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4話 アクアリウム②


 各自配られた書類に目を遠し、プログラムを確認した後で精霊使い総合組合の役員と名乗る人々に連れられてパレードの所定の位置につくことになった。現在の俺の立ち位置はマジックアイテムを使う魔法使いと言った所でパレードを彩る事に関してはあまり期待されていないようだ。と言うのもマジックアイテムを使用している魔法使いというのはやはりアイテムの善し悪しに左右される。鑑定団に提出される骨董品並みに希少価値の高いものしか使い物にならず、大概のアイテムは魔法使いに毛の生えた程度の力しか発揮しない。しかも俺はマジックアイテム鑑定用紙と呼ばれるアイテムの年代やデータを示す証明書を持っていなかったため、まあその辺の適当なペーペー冒険者だろうと認識されたようだ。証明書なんて貰ってない、あるのも知らない、聞いてないの三拍子だ。まあ別にまだランクも低いしその辺に転がってる人材でいい、払うものさえ払ってもらえれば。

 頭の上で小さくなってどこ吹く風と言わんばかりに話をしているアクアリウムとコンテンツを振り落とさないように頭を固定して回りをゆっくり見回した。山車の四隅に配置された4人の精霊使いの面々の後ろに配置された我らがマジックアイテム組だが、人数は3人と少ない。しかも揃いも揃って全員が本である。錫杖とか魔法の杖とかもっとそれらしいのはいないのか。

 出発の時間にはまだ早い。尚も辺りを見回していると、隣の女の子がちょいちょいとコートの裾をつついてきた。


「ね、ね、貴方ね、さっき叫んでた人?」


 興味津々といった輝く赤い目におっかなびっくり返事をすると、何が楽しいのか肩を震わせてクスクスと笑い声をあげた。ピンク色のケバケバしい色をしたツインテールがひらひらと軽やかにそよぐ。いにしえの魔女っ子を思わせるその可愛らしい少女はアイリスと名乗った。


「やだあ、結構カッコイイじゃん。ちょっと目付き悪いけどっ。ねえねえ、それドコのやつ?」


「この本?何製ってこと?」


「そうそう、あたしのはグランディスの50年ものよ!結構すごいでしょ?」


 何がすごいのかわからんが、すごいと言うからにはすごいんだろう。50年も本がそのままの形で残っている自体すごいが。


「ごめん、実はこのマジックアイテム借り物であんまり詳しくないんだ。グランディス製ってどんな感じなんだい」


「へー、そうなの。今聖都で魔力が優良なマジックアイテムだって言われてるのがグランディス製よ。今までのマジックアイテムと言えば燃費は悪いわ効果は薄いわで人気の無い分野だったんだけどね、そのグランディスの職人が研究に研究を重ねて編み出したのがこのマジックアイテムよ!」


 ババン!と効果音つきでつき出した本型のマジックアイテムは少し使い古した感があるものの、確かに繊細な刺繍がされていて芸術品の域に達している。


「これにはどんな効果が?」


「ふ・ふ・ふ、聞いて驚け〜。この本でね、空を飛べるのよ!」


 うむうむ、それからそれから?可愛らしい笑顔で目一杯アピールしているアイリスの次の言葉をじっと待つが、それ以上の申し出はないようだ。不審そうにこちらを見始めた少女に慌ててフォローを入れる。


「す、すごいな!空を飛ぶなんてそうそうできるもんじゃないぞ」


「まあ空を飛ぶと言っても少しの間だけどねっ。風の精霊使いと力のある魔法使いは息をするのと同じくらい軽々空を飛ぶらしいしこんなの軽いもんよ。ここのお坊ちゃんも将来的にはそうなるのかな。本当精霊使いって羨ましいわあ、安定した生活に高給に老後保証でしょー、あたしも今からアタックしてみようかな」


