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Act6-48 狼王の依頼

 デウスさんの「依頼」は、とても単純なものだった。


「新しい特産品、ですか?」


 星金貨を渡されたときに、持ち掛けられた「依頼」はここ「狼の王国」の新しい特産品を見つけろというものだった。


「うむ。現在「狼の王国」は良質な魔鉱石の鉱脈が見つかったことで、「獅子の王国」のシェアを奪う形で非常に潤っておるというのは知っておるかえ?」


「はい。少しだけですけど」


 カルディアが言っていたことだったけれど、「獅子の王国」はもともと魔鉱石のシェアをほぼ独占する形だった。


 というか魔鉱石くらいしかまともな産物がなかったのに、そのお株を奪うかのように「狼の王国」が良質の魔鉱石を産出するようになって、シェアを奪われ始めているということだった。


 あれからもう数か月は経っているけれど、どうやらそれはいまも変わっていないようだ。


 どうりで星金貨をぽんと渡してくるはずだよ。いくら王さまでもそう簡単に星金貨なんてねん出できるわけもないというのに、その星金貨を小遣いとしてくれるんだもん。相当に儲かっているようだったよ。


 それでもデウスさんは新しい特産品を見つけろという依頼をしてきたんだ。


「ならば話は速いの。いまのところ魔鉱石のシェアの大半は我が国が占めておる。が、それがいつまでも続くとは妾は思っておらん。形あるものがいずれは壊れるように、いまは大量に産出している魔鉱石もいずれは鉱脈自体が枯れるのは当然のことじゃ。無限に産出できるものなどこの世には存在せぬからの。ゆえにじゃ。魔鉱石が産出できているいまのうちに、一手を打っておくのは当然のことよ。いまであればたとえそれが失敗したところで取り戻すのは難しくはない」


「なるほど」


 たしかに魔鉱石のシェアの大半を握っているいまであれば、仮に新しく立てた事業を失敗しても、消費した資金を回収するのはそこまで難しいことじゃない。


 むしろ大半を握れているいまだからこそ、冒険ができるということでもある。


 デウスさんが新しい特産品を見つけろという依頼を出してくるのもある意味当然だった。


「ちなみにですけど、案はありますか?」


「いまのところはないのぅ。この国でできることなどたかが知れておる。だが逆に言えば、この国だからこそできることもあるということじゃ。そなたにはそんな「ありふれているが、目新しいなにか」を見つけてきてほしい。むろん失敗してもよい。謝礼として星金貨をもう一枚渡そう。成功すれば、そうさの。その売り上げをそなたといくらかであれば共有してもよい」


「えっと、それって」


「本で言うのであれば印税じゃな。この場合は印税というわけではないが、似たようなものをそなたと契約しようと思っているが、どうかえ?」


 にやりとデウスさんは笑っていた。その報酬はどう考えても破格なんてものじゃなかった。というかありえない報酬の依頼だった。


 だってそれは天井のない報酬を支払うと言っているようなものだもの。


 印税というのは、本が売れた分だけ、作者に売り上げのうちのいくらかが入ってくるというシステムだ。


 売れれば売れるほど大金が転がり込んでくるということ。つまりは上限がない。しかも自分自身ではなにもしなくても金が転がり込んでくる。


 それと同じ契約をデウスさんは結ぶと言ってくれた。その特産品が爆発的な人気が出てくれれば、その分だけ俺への報酬は爆発的に増えることになる。それこそ年間で星金貨どころか、月単位で星金貨数十枚だって夢じゃないほどに。


 でも逆に言えばそれだけの「なにか」を俺が見つけなければならないってことだ。その「なにか」をみつけることがとんでもなく難しいことであるのは言うまでもなかった。


 だけどその難易度も含めても、デウスさんの依頼がとんでもなく魅力的なものであることには変わりない。それこそうちのギルドの金庫が溢れかえるほどの金貨で覆い尽くされるのも夢ではないくらいに。


「……確認ですけど」


「売り上げをごまかすことなどせぬ。月単位で売り上げを集計し、その中からあらかじめ決めた分だけ、そなたへの報酬としよう。なんならその集計自体をそなたのギルドから人を呼んでやらせてもよいぞ?」


 売り上げをごまかされてしまったら、こっちに入ってくる金は変わらない。


 がデウスさん側には俺へと本来渡すはずの金額も含まれることになる。


 こういうのは最初に聞いておくのが一番いい。デウスさんも同じことを考えていたみたいで、呆れつつもさらに譲歩してくれた。


 うちのギルドの人間を、経理担当の誰かを「狼の王国」に出向させ、集計させる。


 当然うちの人間なのだから、ごまかすことなんてしない。


 ……まぁ、あまりの大金に欲を掻く可能性もあるけれど、そこはそれ信頼できる誰かを出向させればいいだけの話だ。


 モルンさんと言いたいところだけど、執行部の一員であるあの人は出向させられない。


 ただでさえアルトリアが秘書としての仕事をボイコットしているせいで、ミーリンさんとモルンさんの仕事量が倍増しているんだから、そこに出向なんてさせたら、それこそモルンさんとミーリンさんのどちらかが倒れてしまいかねない。


 となるとモルンさんの管轄でそれなりに優秀で、なおかつ俺を絶対に裏切らないくらいに、忠誠を誓っていると言ってもいいような人材。そんな人材なんて──いるんですよね。


 ドルーサ商会といざこざをするきっかけになったあのノッポ。あいつが適任だった。どうにもあのノッポことトゥールスは俺に心酔しちゃったんだよね。


「自分はギルドマスターに一生ついてきます!」


 エリキサで飛ばした腕を治してあげてからというもの、あいつはあのスキンヘッドから俺に乗り換えたんだよ。


 まぁ、スキンヘッドは完全に三下だったから、見切られるのも当然っちゃ当然だったけど、そこでどうして俺に心酔するかなとは思ったね。


 言ったところであいつは、俺の話を聞いてはくれないから仕方がないんだけどね。


 一生ついていくと言った相手の話を聞かないとか、普通はありえないだろうと思うけど、困ったことにあいつにはありえるんだから、こればかりはどうしようもない。


 とにかくトゥールスであれば、ちょろまかすことなんてしないだろうから、「狼の王国」に出向させる人材としてはこれ以上とない適任だった。


 あとの問題はデウスさんを納得させる特産品を見つけることだったけれど、その問題も解決済みだ。


 あくまでも見つけるという意味ではね。


「へぇ? 特産品なぁ」


「やっぱり面白そうな仕事ですねぇ~。それで、カレンさんはなにを見つけたんですかぁ?」


 デウスさんの依頼の詳細を話し終えるとサラさんもセレンさんも乗り気になっていた。


 畑違いかもしれないけれど、ふたりに協力してもらえるのであれば話は速い。


「うん、俺が見つけたのは──」


 見つけた特産品、になるかもしれないもの。それを俺は口にした。

 カレンが見つけた特産品とは?

 まぁ、もうおわかりでしょうけども←笑

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