Act6-49 光明と難題
「俺が見つけたのはグラスだよ」
「グラス?」
「お酒を飲むときに使う、あれですかぁ~?」
サラさんとセレンさんは意外という顔をしている。
たしかに特産品と銘打つにはちょっと弱いかもしれない。でもね、地球には特産品になるグラスがたしかにあるんですよ。
もっとも俺が考えているのはそれ以前のものなんだけどね。というかこの世界のグラスを見て、あることに気付いたんだ。
「この世界では、グラスは基本的に不透明だよね」
「まぁ、そうですねぇ~。位が高い方は半透明なものでお酒を飲みますが、庶民の方はもっぱら不透明なグラスでお酒を飲み交わしますねぇ」
「俺は酒が飲めればそれでいいが、ちと風情がなぁとは思っているな」
サラさんとセレンさんは現状の不透明なグラスに不満を持っているようだ。
この世界では基本的にグラスと言えば不透明なものが多い。
実際プーレと一緒に入った喫茶店で出されたアイスのドリンク、そのドリンクが注がれていたグラスは不透明なものだった。もっと言えば曇っていたよ。
デウスさんは半透明なグラスで飲んでいたけれど、王さまであるあの人でさえ透明なグラスなんてものは持っていなかったんだ。つまりこの世界では透明なグラスなんてものは存在しないってことだ。
俺と同じで異世界から転移してきた人たちもそのことには気づいただろうけれど、透明なグラスなんてものはそもそも存在しないのだからどうしようもなかった。
仮に存在したとしても、王さまでも持っていないものなのだから、この世界に地盤のない異世界人にとってみれば高嶺の花ってことになっていただろうね。
もしくは日々を生きることでグラスが透明か透明じゃないかなんてどうでもよかったのかもしれないけど。
でもたしかにこの世界では透明なグラスなんてものは存在しない。サラさんとセレンさんの話でそれがはっきりとした。
となればだ。もしその透明なグラスを作り出せれば?
不透明なグラスでは風情がないとセレンさんは言った。ならば風情が出せる透明なグラスがあれば?
グラスだけで酒の味なんて変わりはしないだろうけれど、風情が出ればプラシーボ効果が出て、美味しくなるんじゃないかな?
酒なんて一滴も飲んだことがないからよくわからないけれど。やってみる価値くらいはあると思うんだよね。
それにグラスであれば、材料は山ほど、というかこの国では見渡す限り存在しているもの。
正確には材料が含まれているものが見渡す限りあるってことなんだけども。
そう砂だ。正確には砂の中に含まれている石英だね。
国土のほとんどが砂漠に覆われているというこの国であれば、かなりの石英が存在しているってことだ。ならそれを使わない手はないよ。
もっともどれくらい量の砂から石英を抽出すればいいのかはわからないけども。
あとついでに砂鉄とかも採れるんじゃないかな?
あ、でも魔鉱石があれば砂鉄なんていらないのかな?
そのあたりのことはよくわからないけれど、あって困るものじゃないと思う。
とにかく「狼の王国」が砂漠の国であることを最大限に活用すれば、いろいろと国益になるものができそうだ。
もっと言えば砂漠は宝の山みたいなものだね。なにせ材料費はロハなのに、そのロハの材料から国益になるものができるとあれば、デウスさんなら食いつくと思う。
問題があるとすれば石英の抽出方法かなぁ。この世界のグラスが不透明なのって、抽出方法に問題があるってことだろうし。
要は不純物が混ざりすぎているってことなんだと思う。だからこそ不透明なグラスしかないんだろうね。
となれば、技術改革から先かな? どちらにしろ、マバの缶詰に続く国家単位のプロジェクトになりそうだ。結構時間がかかりそうです。
「へぇ、面白そうじゃないか」
セレンさんは乗り気だった。サラさんはなにも言わないけれど、目を輝かせている。
鍛冶仕事とは違うけれど、高熱を扱うという点は同じだからなのかな?
ふたりの目の色は明らかにマジです。なんだろうね、この教えちゃヤバい人たちに教えたらダメなことを教えてしまった気分は。
「ふむふむ。もし透明なグラスができれば、「ラスティアングラス」とでも名付けましょうかね」
それまで黙っていたタマちゃんがそんなことを言い出した。ラスティアングラスね。ヴェネツィアングラスみたいだね。
あ、そっか、ヴェネツィアングラスを目指すというのも面白いか。さすがに最初からあれを目指すのは難しいというか、無謀極まりないけれど、最終的にはあのレベルのものを目指すのは悪くないと思うよ。
でもあくまでも最終的には、だ。いまのところは透明なグラスを作り上げることから始めないと。
いや不純物を取り除くところから始めないといけないか。どちらにしろ時間と根気がいる作業になりそうだよ。
でもうまく行けば、この国の新しい特産品として大々的に発表できるね。
マバ缶は冒険者向けだけど、透明なグラスことラスティアングラスは一部の富裕層向けのものだね。
ある程度浸透したら、今度は富裕層には富裕層にふさわしいものを、ヴェネツィアングラスを思わせるものを提供して、それまでの透明なグラスは一般層向けにすればいいだけだもの。
うん、我ながらなかなかいいんじゃないかな?
まぁいまのところはあくまでも机上の空論にしかすぎないけれど、これ以上の案もないとなれば、この案にかけるのもありだと思う。よしそうと決まれば早速──。
「ふふふ、まさか見つけてこいと言った初日に案をひねり出すとはのぅ。いい意味で裏切られたぞ?」
後ろから楽しそうに笑う声が聞こえてきた。振り返ると嬉しそうに笑っているデウスさんと──。
「さすがは「旦那さま」ですね。その柔軟な発想にレアはときめきすぎて、妊娠しそうです」
ぽっと頬を染めながら、ぶっ飛んだことを言い放つレアが立っていた。
デウスさんはともかくレアさんや? 発想だけで人は妊娠しませんよ? 言っても無駄でしょうけどね?
「ふふふ、痴女のことは置いておくとして。カレン、よい案じゃの。褒めて遣わす」
「ありがとうございます。それじゃあこの案は」
「うむ。時間はないが、よろしく頼むえ」
「はい?」
え、なに時間がないって? 言っている意味がよくわからないんだけど?
だって時間ならいくらでもあるだろうに。そりゃあ俺がこの国にいられる期間はそう長くないけれど、帰ってからでもプロジェクトに携わることはできるわけで──。
「「狼王祭」までに大々的に発表できるように頑張っておくれ」
「はぁっ!?」
デウスさんのあんまりすぎる言葉に、俺は叫んでいた。




