Act6-106 それから
本日九話目です。
「狼王祭」はその後何事もなく終了した。
アンデッド兵たちの襲撃によって傷を負った人たちは、重軽症合わせて数えきれないほどいたけれど、奇跡的に死者は出なかった。
いや死者が出ないようにデウスさんたちが立ちまわったんだと思う。
実際最初のモニターでデウスさんは言っていた。
ケルちゃんさんの一族がって。おそらくはもともと今回の襲撃をデウスさんは予知していたんだと思う。だからこそケルちゃんさんたちを出動させたんだ。
これはタマちゃんに教えてもらったんだけど、ケルちゃんさんたち一族は大半が人化の術を使えるらしい。
そのうえ全員がシーフ系の能力を磨いているそうだった。
普段はそれぞれの任地で人知れず行動をしているそうなのだけど、「狼王祭」ではほぼ全員が「ラスト」に集まり、不穏分子が事を起こすのを未然に防ぐように行動しているんだ。
ケルちゃんさんはその元締めとして「ラスト」に常駐しているそうだ。
つまりは御庭番みたいなことをケルちゃんさんたちはしているってことだった。以前に言っていたデウスさんの「目」というのはケルちゃんさんたちのことを指しているみたいだ。
でも今回の襲撃はタマちゃん曰く、想定していたものとは違っていたそうだ。
「デウス様は以前からこの国の貴族の数名が叛乱を起こすと考えていました。そして今回その貴族が行動を起こすとケルちゃん様たちが掴んだのです。でも実際に行動を起こしたのは別の軍でした。それはデウス様にとって想定外のことだったでしょうけど、もともと今回の「狼王祭」では襲撃者たちを「余興」の演者に仕立て上げるつもりでしたから、別の軍であろうともやることは変わらなかったのです。ただあまりにも正体が不明すぎでしたし、想定よりも早くことを起こされてしまって多少後手に回ったのは否めないんでしょうが」
タマちゃんは今回の襲撃についてのことを事細かに話してくれた。こういうのってわりと守秘義務があると思うのだけど、タマちゃんはお構いなしに話してくれた。
もともとタマちゃんもケルちゃんさんたちの手伝いとして駆り出されるはずだったらしいけれど、今回は俺たちの側に回って、アンデッド兵たちを駆逐してくれた。
ただその戦闘方法はどう見てもEKOでのそれと同じだった。
そもそもなんでこの世界でもおたまとフライパンを使っているのやら。
そこは普通に剣を使えばいいのに。まぁ、タマちゃんらしいことだからいいかな。
「とにかく今回死者がひとりも出なかったのは、デウス様が事前に手を回されていたのと、レンさんたち協力者さん方の尽力あってこそです」
タマちゃんはそう言って笑っていた。その笑顔は作り物ではなく、心の底からの笑顔だった。それがどういう意味なのか確かめようはない。
確かめようとしても、タマちゃんは答えてくれないだろうから。だから俺はなにも言わなかった。うん、あくまでも俺はですけど。
『むぅ~? なんであの子はあんな清々しい顔で笑っているのです? 話を聞く限りだと狼王に捨てられたのですよね? なのになんであんな顏で?』
俺の中にいる恋香は理解できないというように捲し立てるように尋ねてきた。恋香はいろいろと知っているけれど、こういうことに関してはだいぶ疎いみたいだ。
『いろいろとあるんだよ、恋香』
『いろいろですか』
むぅと唸りながら、恋香はわかったような、わからないような。なんとも言えない声で唸り続けていた。
声は俺の声そのものなのだけど、言動がいろいろと残念なうえに幼いところも多々見えていた。
だからなのかな。恋香のことを妹のように感じられるようになっていた。妹とは言っても愚妹だけどね。
まぁ、ダメな子ほどかわいいとも言いますから、そこまで邪険にする気はない。あくまでもうちの嫁に手を出さない限りはね。
あ、そうだ。恋香のことは、すでにみんなには話していた。
最初は「なにを言っているんだ、こいつ」みたいな顔をされたのだけど、恋香に全員と念話を繋げたうえで挨拶するように促すと──。
『初めまして、恋香です。早速ですけど、服を脱いでください、プーレ』
「ふぇ!?」
ロケットスタートすぎる挨拶をしてくれました。ノータイムで俺が突っ込んだのは言うまでもありません。そのやり取りのおかげで恋香が俺の別人格であることはみんなにわかってもらえたみたいだ。
「いくらパパがスケベでもこんな変態みたいなことは言わないの」
シリウスがみんなの気持ちを代弁するように、はっきりと言ってくれました。
俺と恋香を区別してくれたことは素直に嬉しい。
嬉しいけれど、なんだろうね、あの釈然としない区別の仕方は。
というか地味に傷つくことをシリウスが言ってくれましたけど、愛娘のツンデレはパパにとってはご褒美だからなんの問題もありません。
……嘘です。ほんのちょっぴりだけ傷つきました。
俺ってばシリウスにもスケベとか思われているんだね。すごくショックです。
カッコいいパパを目指していたはずだったのに、いつからそんなありがたくない称号を得ることになったのやら。本当に解せません。
『むぅ、誰が変態ですか。私がプーレに服を脱いでほしいのはきちんと理由があったうえでですね』
「黙っていろ、脳内ピンク」
恋香は言い訳を口にしていたけれど、そんなことは無視だ。どうせあほなことを抜かすだけなのだから、聞くだけ無駄だ。
『むぅ~。いいですよーだ。後になって「ごめんなさい」をしない限りは教えませんからね』
恋香は図星だったからなのか、へそを曲げてしまったけれど、謝れば理由は教えてくれるみたいだ。変なところで人がいいのはいったい誰に似たのやら。
まぁ、謝るほどのことでもないし、そのうち暇ができれば聞く程度でいいと思う。
そうして「狼王祭」での後始末もどうにか終わった頃には、「ラスト」での滞在は二か月近くになり、そろそろお暇しようと考えていた、そんなときだった。
「デウスさんが?」
「はい。なにやらお話があるとのことでした」
借りていたウィークリーハウスの更新をしようかどうか考えていたところに、デウスさんからの呼び出しがあった。
呼び出しに来たのはデウスさんのところのメイドさんのひとりだった。
タマちゃん曰くタマちゃんの先輩にあたる人らしい。メイドさん方の中でもそれなりの地位にいる人だそうだ。
そんな人をわざわざ使いに出す。
それほどの用事とはなんなんだろう。俺は首を傾げつつ、デウスさんの城へと登城することにしたんだ。
でもそれがまた新しい厄介ごとを呼び込むことになるとは、このときの俺は思ってもいなかった。
続きは二十一時になります。




