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Act6-104 したかかな王さま

 本日七話目です。

 その後、「狼王祭」はなんやかんやで大盛況に終わった。


 普通はあんな襲撃があったら中止しそうなものだけど、そこはさすがのデウスさんだった。


「皆の者、「余興」は楽しんでおるかの?」


 突如空の上にモニターのような画面が浮かび上がったと思ったら、そこにはデウスさんの姿が。


 大混乱の中にあった住民が上空のデウスさんを見やっていた。そんな民衆に向かってデウスさんは言った。


「現在謎の黒騎士どもが「ラスト」の中を闊歩しておる。だが案ずるな。それは今回の「狼王祭」における「余興」のひとつである!」


 その宣言とともにまた別のモニターが上空に浮かんだ。


 無駄に大きな効果音とやけにカッコいいBGMが「ラスト」中に流れましたね。


 そのモニターには撃破数とか、ランキングとか、賞品とかいろいろと書かれていました。


 そのふたつに住民のみなさんはぽかーんとしていましたね。


 同じく闊歩していたアンデッド兵たちもぽかーんとしていました。


 アンデッド兵の一部は「奴はなにを言っているんだ?」とかぼやいていましたからね。


 だけどアンデッド兵のみなさんには理解できずとも俺には理解できてしまったよ。


 この人この状況さえも利用する気だとね。


 実際に「余興」だと言ったことで、住民のみなさんの混乱は少しだけ解れていたし。


 ただ混乱が解れたところで、「ラスト」が襲撃されていることには変わりなかったし、死人だって出ているはずだ。それをどうやって納得させるのかと思ったら──。


「ただし黒騎士どもは刃つぶしの武器ではなく、真剣の武器を持っておる。我こそはと思う者、腕に覚えがある者は揮って参加せよ。それ以外の者は速やかに王宮へと避難じゃ。道中の無事は我がペットであるケルの一族が請け負う。よって速やかかつ慌てずに行動せよ。安心するといい」


 まさかのそのままのことをおっしゃりましたね、あの王さまは。


 ただそれがかえってよかったのかもしれない。


 住民のみなさんはデウスさんの言葉によって冷静になったみたいだ。


 むしろ王宮で高みの見物をしようという人たちさえ現れる始末。


 俺からしてみればデウスさんの言葉は明らかな詭弁なのだけど、住民のみなさんはデウスさんの言葉を疑いもしなかった。


 むしろ他国から来た観光者さんたちに声をかけて安心させてさえいたもの。


 なんというかすごく手慣れているというか、デウスさんを信じ切っている様子だった。


「陛下が「安心しろ」と言われたんだ。ならもう大丈夫さ」


「陛下のお言葉を信じていればいいよ。あの方は辛辣なことを言うが、嘘は吐かないからねぇ」


「陛下を信じてさっさと行くぞ」


 そんな言葉が次々に聞こえていた。


「ラスト」に住む住民のみなさんはデウスさんを完全に信頼していた。わりと辛辣なことを言うあの人をだ。


 逆に言えば辛辣なことを言う人でも信頼できるなにかがあるということ。


 具体的になにをしたのかはわからない。


 でもあの光景があったのは、デウスさんがその人生のすべてを懸けて、国に尽くしてきたから。


 その想いを「ラスト」の住民のみなさんは知っている。


 デウスさんの頑張りを知っているから。


 だからこそ住人のみなさんはデウスさんの言葉を疑わない。


 疑わずにその言葉の通りに行動をしていた。


 簡単なようであって、すごく難しいことだ。


 王が王として在るのは、実際そんなに難しいことじゃない。


 だって玉座に座ってふんぞり返っていればいいだけでも、王は王として在れるんだ。


 難しいのは王として在りつつも、いかに王としての職務を果たせるのか。


 国を豊かにし、民を笑顔にする。それが王としての職務。中にはそれを否定する王もいるだろう。


 けれど俺が知っている王は、俺がいままで会ってきた王はみんなそんな王だった。


 ……まぁ、ひとりだけあからさまに自分の欲望のために王をやっているのもいたけれど、それ以外の王はみんな国のために自分がなにを為せるのかを常に考えていた。


 レアだって普段はR指定なことばかり考えているけれど、その実王としての職務をきちんと果たしている。


 でなければ、ほぼ関わり合いなどないはずの屋台の人たちのことなんて憶えているわけがない。


 誰からも愛されるような王になれるわけがない。


 それはプライドさんやマモンさんも同じだ。


 あのふたりもまた自分の存在すべてを懸けて国のために尽くしていた。


 そんな王だからこそ住民のみなさんはみんなあのふたりを尊敬し、そして愛していた。


 それはデウスさんも同じだったんだ。ちょっとわかりづらいけれど、あの人がどういう人なのかを誰もが理解していた。


 だからこそ誰も疑わない。誰もがあの人を信じ、ついていく。それはたしかに王という超越者らしい姿だった。


「さすがはデウス様ですね」


 タマちゃんは寂しそうに呟きつつも、アンデッド兵の撃破を手伝ってくれた。手伝いながらもタマちゃんはデウスさんがなんであんなことを言ったのかの説明をしてくれた。


「あれはあくまでもポーズですよ」


「ポーズ?」


「ええ。「匿うからさっさと城へと逃げてこい。だが安心しろ。必ず助けてみせる」とあの方はそうおっしゃったんですよ。それは住民のみなさんもわかっていることです。わかったうえで明るく振る舞っているんですよ。デウス様を心の底から信じているから。あの方が「安心しろ」と言うのであれば、その言葉を信じる。それが「狼の王国」、特に「ラスト」の住民が何世代も受け継いできたことですから」


 タマちゃんはどこか誇らしげに笑っていた。笑いつつも、その笑顔はやはり悲しそうなものだった。


『ふむ。狼王とそういうことができなかったことが残念なんですかね?』


 どこぞの脳内ピンクがあほなことを抜かしてくれました。「黙っていろ」と言うと脳内ピンクはギャーギャーと騒いでいたけど、すべて無視しました。


 恋香のことはまだ誰にも話してはいないということもあるけれど、単純に恋香が口にした内容があまりにも空気を読まなさすぎていたからね。


 恋香らしいと言えば、恋香らしいのだけど、それでも言っていることはあんまりすぎた。もうちょっとタマちゃんの気持ちを考えろと言っておいたけど、たぶん考えそうにないよなぁ、恋香は。


 とにかくデウスさんの言葉の裏に隠されていた想いはわかった。


 そしてそれが周知されていることもまたね。なんだかんだと言いつつも、デウスさんは民を愛する王さまなんだなというのがよくわかったよ。


 ただデウスさんはやっぱりデウスさんだった。なにせ──。


「さぁ、見るがよい。これぞ、こたびの「狼王祭」における一番の目玉である!」


 アンデッド兵の駆逐が終わったあと、デウスさんは住民のみなさんに見えるように俺たちが作り上げた透明なグラスを紹介し始めた。


「あの人、転んでもただじゃ起きねえなぁ」


 あまりにも商魂逞しい姿になにも言えなくなってしまったのは言うまでもない。

 続きは十八時になります。

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