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黒瀬部長は部下を溺愛したい  作者: 桐生桜


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35/42

CASE:35 ……嫉妬した?

「……え?」


 会議室のドアを開けた瞬間、思わず固まった。

 綺麗な人だった。


 長い黒髪。

 凛としたスーツ姿。

 ヒールの音まで様になっている。

 いわゆる、仕事のできる女。


 その人は、資料を見ながら慧と話していた。


「だから言ったでしょ。あなた詰めが甘いのよ」

「うるさいな」

「相変わらず可愛くないわね」


 こんな砕けた話し方をする慧に驚く莉央。

 動揺していると、慧がこちらに気づく。


「白石。入れ」

「は、はい……」


 席につくと、その女性が私を見た。

 優しく微笑み軽く会釈までしてくれる。


「初めまして、白石さん。九条麗華(くじょうれいか)です」

「し、白石莉央です」

「そんな緊張しなくていいわよ」


 ふっと笑う姿まで完璧だった。

 しかも。

 

「昔、黒瀬くんと付き合ってた仲だから」

「…………え?」


 小声で呟かれた言葉に心臓が止まるかと思った。

 その後の打ち合わせ、正直ほとんど頭に入らなかった。


 元カノ。

 黒瀬部長の。

 しかも、こんな綺麗で仕事できて、大人の女性。

 勝てる気がしない。


 会議終了後。

 

「白石、資料まとめ頼む」

「……はい」


 返事をしたものの、たぶん顔は死んでいた。

 そんな私を見て、九条さんがくすっと笑う。


「可愛い子ね」

「え?」

「黒瀬くんが夢中になるの分かるわ」


 どくん、と胸が鳴る。


「え、あの……」

「安心しなさい。もうとっくに終わった男だから」


 さらっと言う。

 大人すぎる。


「むしろ昔より優しい顔しててびっくりしたわ」


 九条さんはちらっと慧を見る。


「昔はもっと冷たかったもの」

「余計なこと言うな」

「事実でしょ」


 慧が少し面倒そうに眉を寄せる。

 どこか入れない空気があるように感じて……。


 莉央の胸にトゲが刺さったまま帰り道へ。

 駅まで並んで歩きながら、莉央はずっと俯いていた。


「莉央」

「……はい」

「元気ないな」

「そんなことないです」

「ある」


 即答。

 図星すぎて苦しい。

 すると慧が立ち止まった。


「……嫉妬した?」


 低い声。

 優しいのに、少し楽しそう。


「……してません」

「ほんとに?」

「……だって」


 言葉が詰まる。

 比べたくないのに。

 比べてしまう。


 綺麗で。

 大人で。

 仕事もできて。

 あんな人が元恋人なんて。


「私、全然あんなふうじゃないし……」


 情けなくなって俯いた瞬間。

 ぐいっと腕を引かれた。


「っ!」


 気づけば慧の胸の中。


「慧さん……!?」


To be continued

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