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黒瀬部長は部下を溺愛したい  作者: 桐生桜


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32/33

CASE:32 好きな女には隠さない主義

 待ち合わせは、夜の駅前。

 仕事終わりの人波の中、莉央はスマホを握りながらそわそわしていた。

 すると……


「お待たせ」


 低く落ち着いた声。

 振り向いた瞬間、黒いコート姿の慧が立っていた。


「あ……っ」


 思わず息を呑む。

 シンプルな格好なのに、背が高くてスーツ姿の余韻が残ってる。

 仕事中より少しだけ柔らかい表情。

 何もかもがずるい。


「なに、その顔」

「……かっこいいなって思ってました」

「……いきなりそんなこと言う?」

「だって本当に……」


 慧は少しだけ目を細めて莉央の頭をぽん、と撫でた。


「今日の莉央も可愛い」

「……っ」


 声にならない悲鳴。


(やっぱり、敵わないな……)


 ◆


 向かった先は、高層ビルの展望ラウンジ。

 ガラスの向こうには、街の灯りが宝石みたいに広がっている。


「……わぁ……すごい……!」


 窓際へ駆け寄る莉央の後ろで、慧は静かに笑っていた。


「好きか?」

「はい。こういうの、テンション上がります」

「なら正解だったな」

「ありがとうございます、慧さん」


 満面の笑みで笑う莉央に慧は少しだけ目を細めた。


「……可愛い」

「えっ」

「いや。独り言」


 慧はそんな莉央の隣へ立つと、そっと腰に手を回した。


「……慧さん」

「ん?」

「ここ、外です……」

「夜景見てる人しかいないから平気」


 そう言いながら、慧はガラス越しの景色よりも、莉央ばかり見ている。


「そういえば今日、他部署の男に話しかけられてただろ」

「え? あ……経理の方ですか?」

「距離近かったな」

「そ、そんなこと……」

「わかってるよ。俺のただの独占欲」


 低い声……どこか拗ねている感じ。

 思わず笑ってしまった。


「嫉妬ですか?」

「うん、そう」


 即答だった。


「……慧さん、ずるいです」

「何が」

「そうやって、さらっと言うところ」

「好きな女には隠さない主義」


 そのまま手首を引かれる。


「莉央」


 名前を呼ばれる。

 優しく。

 甘く。

 視線が絡むだけで、胸が熱い。


「……そんな見ないでください」

「無理。今日ずっと思ってた」

「なにを?」

「早くふたりきりになりたいなって」

「~~~~っ!!」


 耳元で囁かれて、莉央は思わず慧のコートを掴む。


「かわいい」

「……慧さん、今日ちょっと意地悪?」

「好きな子とデートしてる男なんて、だいたいこんなもんだろ」


 そのまま、慧の指が莉央の手に絡む。

 ぎゅ、と恋人繋ぎ。

 夜景の光が、ふたりの間を優しく照らしていた。


To be continued

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