CASE:42 充電中
「案件、怖いか?」
慧がぽつりと聞く。
莉央は少しだけ考えた。
「……怖いです」
正直に答える。
「失敗したらどうしようとか……」
「うん」
「期待に応えられなかったらどうしようとか……」
夜風が髪を揺らす。
隣を見ると、慧は黙って話を聞いてくれていた。
「でも……でも、頑張りたいんです」
そう言うと、慧がふっと笑った。
「知ってる」
その一言が嬉しかった。
ぽん、と頭に手が乗っかった。
「莉央はよく頑張ってる」
どこまでも優しい声。
胸がじんわり熱くなる。
「まだ何も成功してないですよ」
「関係ない」
頭を撫でながら慧が言う。
「任された仕事から逃げなかった」
「……」
「それだけでも十分偉い」
莉央は思わず俯いた。
こういうところだ。
この人は。
結果だけじゃなくて、過程も見てくれる。
「ご褒美だ」
「え?」
顔を上げた瞬間、ぐいっと肩を引き寄せられた。
「ひゃっ」
気づけば慧の肩に頭を預ける形になっている。
「け、慧さん」
「充電中」
「何ですかそれ」
「俺が……」
さらっと返される。
「慧さんが?」
「うん」
低い声が耳元で響いて莉央の心臓が跳ねる。
「莉央が……仕事ばっかり見てるから」
「だって案件が」
「案件と俺、どっちが大事なんだ?」
「子供ですか」
思わず笑ってしまう。
すると慧も笑った。
少しして。
莉央はそっと慧の肩に額を預けた。
疲れていたのかもしれない。
安心したのかもしれない。
「慧さん」
「ん?」
「ありがとうございます」
素直な気持ちだった。
すると慧は少しだけ目を細める。
「まだ早い」
「え?」
「成功したら……ちゃんとしたご褒美な」
その言葉に胸が高鳴る。
「ふふ……それは楽しみですね」
「だろ?」
「じゃあ、ご褒美のためにも頑張らないと!」
「無理はするなよ」
「……善処します」
「今のは信用できないな」
「ひどい」
「事実だろ」
くすくす笑いながら、慧は莉央の髪を撫でる。
その手は優しくて、温かくて。
ずっとこうしていたくなる。
帰り際。
車に乗り込む前に、慧が不意に莉央を呼び止めた。
「莉央」
「はい?」
「一人で抱えるな」
真剣な目だった。
「案件も……」
少しだけ近づいてくる。
「不安も……」
優しく頬に触れる指先。
「ちゃんと俺を頼れ」
その距離にドキリとする。
「……はい」
小さく頷くと、慧は満足そうに笑った。
「よし」
そして。
額にそっとキスを落とした。
「今日のご褒美終了」
まるで何でもないことみたいに言うから。
莉央は真っ赤になりながら思う。
(この人は……本当にずるい……)
でも。
だから好きなのだ。
欲しい時にくれる言葉もぬくもりも。
いつも優しく包んでくれる腕も胸も。
心の中の氷が解けるように。
莉央の不安をいつだって溶かしてくれる。
そんな慧の存在すべてが愛おしいと思う莉央だった。
To be continued




