8、再会
約束の時間が近づいたので、カーリー一人が馬車にのり、ガルシア家に向かった。
ガルシア家についたのは、昼食が終わって一休みしたくらいの時間だった。
カーリーが馬車を降りると、ガルシア家からメイドが出てきた。
「アレス様と約束をしております。カーリー・ムーアと申します」
「アレス様ですね。少々お待ちくださいませ」
メイドは一度屋敷の中に入った。
カーリーが待っていると、程なくして先ほどのメイドが戻ってきた。
「アレス様は、ただ今は剣の練習中とのことです。中庭にいらっしゃいます」
メイドはカーリーを中庭に案内した。
「アレス様、カーリー・ムーア様がいらっしゃいました」
「わかった。カーリー様、少々待って頂けますか? 今、剣の稽古を終わらせますので」
「いそぎませんから、続けてくださいませ」
アレスは剣を構えては振り下ろしていた。
その力強さに、カーリーは見とれていた。
「アレス様は、剣の大会で優勝されたことがあると伺いました。やはり、美しいですね」
「美しい? 私がですか?」
アレスは剣をしまうと、汗を拭いながらカーリーに近づいた。
「カーリー様、私は汗を流してきます。その間は兄上と一緒に居られたらいかがですか?」
「……本を渡すだけですわ」
アレスは顔をカーリーから背けると、メイドを呼んだ。
「アン、カーリー様を兄上の部屋に案内してくれ。私は汗を流してくる」
「はい、アレス様」
アンはお辞儀をしてから、カーリーに言った。
「こちらへ」
カーリーはメイドのアンに連れられて、チャーリーの部屋に向かった。
アンがドアをノックする。
「チャーリー様、カーリー様がお見えです」
「ああ! ありがとう、アン」
すぐにドアが開いた。
「カーリー様、お久しぶりです」
チャーリーの顔色が悪くなかったので、カーリーは安心した。
「チャーリー様、お約束の本をお持ち致しましたわ」
カーリーは鞄から三冊の本を取り出して、チャーリーに渡した。
「ありがとうございます。……これは童話と神話ですか?」
チャーリーは渡された本のタイトルを見てから机の上に置いた。
そして、一番上においた一冊を手に取り、パラパラとめくる。
「挿絵も素敵ですね。繊細なイラストで、可愛らしいです」
チャーリーは嬉しそうに微笑んでいる。
「私のお気に入りですわ。すこし子どもっぽいかもしれませんけれど」
カーリーはチャーリーが喜んでくれたのでホッとした。
しばらくカーリーとチャーリーはそれぞれが好きな本について、話し合っていた。
誰かが、ドアをノックした。
「はい、どうぞ」
「兄上、ずいぶん楽しそうですね。それにカーリー様も」
普段着に着替えたアレスが廊下に立っていた。
「はい、今、本の話をしておりました」
「……私はお邪魔なようですね」
アレスが笑顔で言うと、カーリーは慌てて否定した。
「そんなことありませんわ!」
カーリーは首を横に振ってから、アレスを見つめて言った。
「今日はアレス様とチャーリー様にプレゼントをお持ちしておりますの」
カーリーは鞄から小箱を二つだした。
「アレス様、チャーリー様、よろしければお召し上がり下さい」
「これは?」
アレスが小箱を観察しながらカーリーに訊ねた。
「開けてみて下さいませ」
アレスとチャーリーが小箱を開けると、甘く香ばしい匂いがした。
「これは、ジャムクッキーですか?」
チャーリーが驚いた。
「ええ。アレス様がクッキーが好きだとうかがいましたので、作ってみました」
「そうか。……ありがとう」
珍しくアレスが素直にお礼を言ったので、カーリーはにっこりと笑った。
「それではお茶の時間にしましょうか」
チャーリーがベルを鳴らすと、アンが駆けつけた。
「アン。応接室で、お茶の用意をしてくれませんか?」
「はい、チャーリー様」
そう言うとアンは急ぎ足で去って行った。
チャーリーがベッドから出て、応接間に向かおうとするとアレスは言った。
「兄上、ベッドから出て大丈夫ですか?」
「少しくらい大丈夫だよ、アレス。……心配性だな」
アレスとチャーリーの後について、カーリーも応接室に向かった。
(クッキーがお二人の口に合うと良いのだけれど……)
応接室に着くと、アンは簡単なお茶会の準備を始めていた。