Act6-105 ラスティアングラス
本日八話目です。
デウスさんが大々的に宣伝を始めたのは、俺たちが作り上げた透明なグラスだった。
「これなるものは「ラスティアングラス」と言う。その名の通り、ここ「ラスト」の新しい名産品として作り上げたものじゃ」
デウスさんは見えるように透明なグラスこと「ラスティアングラス」を掲げる。
「ラスティアングラス」はその名の通り、ここ「ラスト」の名産品として作り上げたものだから、「ラスティアングラス」でもいいんだけど、デウスさんは俺たちに一切相談せずに名前をつけてくれましたよ。
「ふむ。この街で作り上げたのじゃから、「ラスティアングラス」じゃな。うむうむ、よい名じゃのぅ」
パタパタと扇を扇ぎながら、デウスさんは有無を言わさぬように、セレンさんの工房でにこりと笑っていましたね。
「文句ねえよな?」と言外で仰っていたのはたぶん間違いじゃないと思う。
そんなデウスさんに俺たちはなにも言うことができませんでしたね。
おかげでなし崩し的に透明なグラスは「ラスティアングラス」となったんだ。
まぁ、名称なんてどうでもいいけどさ。なんとなく納得がいかない気がしてならなかったけどね。
でもこうしてデウスさんの声で聴いてみると、「ラスティアングラス」という名称は悪くなかった。
というか「ラスティアングラス」以上の名前は思いつかなかったかなと思うよ。
デウスさんはああ見えてネーミングセンスもあるんだなぁとしみじみと思いました。
で、その「ラスティアングラス」は現在あの上空に浮かぶモニターで映し出されています。
掲げるだけじゃ見えないからだろうけれど、おかげでより一層その魅力を伝えやすくなっていた。
「いまはなにも注いでおらぬが、こうするとじゃ」
デウスさんはアイテムボックスから酒瓶を取り出し、グラスへと注いでいく。
グラスに注がれるのは黄金色の酒だ。
スパークリング系の酒なのか、炭酸の気泡がはっきりと見えた。
その気泡と酒本来の黄金色、そして月と星の光が重なり合い、神秘的な光景をかもちだしていた。
「美しい」
誰が最初に言ったのかはわからない。
でも言いたくなる気持ちはわかる。そう洩らしてしまうほどにその光景はきれいだった。
誰もが息を呑みながら、グラスと酒、そして星月の光が合わさった光景を眺めていく。
時が止まったかのような静寂が「ラスト」の街に広がっていく。
「この美しさはとある職人たちの努力によって為せたものじゃ。その努力の成果を踏まえて妾は宣言しよう。このグラスを作り上げた中心となった職人。すなわちセレン工房の主セレンを我が国の王宮鍛冶師に任命する」
デウスさんのひと言で次にモニターに映し出されたのは、困惑顔のセレンさんだった。
セレンさんはデウスさんのそばに控えていたみたいで、困惑するセレンさんをデウスさんがとても楽しそうに見つめている。
「へ、陛下。私などは」
「なんじゃ? 妾が直々に任命してやっているのに、断るつもりかえ?」
「い、いえ、そのような。し、しかしですね。この国にはすでに立派な王宮鍛冶師が」
「ああ、そのことじゃが、先代の王宮鍛冶師は辞職した」
「は?」
「ゆえにこの国にいま王宮鍛冶師はおらぬ。そして妾はこの美しいグラスを作り上げたそなたの腕を認めた。であればじゃ。そなたが今代の王宮鍛冶師になるのに不都合はなにもなかろう?」
セレンさんはあまりの衝撃になにも言えなくなってしまっていた。そんなセレンさんを見て、喉の奥を鳴らすようにしてヴァンさんは俺の隣で笑っている。
「……いったいいつのまに辞職したんですか?」
「ん~? もともと根無し草の風来坊だからなぁ。王宮勤めなんざ性に合わねえのよ。あとほかにいい職場を見つけられしたなぁ」
ヴァンさんはニコニコと笑いながら俺を見つめていた。……どうやら次の職場としてうちのギルドを選んだみたいですね。
いったいなんでうちを次の職場として選んだのかはさっぱりわかりませんけどね。
「デウスさんもよく許したもんだ」
「ん~。それがなぁ。俺もごねられると思ったんだが、あっさりと認めてもらったよ」
「え? そうなんですか?」
「ああ。ただ条件付きだがな」
そう言ってヴァンさんはタマちゃんを見やる。タマちゃんは俺たちの声が聞こえていない。ただぼんやりとデウスさんを見つめている。デウスさんを見るその目には光るものがあった。
「……あの嬢ちゃんの面倒を見てやってほしいって言われたよ。自分はそばにいられないけれど、自分の目の代りとしてあの嬢ちゃんを見守っていてほしい、ってな」
タマちゃんに聞こえないように、小声でヴァンさんは事情を話してくれる。その内容はデウスさんらしくない。というか俺が知っているデウスさんでは決して言わない言葉だった。
「……デウスさんも?」
「さぁな。俺は誰かを好きになったことなんてねえから、あの人がなにを考えて、なにを思ってそう言ったのかまではわからねえ。ただあの人はあの人なりにあの嬢ちゃんのことを案じているんだろうなぁ」
モニターに映るデウスさんはいつも通りのあの人だった。
でもあの人がヴァンさんへと告げた言葉は、俺の知っているあの人のそれとはまるで違っている。
タマちゃんはなにも言わずに虚空に映るデウスさんを見やる。その目に宿る感情がなんなのかは考えるまでもない。
「さぁ、これより任命式とそして「ラスティアングラス」の初回生産品の予約を始める。代金はひとつにつき金貨一枚じゃ。欲っする者は列を為し、名を告げよ」
デウスさんは扇を扇ぎながら笑っている。
妖艶な笑み。でもその笑みはいつもとはなにか違う。
目に宿る光がどこか違っていた。そんなデウスさんをタマちゃんはじっと見つめていた。その横顔を俺はただ見つめたんだ。
続きは二十時になります。




