CASE:17 キス、していい?
退勤後、窓の外は雨。小さな水の音が、静かにオフィス街を包みこんでいた。
「莉央、傘ある?」
「えっと……ないかも……」
莉央が鞄をあさっていると、慧が迷いなく、持っていた傘を差し出す。
「じゃ、入って」
慧の傘は少し小さめ。自然と、ふたりの距離はぎゅっと近くなる。
(うわ……近い……)
「ありがとうございます」
雨の音にかき消されるような静けさのなかで、ふたりだけの世界が、そっと始まる。歩くたび、腕がかすかに触れる。慧は当たり前のように莉央の方へ傘を傾けて、自分の肩を濡らしながら守ってくれる。
「……なぁ」
「はい?」
立ち止まった慧が、ふっと莉央の顔をのぞき込む。髪にかかった雨粒を、指先でそっとぬぐってから……。
「キス、していい?」
「……っ!!!」
雨の音しか聞こえない静かな帰り道。小さな傘の中はふたりだけ。それなのに、そんな声で、そんな優しい目で言われたら……莉央は、コクリと小さくうなずいた。慧の手が頬に触れて、唇がそっと重なる。
それは、雨に似た静けさ。だけど、心を優しく溶かしていく熱を持っていた。
(やばい……胸くるしっ……)
キスのあと、慧は莉央の耳元でささやいた。
「かわいすぎ……このままさらってもいい?」
「……っだ、ダメです……」
「ふっ……なら今度……覚悟してて」
笑いながらそう言って、また歩き出す彼の肩は、相変わらず少しだけ濡れていた。
To be continued




