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ダークファンタジーになんてさせない、絶対させない。  作者: 学倉十吾
第2話:『ダンジョンクローラー』
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幕間:『おとなとこども』

 これはちょっとだけ過去のお話。


 裸体を晒したミナを前にして、わたしは勇気を出して制服を脱ぐと、その上に畳んだ下着も置いてから、ジャージを乗せてなんとなく隠してみる。

 場所が異世界というのもあるけれど、でなくとも気まずい。いくら同性同士とはいえ他人は他人なので、そこはまあ。

 めちゃくちゃ猫背になってる自分に惨めさを感じつつ、タオルにペットボトルの水を含ませてから、こっちに来てとミナを促す。


「触るね、いい? 冷たかったり、くすぐったかったらちゃんと言ってね?」

「ええ、お願いするわ」


 念のための了承をもらってから、濡れタオルでミナの身体を拭いてやる。


「ん……これくらいならだいじょうぶよ。意外とあたたかいわ、心地いいくらい……」

「よかったあ。持ってたお水が常温だったからさ。水分補給以外の使い道もあるかなって閃いて」


 というのも、この部屋の天井から降り続ける雨――濾過された水がかなりの冷たさだったので、さすがにこれをシャワー代わりに浴びるのはムリだったからだ。


「まあ、あっという間に空っぽだから、ボトルの水とタオルをお風呂代わりにするにしても、補給めんどいというのはあるな」


 空っぽになったミネラルウォーターのペットボトルを、リュックの中に放り込んでやる。

 ところがわたしのリュックは、仮称〈∞リュック〉なんだな。

 リュックの中身は、中に詰めこんだ当時の時間軸に戻される仕組みらしい。

 だからもう一度取りだしたペットボトルは、ちゃんと未開封の重みに戻っていた。


 さらに水をタオルに含ませてやってから、ミナの肩、乳房の下、お腹、太もも、お尻、すね――と当たり障りないポイントを手早く拭き取っていき――

 ――そこでふと我に返ったわたしは、


「あ…………えっと、へへ……そういえばさ、わたくしごときが大天使ミナさまのお身体をお清めしてもよろしかったので?」


 そう、何故に〝仲よし女子同士で洗いっこ〟的な妄想乙展開になってんだ?

 暗に「自分でやんなさい」って言ってるように聞こえたかもだけど、それはそれとしてこの子だって「ちゃんと自分でできるもん」って宣言してたよな?


「ええ、構わないわ。ミナに触れることを許します。

 ……そもそもよ、ミナに触れられるのはこの世でアサヒだけなのだから当然ですもの」

「へえ、仰せのとおりで」

「それにね、ミナとヒトの子の何が違うのかも、ちゃんと見ておいてほしいの。あなたに」

「わたしに?」


 急に見てほしいなんて言われても困惑するしかなんだけど、実際に触れていて、わたしにも気づいたところがある。

 〈天使〉であるミナの身体は、なのに人間の女の子とほとんど違いがないみたいだった。

 単に身体の構造だけじゃない。体温があるとか、呼吸して血が巡っているとか、わたしが知る限り全ての生理現象を人間と同じように備えているとか。

 人間と違うのは、触れたものを塩に変えてしまう能力。

 皮膚を衣服のように変化させる能力。

 天使の輪っかみたいな光るやつを、頭上に出せたりとか。

 で、ミナの翼は背中じゃなくて首の下あたりから生えていることに今さら気づいて、「ミナとヒトの子(=人間)の違い」とやらを知れてよかったと思ったりもして。


「ていうか、せめて石けんあればよかったのになあ」

「石けんなら、ミナがいた〈塔〉にあったわ」

「この世界だと、それなりの贅沢品みたいだね。ウチはこちらの汗拭きシートで我慢してくれい」

「これ、とても良い香りがするわ。香水かしら?」

「ふふ、これは石けんの香り」


 そう伝えてやるとミナが「??」って表情を返してきて、そのついでなのか、こっちの裸をガン見されてしまった。

 そこでミナが――訝しげと言うか、シリアスというか、とにかく見たことのない表情になって。


「…………アサヒ、あなたは大人なの? それとも子どもなの?」

「ふぇっ――――それ、ど、どどどどういう意味?」


 咄嗟の勢いで、ミナの視線から隠すべきパーツをガードしてしまう。


「ごめんなさい。これまでミナには、アサヒが子どもに見えていたの。

 けれどもあなたの体つきが大人のものだって、いま知ったから。

 ミナは認識を改める必要があるのかしら?」

「えっ……そう、なのかな………………」


 正直、わたしには過去の記憶がないから、なんて答えてあげれば適切なのかわからなかった。

 自分がまだ中学生で、年齢は十五歳で、高身長と体格のコンプレックス持ちで、同級生グループとうまく接することができなかった陰の者。

 少なくとも、クセが強くて、とても他人に好かれていたタイプの人間じゃない。

 そういう実感だけは残ってるから、わたしはまだ子どもで正解なんだろうな。


「わたしってばさ、前の世界の記憶をなくしてるからなんも言えんけど。

 前の世界にはね、ヒトの成熟度を表す単位があってさ。

 その単位で言えば、わたしは〝十五周期〟目の途中で死んじゃったみたい」


 そう伝えてみると、ミナがハッとした顔をして。

 でも年月も年齢もないこの世界で、十五歳って年齢を何とか言葉にしようとしたら、こう言うしかなかったわけ。


「大人の定義イコール成人済みって考えたらね、〝十八周期〟か〝二十周期〟か……

 ……まあ要するに、わたしゃまだまだ一人前には届かぬ未熟者、ってのが現実っすよ」


 大人びて見えるのは環境とか遺伝とかのせいで、中身はただのガキでした。とほほ。

 ところがミナが胸に飛びこんできて、苦しげな顔してこんなことを言うんだ。


「ミナがあなたにしてあげられることはあるのかしら?」


 待って、ミナってば近い近い!

 そんな上目づかいで迫られると困る、というかそんな密着されると羞恥心で死ぬ。

 しかしこの子を不安がらせるようなこと、言ったつもりなかったんだけどな。


「わたしがミナにしてほしいコトって言ったらさ、

 やっぱ〝ミナがずっと元気でいてくれること〟かな?」


 そうだ。

 この世界にわたしが転生した理由なんて、これしかない。


「だからさ、大天使ミナさまの元気で健やかなる生活のためにも、まずは清潔にならないとね」


 ミナとのお話しに慣れてきたせいもあって、ちょっぴり意地悪な言い方をしてみたり。

 だから、ミナから不平を返されるのもわかっていて、でもなんだかんだで受け入れてくれるのが彼女なので。


「うぐっ――む、むむむ…………顔は! 顔を拭くくらい、ミナは自分でできるわ!」


 つい魔が差して、CGみたいに真っ白なミナのほっぺを、むにむにと愛でてしまうのだった。


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