Act6-47 鍛冶師さんってブラックですね(Byカレン
「なるほど、なるほどぉ~。そういうわけでここに来ていたんですかぁ~」
所変わって例の工房の中で俺たちはサラさんに事情を話していた。
というのもここの工房主というセレンさんという鍛冶師さんに招待されてしまったんだよね。それもサラさんだけではなく、俺たちもね。
「うちのバカ弟子がアホを抜かしたあげく、その粗相の尻拭いまでしてもらったんだから、茶の一杯はやらにゃ筋が通らねえだろう?」
とはセレンさんの談だ。ちなみにセレンさんはその名前の通り女性の鍛冶師だった。
まぁ、女性は女性でもドワーフの女性だったけど。ただ最初に奥から出てきたときはちょっと驚きましたけども。
なにせ見た目ロリ系の女の子が鎚を持って血相を変えて出てきたんだもの。一瞬カチコミかと思いましたよ。
ただそれも騒ぎ立てる職人さん方を追い払うためだったみたいだけどね。
どうにもここの職人さん方は時折ああして騒ぎたてるみたいだ。
けど悪気はセレンさんが言うにはないらしい。単純にセレンさん会いたさに騒ぎ立てているみたいだ。
「俺がこういう面をしているからだろうなぁ。あの連中、俺が出て来ると即座に飛んで来やがる。相手をするのが面倒だから、たいていは弟子どもに店番をさせているんだが、今日はうちのバカ弟子が粗相をしやがったからなぁ。俺が出ないとダメだと思っていたが、代わりに尻拭いをしてもらって助かったよ」
セレンさんはサラさんに頭を下げていた。
サラさんは「いえいえぇ~」と恐縮していた。
恐縮しながらも、セレンさんのサイン入りの剣に頬ずりしていたけど、そこは見ないことにした。
というかそんなことをしていたら、セレンさんにも呆れられると──。
「なかなかの鍛冶バカじゃねえか。気に入ったぜ、姉さん」
「ふふふぅ~、セレン師ほどではありませんよぉ~」
「ははは、俺相手にそれだけ言えるとあれば、大したもんだな」
……呆れられると思っていたんですけど、どうやらサラさんの行動はセレンさんのツボに入ったみたいです。
というか剣に頬ずりして好感を持つとか、鍛冶師ってどういう職業なんだろう。よくわかりませんでした。
「それでぇ~? カレンさんはどうしてこちらにぃ~?」
サラさんは頬ずりをやめると不思議そうに首を傾げていた。
ようやくそれかと思いつつも、俺はここに来た理由を話していまに至る。
「はぁん。陛下の「ご依頼」ねぇ」
茶をすすりながらセレンさんは俺を見つめていた。
サラさんを見つめる目とは違い、そのまなざしは俺を測っているかのようだ。
この国の王さま直々に依頼されたと言われれば、誰だって疑うか、相手を測ろうとするから、その視線はある意味当然だった。
「……ふむ。それなりにはやるようだな。見たところ、Bランク、低くてもCランクでも高位の冒険者ってところかい?」
「おぉ~? セレン師すごいですねぇ~。カレンさんのランクをぴたりと言い当てましたぁ~」
ぱちぱちぱちと嬉しそうに拍手するサラさん。なんでサラさんが喜ぶのかはわからないけれど、セレンさんに俺のランクが言い当てられたのは事実だった。
「え? この女の子、Bランクの冒険者なんですか?」
セレンさんにバカ弟子と揶揄されていた職人さんが驚いた顔をしている。
どうやらこの人は俺の実力はわからなかったみたいだね。
まぁこんなちんちくりんが高位の冒険者だと思えるわけもない。
そもそも冒険者だってことも思うわけがないから、職人さんが驚くのも無理もないよ。
「ああ、俺が見たところな。しかもただのBランクの冒険者じゃねえぞ?」
「え? ただのってどういうことですか?」
「おまえ、サラの姉さんの言葉を聞いていなかったのか? 「カレンさん」ってこのお嬢ちゃんのことを言っただろうが」
「あ、はい。言っていましたけど、それが?」
「はぁ~、このすっとこどっこいは。いいか? 「カレン」で「Bランク冒険者」だぞ? そのうえ陛下から直接依頼を受けられる。そんな冒険者の噂は「ラスト」でも広がっていただろうに。おまえの耳は節穴かよ?」
セレンさんは呆れながらもヒントを与えていく。
その口ぶりからして俺が「カレン・ズッキー」であることに気付いているみたいだ。
職人さんはまだ気づいていないみたいだけどね。
ただ腕を組んで頭を捻ると「あ」と驚いたような、信じられないような声をあげてくれた。
「もしかして、噂の?」
「おうよ。噂の「才媛」殿さ。そうだろう? カレン・ズッキーさん」
セレンさんはにやりと笑った。かわいらしいお顔立ちなのに、笑顔は凶悪ですね。なんてことは言えません。言ったら怒られるのが目に見えているもん。
「あんまり呼ばれ慣れてはいませんけど、一応はそうです」
あははは、と自分でもわかるくらいに顔をひきつらせながらもどうにか頷いた。そんな俺に職人さんは神いられなさそうな顔をしている。が、セレンさんはしきりに頷いていた。
「くくく、「才媛」殿は超が付くほどの美少女って言う奴もいれば、クマみたいな体をした大女だって言う奴もいたけど、どうやら前者が当たっていたみたいだな?」
「超が付く美少女って誰のことですか?」
なにその話? 初耳なんですけど? というか誰が美少女だよ? 俺は美少女ではなく、微少女だよ!
