Act7-11 鶴の一声ならぬシリウスの一声
……またひとつ歳を重ねてしまった。
一年って早いですよねぇ~←しみじみ
まぁ、それはさておき。
ちょっと展開を速めてみました。
速すぎるのもどうかとは思うけど、まぁ、いいかなと。
「だから言っているだろうが! こちらには傷を負ったものも多くいるんだ! その分食糧は多く確保したいと!」
「バカを言うな! それは貴様らが勝手に攻め込んできたからだろうが! だいたいそれを言うのであれば、こちらとて貴様らとの小競り合いで傷を負った者がいる! まだ産まれたばかりの赤子や育ち盛りの子供だっている! 我らの方が多く食糧を得るのは当然のことだ!」
所かわって、ワイバーンと竜族が住まう山の一角に、怒号が飛び通っている。
怒号の主はワイバーンの長老の息子さんと竜族の長老の息子さんだった。
ふたりの周囲には取り巻きのような形で、それぞれの種族で人化できる個体が集まっている。
こうして見ると竜族とワイバーンでは、人化の術の精度はだいぶ異なるみたいだね。
竜族は通常の人間とは少し差異があるけど、ぱっと見では竜人にしか見えない。
サラさんが竜人ではなく竜族だと、誰にも気づかれなかった理由がよくわかる。
竜族はほかの種族に比べて人化の術が上手なんだろうね。
ワイバーンは逆に人化の術がそこまで得意ではないんだろう。
ワイバーンの長老さんの息子さん同様にところどころで鱗が見えるし、人によっては顔がワイバーンのままな人もいる。完全に人化の術が使える竜族と不完全にしか使えないワイバーン。
こういうところでもワイバーンが竜族に格下と思われている理由なんだろうな。
竜族は竜族で少し選民思想が強いのかな? サラさんやゴンさんからはそんな感じは一切しない。
もしかしたらワイバーンだけにはそういう風に見てしまうのかもしれないな。
竜族ではないけど、亜竜と呼ばれているのが気に食わないとかそういうことなのかもしれない。
今度サラさんに聞いてみようかな?
まぁいまはそのことよりも、だ。
「子供など少しの食糧だけで十分であろうが!」
「なにを抜かすか! 子供を大切にしない種族など滅ぶだけであろうが!」
「強き者が生き、弱き者は淘汰される! それが自然の掟であろう! たしかに子供がいなければ群れは形成できぬが、強き者やその素質がある者だけが生き残ればよい! よりよい才と素質がある者たちが次代を背負えばよいのだ!」
「野蛮な。これだからトビトカゲは!」
「人の考えに染まりすぎた者どもがなにを言うか!」
竜族とワイバーン。それぞれの長老の息子さん方の考えは平行線を辿るばかりのようだ。
言っていることはどちらも間違いではないんだけどね。
片や過保護、片や選民思想すぎるけども。
子供を大切にするのはたしかに大事なことだ。
子供は未来を作るんだ。その子供を蔑ろにするということは、未来への放棄と同意義だもの。
でもやり過ぎれば、親がなんでもしてくれるので、自分ではなにもしないし、できない子供に成長しかねない。言うなれば子供に甘すぎるんだよね。
かといっていくら自然界が弱肉強食の世だとしても、どんなに強い存在でも勝てないものはたしかにある。
上位の種族であったり、圧倒的強者であったり、はたまた流行り病であったりと様々だ。
その折々で選ばれた強者が死んでしまったら、下手すれば群れが壊滅しかねない。
それこそ群れの長だけが残るという最悪の結果になりかねない。言うなれば考え方が凝り固まりすぎている。
どちらにもいいところはあるだろうけど、このふたりのやり方だと悪い部分が目立ちすぎている。
ベストではなく、ベターな答えを選んでいるように思える。
現実的には、ベストな答えなんて選べるわけもないけどね。
時間を掛けられれば、ベストな答えを撰べると思う。
でも現実にはベストな答えを選んでいる時間なんてない。
中にはベストな答えを選べる人もいるだろけど、そういう人を「天才」と言うんだろうなと俺は思う。
