Act7-13 狩り勝負の行方と宴会と
本日二話目です。
ワイバーンの長老の息子さんと竜族の長老の息子さんがそれぞれに率いた狩り勝負は、結果から言うとワイバーン側に軍配が上がった。
理由は実に単純で竜族の長老の息子さんが大きなミスをやらかしてしまったからだね。
というのも開始するやいなや、いきなり咆哮をあげしまったんだよね、あの人。
しかもなぜか本来の竜の姿になってですよ。
どうも士気を上げようとしていたらしい。
その咆哮にほかの竜族の参加者の皆さんも同じく竜の姿に戻って咆哮してくれました。
その結果、竜族たちが向かう方面にいた獲物となる動物たちは一目散に逃げ出してしまった。それもワイバーンたちが向かう方面に。
となれば後は火を見るよりも明らかでした。
ワイバーンたちは大量の獲物を得て、竜族たちは一匹しか獲物を得られないという結果になってしまった。
その一匹の獲物がバンマーみたいな、馬と鹿のハイブリッドのような魔物であれば救いはあったけども、竜族たちが得た獲物は逃げ遅れた子兎一羽という有り様。
獲物を持って戻って来たときの竜族のみなさんの姿は完全に消沈していたもの。
意気揚々と戻って来たワイバーンのみなさんとは大違いでした。
あまりの消沈っぷりにワイバーンの長老の息子さんも勝ってしまったことを申し訳なさそうにしていたもの。
「……あ~、まぁ、その、なんだ。子兎はなかなか狩れるものではない。それを生け捕りにしたそちらの力量はなかなかのものであるな。うん。これは引き分けでいいのではないかな」
ゴンさんをちらちらと見ながら、ワイバーンの長老の息子さんは言っていた。どう考えても詭弁でしたね。
おそらくは同じく大量であることを想像していたのに、相手方がまさかの子兎一羽という結果になにを言えばいいのかわからなくなってしまったんだろうね。
だからこそ勝負を取り仕切っていたゴンさんに大岡さばきを期待していたことは明らかだった。ゴンさんに丸投げとも言えるけどね。
当のゴンさんは右手で顔を覆っていた。竜族側の失敗に、予想もしていなかった凡ミスになにも言えなかったみたいだ。
「勘弁してくださいよぉ~」
小声でゴンさんが嘆いていたのがなんとも言えませんでした。
その後、「引き分けでいいや」と開き直ったゴンさんの一言で勝負は引き分けに終わった。
狩りという面においてはワイバーン側の完全勝利だけど、お情けの分けになったんだ。
で勝負が引き分けに終わり、現在──。
「がははは、貴様らは狩りが下手であるな!」
「ふん、抜かせ! 次は我らが勝つ!」
「くくく、ではお手並み拝見といこうか」
「いまに見ておれよ!」
ワイバーンの長老の息子さんと竜族の長老の息子さんは同じ席で宴会しています。
いや宴会しているのはほかの竜族とワイバーンたちも同じだった。
みな竜族とかワイバーンとか関係なくどんちゃん騒ぎをしていた。
俺たちもその一角で宴会に混ぜてもらっている。
正確にはワイバーンの長老さん方と竜族の長老さんの席にご一緒させてもらっている。
その席でワイバーンの長老さん、黒と呼ばれているワイバーンの長老さんの息子さんと竜族の長老さんの息子さんは宴会している。酒が入っているからなのか、ふたりとも肩を組んでいた。
ワイバーンが狩ってきた獲物は半分を調理した。
調理自体は、これまた竜族とワイバーンの女性陣の合作、そこにスイーツ作りの天才であるプーレが参加したことで、場はかなり盛り上がっている。
料理を食べた人たちがみんなプーレに頭を下げに来てくれているもの。
中には「うちの息子の嫁に」とか言ってくる親御さんたちもいますけど、残念ながらプーレはすでに俺の元に売約済みなのですよ。
懇切丁寧に説明すると、そうですかと肩を落としていたのがなんとも言えなかったね。
プーレが気に入ったのか、それともプーレの作る料理が気に入ったのかはちょっと判断が付かなかったね。
さて、ワイバーンが捕まえた得物のもう半分は生け捕りだったので逃がしていた。
生け捕りをしたのは若すぎる個体だけだ。
要は産まれたばかりだったり、まだ成熟はしていない個体だったりとなんでもかんでも仕留めているわけではなかった。
「狩りとはその日の糧を得るためのもの。戦いの場とは違う。戦いの場であれば、敵であれば幼かろうが老いていようが問答無用に倒す。だが、狩りは違う。狩りは生きるために生きることができる分だけ仕留めるのだ。狩りの勝負であれば若すぎる個体でも捕まえはするが、勝負が終われば逃がすのが当然であろう。彼ら同様に我らもまたこの大地に生かされているのだ。この大地に生かされている以上、必要以上の獲物を得ることはせぬ」
ワイバーンの長老の息子さんは、なかなかしっかりとした考えをしていた。
逆に竜族の長老の息子さんは考え込んでいた。
ワイバーンたちがする狩りなんて一度も考えていなかったと顔には書いてあった。
竜族とワイバーンとでは体格に差があるからこその違いだと思うけどね。
でも総合的に見れば、ワイバーンの考え方が正しい。
どんな生き物であっても生まれてすぐに成熟するわけじゃない。時間をかけて大きくなる。
そして成熟した生き物は次代の担い手となる子供をもうける。その子もまた成熟すれば、子供をもうける。そんなサイクルを生き物は昔から繰り返してきた。
ワイバーンはそのサイクルに則って狩りをし、竜族はそれを無視していた。どちらが生き残りやすいかは考えるまでもない。
竜族というなまじ力を持つ種族がゆえの落とし穴ってところかな?