自分で言って悲しくなるけれど、実際俺は美少女じゃないし。
むしろ美少女なのはプーレだもん。うちの嫁はマジで美少女だからね。そのうえスタイルもいいうえに性格は尽くす系だし、家事は一通りできるとか。俺ってば勝ち組よね。
「どうやらそっちも噂通りか。話に聞く限り、「才媛」殿はかなりの女好きで、美少女ないし美女を嫁と称して何人も囲っているって話だったが」
「……ノーコメントで」
いかん、否定できない。
女好きってわけじゃない。そう女好きってわけじゃないんだけど、なぜか俺は嫁が次々に増えていくんだよね。それも半数以上とは肉体関係を持っていますし。
……冷静に考えると俺って完全に女好きですよね? 噂ってバカにできないなとしみじみと思います。
「ははは、面白いねぇ。気に入ったぜ、「才媛」殿」
セレンさんは凶悪な笑みを消し、朗らかに笑った。そう笑いながら俺の背中をばしばしと叩いてくださっています。あの、地味に痛いです。言ってもやめてくれそうにないですけど。
「ふふふぅ~、カレンさんは面白いですよねぇ~? 見た目はこんな美少女なのに、中身は男の子みたいですしぃ~。それでいて、面白いお仕事ばかり持ってきてくださいますしぃ~」
「ほう? 面白い仕事とな?」
「ええぇ~。最初に私に頼んだ仕事なんて、鉄板を作ってくれほしいってものだったんですよぉ~?」
「鉄板?」
「ええぇ~、お肉を出先でいつでも焼けるようにと頼まれたんですよぉ~。鉄板くらいであれば、そこら辺に売っていると思ったんですけどぉ~、カレンさんがお求めだったのは、お肉が焦げても張り付きづらく、何度も使用できて、そこまで重たくもないというめちゃくちゃな鉄板でしたねぇ」
「ははは、なんだそれ? とんでもねえ難題じゃねえか。それでどうしたんだい?」
「ええぇ~、いろいろと苦労しつつもどうにか納得のいくもの納品できましたよぉ~。あとは魔竜の素材を持ってきたり、アダマンタイトを使って強化してほしいと言ってきたり、といろいろと面白くおかしい仕事を頼んでくれますねぇ~」
「なるほど、なるほど。そりゃあたしかに面白いなぁ」
サラさんの言葉にセレンさんは膝を叩いて笑っていた。
いま思うと、俺ってめちゃくちゃな依頼ばっかり頼んでいるのかな?
そんなつもりはなかったけど、匙を投げられても無理もないことなのかもしれない。
うん、サラさんには本当にお世話になりっぱなしだったみたいです。
「そのカレンさんがぁ、この鍛冶師の聖地に訪れたのですぅ~。それも狼王陛下のご依頼で。きっととても面白い仕事に決まっているのですよぉ~」
サラさんが目を輝かせている。
いかん、妙な期待を持たれてしまっている。
しかもサラさんってば、この出先でも仕事をしようとしているね。
この人仕事の虫すぎませんかね? そのうち過労死しますよ?
「死ぬまで仕事ができるなんて天国じゃないですかぁ~」
「発言がブラックすぎません?」
いくらなんでもその発言はブラック、というかアウトだよ。サラさんのところはどれだけ──。
「たしかになぁ。鍛冶師の最高の最期は、作品を打ち上げてって言うのが誰もが夢見るもんな」
……うん、どうやら鍛冶師は完全にブラック企業のようです。職人さんが遠くを眺めるような目をしている。
いまさらながらに就く職を間違えたとか思っているのかもしれないね。
でももういまさらですけどね。
「さぁて、そんな「才媛」殿が持ち込もうとしている依頼ってのはどんなものかねぇ?」
「ふふふぅ~、お聞かせくださいねぇ~?」
サラさんとセレンさんが目を輝かせてにじり寄ってくる。俺ができたのはデウスさんの「依頼」の詳細を話すことだけだった。