けど「天才」なんて早々いるわけがないのだから、よりベストに近いベターをいかに選択できるかが問題になる。
このふたりもベターな答えを選んでいるのだけども、後々問題になりそうなものを選んでもいるのが厄介なんだよなぁ。
そしてそのことに一切気づいていないうえ、お互いの取り巻きどもが囃し立てる。
うん。これはたしかにベルフェさんも疲れるよね。
たぶん、どちらかに有利なことを言えば、もう片方が騒ぎ立てるだけだろうから、中立の立場に立つしかなくなる。
そのことをどちらも非難するんだろうね。
どちらの味方なのかと。
そんなのどっちでもないよ、と言っているんだろうけど、たぶんこいつら話を聞かないと思う。
竜族は竜族で、ワイバーンはワイバーンで言いたいことを言い募るだけ。あとはすべて王であるベルフェさん任せと来た。
しかもベルフェさんが決めたことに問答無用に申し立てをする。
トカゲジジイが一喝するのも当然だわな。
「相変わらずだなぁ」
俺たちと一緒に竜族とワイバーンの住まう山に来ているベルフェさんは、疲れた顔をしている。
どうやらこの光景は日常茶飯事みたいだ。
そしてこの程度のことでわざわざ王であるベルフェさんをこいつらは呼んだみたいだ。
「嘗めきっていません? このトカゲども」
「……その自覚もないだろうね」
「……御愁傷様です」
「言わないで。悲しくなるから」
ベルフェさんが何度目かになるため息を吐いている。
なのにトカゲどもは不平不満ばかり言っている。
「努力する人は希望を語り、怠ける人は不満を語る、か」
「なにそれ?」
「あぁ、俺の世界の作家さんの言葉です」
不平不満を言う人ほどなにもしていないことが多く、希望を語れば努力する原動力になるという意味らしい。
和樹兄が教えてくれた名言だった。
実際希望を語れば、実現のためになにが必要なのかを考えられるし、実現のために必要なことに誰かが手助けしてくれることもあるからね。
他力本願とも言えなくないけれど、結果的に実現できるのであれば、自力だろうが他力だろうが関係ない。
あれこれと手を招いた結果、なにもできないよりかははるかにましだもの。
だからこそ希望を語るのは大事なことだった。
その点から言うとこいつらは不平不満しか言っていない。
自分たちではどうにもできないみたいな言い方をしているけども、本当にそうなのかな?
やりようはいくらでもあると思うけどね。
竜族とワイバーンで同じ山に住んでいるのも、ワイバーンを見張るためということだろうし。
いくら恭順したとは言え、もともと攻め込んできた相手をそう簡単に信用できるわけがなかった。
だからこそ見張り役は必要なわけだ。そんなことは恭順した時点でわかりきっているんだから、その事で不満を言うのはおかしいよな。
竜族にしたって一国の王が見張りを頼まれたのに、いまさら不満を言うなという話だよ。
ベルフェさんなら不満があれば、その不満を口にしていいとか言うと思うんだよね。
なのに後になってやっぱり嫌ですは筋が通らない。
俺にしてみたらどっちもどっちとしか思えないよ。
「それでも相手をされるんですか?」
「まぁ、それがボクの責任だからね。仕方がないさ」
ベルフェさんは笑っている。無理をしているようにも見えるけど、たしかに笑っていた。
強いなぁと心の底から思えてならない。そんなベルフェさんに比べて──。
「本当に貴様とは意見が合わん!」
「それはこちらのセリフだ!」
──このトカゲども、まだ言い争っていやがる。
本当にどうしたものやら。
「わぅん。おじちゃんたち。そんなにいがみ合うならさ、勝負して白黒つければいいじゃん」
トカゲどものいがみ合いを見ていたシリウスの言葉にトカゲどもは「それだ」と声を揃えてくれた。弦の一声ならぬシリウスの一声ってところかね。しっかし──
「やっぱりあんたら仲いいだろう」
──いがみ合っていたのに、いきなり声をそろえられたところを見るかぎり、仲がいいとしか思えないよ。思わず突っ込んでしまったけど、無理もないと思うんだよね。




