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Act8-1 ある追憶~終りと始まり~

 本日十四話目で、今回より第八章となります。

 一話目は恒例です。

 なにもない荒野に風が吹き荒んでいた。


 吹き荒ぶ風の中、俺はただひとりで立ち尽くしていた。


 水も食糧も持たないまま、俺は刀を杖の代りにしていて立っていた。立つことしかできなかった。


 喉は渇き、腹も減っていた。だがそれ以上に体がぼろぼろになっていた。


 着ていた服はすっかりと血と泥にまみれてしまっていて、どこまでが傷で、どこからが返り血によるものなのか、俺自身にも判別ができなくなっていた。


 痛みは全身に走っていて、傷の有無を確認することはやはりできなかった。


 それでも必死に立っていられたのは、杖代りにしていた刀のおかげだ。


 その刀は、いまも使っている愛剣だった。


 その出自は「剣王」と謳われていた親父からの最初で最後の贈り物だった。


「いつか、私を殺しに来いベルゼ」


 俺を「送り出す」際に、親父は泣きながら言っていた。


 常に鬼のように厳しかった親父が、唯一流した涙。


 俺の前で一度だけ流した涙。あの涙はどれだけ記憶が擦り切れても忘れることはできない。


 ……どうせならべっぴんさんの涙の方が──あー、ダメだ。女の涙はもっと見たくねえ。うん、やっぱりなしだ。


 とにかく、俺の記憶の中で、擦り切れてしまった記憶の中で鮮明に思い出せるのが親父の涙とレヴィアに初めて会ったとき、そして──。


「珍しいね、兄さん」


「そうだな。子供が死にかけているなんて、ここでは日常茶飯事だが、人魔族の子供というのは珍しいな」


 ──兄貴たちに助けてもらったときのことも、また。


「うん、たいていは奴隷商人に囚われて売り飛ばされちゃうもんね」


「そのうえ、「味見」もされちまうからな。「人魔族の子供なんてきれいでいられる方がおかしい」とかなんとか言ってな。まったく人魔族だからってなんなんだっつーの」


「そうだよねぇ。だからついつい皆殺しにしても仕方がないと思うよね」


「おう。そういうわけだから、そこのおまえ、気にしなくていいぞ?」


 兄貴たちは笑っていた。兄貴たちが言っていた奴隷商人どもの返り血を浴びながら、とても楽しそうに笑っていた。


 その手の中には俺を囲んでいた奴隷商人とその手下たちの頭があった。首から下を失くした連中の髪を無造作に掴みながら、ふたりは笑っていた。


 顔立ちは幼かったが、だいぶ似ていた。髪の色は弟の方が金髪で、兄貴の方が白みのかかった金髪という違いはあった。


 そして目の色はともに紅かった。どこからどう見ても兄弟としか思えない。それも俺と同じ人魔族の兄弟だった。


「……あんたらは?」


 痛みを発する体に鞭を打ちながら、兄弟を見据える。ふたりはなにもなかったかのように名乗った。


「僕はベルセリオス」


「俺はこいつの兄のルフェルだ」


「ルフェルとベルセリオス?」


 その名前には聞き覚えがあった。


 城では剣の稽古以外にも近隣の諸国についての勉強もあった。


 その勉強の際に教えられたことに、「魔大陸」の中央にある国にして、「七王」筆頭である「竜王」陛下の十年前に揃って亡くなった子息たちがいたというのを知っていた。

 

 そのふたりの子息の名前が、ルフェルとベルセリオスだった。


 でもまさか当の本人たちというわけがない。記録では病死したということになっていた。


 だから本人たちであるわけがない。そう思いながらも、助けてもらった礼と名乗ってもらった礼への返答として俺もまた名乗っていた。


「俺の名はベルゼ。「蠅王グラトニー」の一子、と言っても信じてもらえないだろうけれど」


 人魔族の子供が箔をつけるために、「七王」の子供だと言うことはよくあることだった。


 たいていは本当の親に頭を叩かれる。


 だが俺の場合は事実だった。俺の父親は当時の「蠅王グラトニー」だった。


 でもその証拠はない。俺と親父を繋ぐものは血以外に、唯一贈られた刀だけだった。


 納得してもらえるはずもない。そう思っていたのだけど、ふたりはあっさりと信じてくれた。


 その理由を聞いて俺は頭の中が真っ白になってしまった。


 それはもう気が遠くなるほどの昔。


 当時の俺はまだ大した力もない、吼えることしかできないガキだった。


 そんな俺を救い、そしてともにいさせてくれたふたりを、俺はいつからか兄だと思うようになっていた。


 俺はもう力のないガキじゃない。そう、いまの俺は──。

 続きは十四時になります。

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