【第1話】消えた上履きの真相
僕の名前は綾瀬 陽。高校一年。
よく言われる長所は「優しいところ」。短所は「優しいけど抜けてるところ」。
……褒められてるのか貶されてるのかは、いまだに不明である。
「陽くん大変! 上履きが、ないの……!」
半泣きで駆け寄ってきたのはクラスメイトの真琴だ。
肩までの黒髪が揺れて、息も絶え絶え。よほど慌てているらしい。
「え、ええっ!? と、と、とりあえず落ち着こう!」
動揺しすぎた僕は椅子の脚に自分の足を引っかけ、
盛大に前のめりに転んだ。教室前の床に“ザラッ”と細かい砂が散った。
(あれ、なんで砂……?)
気づいたけど、意味はわからない。だから一旦スルー。
「陽くん、痛くない? ……で、あの、下駄箱にちゃんと入れたんだよ? 朝はあったのに!」
「わ、わかった。じゃあ一緒に探そ——」
言い終わる前に、真琴の靴下が汚れていることに気づいた。
薄い泥汚れが、足首あたりにうっすら。
(あれ? なんで泥……?)
また気づく。深く考えずスルー。
二人で昇降口へ向かいかけたが、途中で生活指導の先生に呼び止められた。
「おい綾瀬、廊下走るな!」
「ひぃっ、す、すみません!」
慌てて止まったら自分の膝にカバンをぶつけ、今度は変な声まで出た。
真琴に「大丈夫?」と心配されるけど、なんだか僕が犯人みたいに見られててつらい。
昇降口のドア前のマットを踏んだ瞬間、僕はまた違和感を覚える。
(あれ、濡れてない……? 今朝雨降ってたのに? 外、誰も出てないのかな?)
気づいたけど、やっぱりスルー。
真琴が自分の下駄箱を開ける。
「……やっぱり、ない」
「か、鞄の中とか? 教室とか?」
「教室は全部見たよぉ……」
そのとき、僕の視線は自然と真琴の体育バッグへ向いた。ちょっと膨らんでいる。
(なんかパンパンだな。……でも、そういう日もあるよね)
これもスルー。
でも——
胸の奥で小さな引っかかりだけが、くすぶり続けていた。
(なんか……変なんだよな。泥が……いや、気のせい?)
こうして、事件(?)の幕が上がった。




