CASE:43 期待していた
あっという間に数週間が経った。
莉央の毎日は目まぐるしかった。
慧の後押しもあるが、やっぱり初めての案件。
不安もプレッシャーも大きかった。
それでも、頑張ろう、と思えたのは……。
『白石ならできる』
あの日の慧の言葉があったからだ。
もちろんそれだけではないけれど。
そして迎えた、重要な社内プレゼンの日。
営業部だけでなく、企画部や経営陣も出席する。
この案件の方向性を決める重要な会議だった。
莉央は緊張しながらも準備を終え、会議室へ向かった。
(大丈夫……)
何度も確認したし、資料も見直した。
(問題ない……)
そう思っていた。
会議が始まるまでは。
「こちらが市場分析データになります」
何度もシュミレーションした通りに進行する莉央。
その時、企画部長が眉をひそめる。
「白石さん」
「はい」
「この数値、前回資料と違わないか?」
「え……」
心臓が跳ねた。
画面を見て、資料を見る。
そして……。
血の気が引いた。
(違う!)
数字が違う。
本来入力するはずだった最新データではなく、修正前のデータが残っている。
しかも重要な部分だった。
会議室が静まり返る。
「も……申し訳ありません」
声が震える。
慌てて訂正しようとしたが、頭が真っ白だった。
その時。
「続きはこちらで説明します」
慧が立ち上がった。
静かな声で会議はそのまま進行した。
けれど莉央には、その後の内容がほとんど入ってこなかった。
会議終了後。
「白石」
慧に呼ばれる。
「会議室に来い」
その一言だけだった。
重い足取りで会議室へ向かう。
慧以外はもちろんいない。
ドアが閉まる音がやけに大きく聞こえる。
莉央は俯いたまま立っていた。
「今回のミスの原因は?」
慧が口を開く。
声はいつも通り冷静だった。
「確認不足です」
「なぜ確認不足になった」
「……大丈夫だと思ったからです」
「思った?」
鋭い声と視線。
莉央の肩が震える。
「営業に思い込みは不要だ」
厳しい言葉だった。
「数字一つで信用は失われる」
「……はい」
「今回は社内だったからよかった」
慧の視線が真っ直ぐ向けられる。
「だが取引先相手ならどうなっていた?」
何も言えない。
想像するだけでゾッとする。
「白石」
さらに低い声が響く。
「期待していた」
胸が痛んだ。
「……申し訳ありません」
「謝罪はいい」
慧は首を振る。
「次にどうするか考えろ」
それだけ言って慧は会議室を出て行った。
To be continued