「そうですねぇ~。竜族はみんな自分の力を誇りすぎなんですよぉ~。それでいて思考に柔軟性の欠片もないから、いつも他者を見下していてぇ~。つまらないですよねぇ~」
しみじみとサラさんが出された料理をパクつきながら憤慨している。
ワイバーンに同族が負けたことを怒っているようにも見えるけど、実際は違うんだろうなぁ。
「……サラさんが家出をしたのはそれが理由?」
「……そうですね。姉様の補佐役は大変ですが、楽しかったです。でも竜族が竜族として生きる姿がとてもつまらないものに感じられました。そんなものよりも姉様が寝物語代わりに語ってくれた外の世界の方が私にはとても面白く、そして素晴らしく感じられましたよ。だからこそ「旦那さま」にもお会いできましたから。ぴた」
俺の右腕を取りながらサラさんは満足げです。
代わりにレアとプーレが不満そうだけども。
「パパは本当に優柔不断だよね。だからいつも困っちゃうんだよ」
やれやれとため息混じりに骨付き肉を両手に持つシリウスちゃん。
骨付き肉にかじりついてとてもご満悦な模様です。
うん。たしかにシリウスの言うとおりではある。
言うとおりではあるんだが、ひとついいだろうか?
「そういう君はパパのお膝の上でなにをしているのかな?」
「わぅ。ごはん食べている」
「いや、見りゃわかるからね」
俺が言いたいのはそういうことじゃねえ。
いやパパとしては嬉しいですよ?
普段はツンデレさんなシリウスがパパの膝の上でご飯食べてくれているんだもの。
グレーウルフ時代でもこんなことはしてくれなかったもの。
基本的にママたちの膝の上でご飯を食べていたからね、当時のシリウスは。
たまにはパパの膝の上でもと言ったことは数えきれないくらいあるけど、すべて「や」の一点張りでしたね。
あれは地味に傷ついたなぁ。
でもいまはパパの膝の上にいてくれる。
あぁどうしてこうもかわいいのだよ、シリウスは!
「わぅん。パパ、ウザいしキモい」
ぐさりと言葉のナイフが心に刺さるぜ。
でも負けないもん。パパだもん!
「……補佐役様のご亭主様は、なんとも、その個性的ですね」
黒さんがかなりオブラートに包んだコメントをくださいました。
個性的ってすべてが誉め言葉じゃないよねとはあえて言いません。便利だよね、個性的って言葉はさ。
「そういえばワイバーンの」
「なんだ、竜族の」
「狩場は貴様らと併用するが、くれぐれも「禁足地」には入らぬようにな」
「なんだ、この国にもあるのか。もしや近いのか?」
「うむ。少し離れた山が丸ごとな」
「それはまた広いな。ほかの国の「禁足地」であれば、せいぜい街ひとつぶんくらいなのだが」
「我はほかの国のは知らぬが、ほかの国はその程度なのか」
黒さんの息子さんと長老の息子さんは世間話のような体で話を進めている。
いまはあの国にはこういう獲物がいて、という国による違いを話し合っていた。
でもその話は俺にはどうでもいい。
気になるのは、それまでにふたりが話していた「禁足地」という言葉だ。
意味合いから考えれば足を踏み入れてはいけない土地ってことなんだろうけれど、黒さんの息子さんの話だとほかに国にも「禁足地」とやらは存在しているみたいだね。
でも具体的に「禁足地」ってどんな場所なんだろう?
「ベルフェさん。「禁足地」ってなんですか?」
この国の王様であるベルフェさんに、プーレの料理に舌鼓を打っていたベルフェさんに思い切って尋ねると、ベルフェさんは食べるのをやめて真剣な目で俺を見つめると──。
「ひんほくふぃっへひふのふぁ──」
「あの、せめて口に入れた物を飲み込んでからお願いします」
──ハムスターみたく頬袋を作ったかのような顔で説明をしようとしてくれた。シリウスの教育に悪いから勘弁してほしいぜ。
続きは明日です。
十六時に更新できるかな?




