか!』
くだらないやりとりをしていると十年前に戻ったような気がして、わたしは思わず笑った。
昔もこうだった。中学の三年間、真面目な話をした覚えなんて一度もない。
『いいねー変わらんねー亮くん大好きー!』
『あっそ。大好きなら奢ってくれださい』
『奢らねーよ!!?』
一つの意味もない言葉に、一つの意味もない言葉を返す。ただこれだけのことが、とても楽しい。
こんな風にして、わたしと亮の交流は、十年ぶりに唐突に復活したのだった。
【追記20260414】
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/799770/blogkey/3616481/