 ぽわぽわと熱のこもった視線を山車に乗っている緑髪緑目の幼い男児に向けているアイリス。それにしても飛行能力がそんな限定されたものだとは思わなかった。流石というか用意周到というか、マリオノールには【飛行】のページが存在している。そこそこ魔法も発達しているしそれくらいの技術は開発されているだろうと思ったのだが、タケコプターを再現するのは異世界でも難しい事らしいな。

 アイリスと会話が途切れたのを良いことに渡された書類を取り出してもう一度パレードの内容を確認する。

 前から剣士隊旗持ち隊魔法使い隊と続いて見習い精霊使いが乗った山車、そして我らがマジックアイテム使いと来て最後は配布隊だ。配布隊はまあ読んで字の如く観客に特製の菓子を配るのだとか。まるで昔の花嫁行列のようだ。で、それぞれがパフォーマンスしながらギルドから役所まで歩き、最後に簡単な式をして魔方陣で送る。書類には式の終了後と書いてあるが、さてどのタイミングで魔方陣に便乗させてもらおうか。駆け込み乗車ができればいいが、なるべく確実で目立たない方法を考えないと。それにしてもこう考えるとパレード最後尾は結構痛い。前の方なら無理矢理でも走って滑りこめるんだがな……。書類片手に考えこんでいると、頭の上のアクアリウムがふわふわと優雅に書類の上に降り立った。


『心配ないさ。僕はアクアリウム、マリオノールの精霊だよ。マスターはただ願いを口にするだけでいい、僕らが全て叶えてあげる』


 白い紙の上をおどけた様子でくるりと舞う。


『さあ、遠慮されるな我らがマスター。貴方のささやかな願いは何の苦痛も伴わない』


 蕩けるような声が脳に直接触れる。ショックを与えるのではなく、撫でるだけの甘い痺れを残して。刺激されているのは征服欲か支配欲か、どちらにせよ二の腕を這い上がる震えは善からなるものでないのは確かだ。流石は無駄に歳をくってるだけあって人間を煽り立てるのが上手い。


「……大精霊に会って、話したいだけだ」


 同じく飛び降りてきたコンテンツが軽やかに着地する。胸に手を当てて、いつものように微笑みを浮かべた。


『確かに承りました。私もアクアリウムも全力を尽くします、どうぞご心配なさらぬよう』


『コンテンツから聞いたよ、名もない神の事を聞きたいんだってね』


「ああ、どうしても聞き出したいんだ。聞いて探し出して、友人がどうなったのか聞くんだ。何が起こったのか、何故こうなったのか」


 当面の生きる目的と言ってもいい。全てを聞き出せたらもうマリオノールを手にして冒険者をする理由も無くなるくらいに、今はそれだけを追い続けたい。


『なるほどね。では神殿への第一段階クリアといきますか』


 アクアリウムの指差す遥か先でパレードの先頭がステッキを振り上げた。ダダン!と力強い太鼓の音が鳴り響き、パレードを構成する者達に緊張感が走る。剣士隊が剣を抜いて顔前にまっすぐ立てて構え、魔法隊とマジックアイテム組がそれぞれ準備を始める。


「あたし上から光を降らせてくるから。また後でね!」


 隣で開けた本がバラバラと凄まじい早さで捲れ、淡い光を発している。愛らしくじゃあねと手を振って、アイリスの姿がゆっくりと上昇していった。


「さて、よろしく頼む。アクア」


『あいさー。目立たないようにだね』


 アクアが笑うのと同時に2、30個程度の小さなシャボン玉が姿を現した。風に流されて次々消えては現れるシャボン玉に配布隊の面々が密やかに感嘆の声をあげる。よし、何とか大丈夫そうだ。アップテンポな曲に合わせて歩き出すパレードに、自然と感情も高ぶってくる。


「うまくいくといいな」


『大丈夫』


『ええ、絶対上手くいきますから』


 そうだ、きっと上手くやれる。パレードが成功して、問題なく神殿まで入り込んで大精霊と会って話をするまで。

 強く握りしめた右手をコンテンツの小さな手がそっと撫でていった。




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