Act5-63 いざ、尋常に訓練です
……日曜日における「更新します詐欺」はそろそろどうにかするべきじゃないかと思うけふ。
更新しますと抜かした時間からもう七時間もオーバーしいていますね←汗
やっぱり日曜日は鬼門ですね。
どうにも気が抜けてしまう←汗
来週はちゃんと更新したいなぁ←汗
「わぅ!」
「まだ甘い。もう一歩踏み込んで来い」
剣戟が奏でられていく。奏でているのはシリウスとライコウ様だ。
シリウスは「黒護狼」を持って半身になって構えている。武器を持って戦うのは今日が初めてだというのに、意外と様になっていた。
もっとも様になるまで、ライコウ様にたっぷりと絞られていたから、ある意味では当然のことと言えばそうなのかもしれない。
でも絞られたからと言って、初日のうちから様になるようになるのは、十分すごい。なにせシリウスは剣の握り方も知らなかったのに、それがいまやいっぱしの構えを取れるようになっていた。格闘のセンスがあることは知っていたけれど、武器戦闘でのセンスもシリウスにはあるみたいだ。いわゆる天才というタイプなのかもしれないな。
「わぅわぅ!」
「もっと速く!」
その天才であるシリウスも、ライコウ様の手に掛かれば子供扱いだけどね。まぁ、戦闘訓練というものは大抵、格上に叩きのめされながら鍛え上げるものだから、あたり前のことではあるんだけどね。
「遅い。もっと速くだ!」
「わぅん!」
実際シリウスは何度も叩きのめされている。それでもなお諦めることなく、止まることなく戦い続けている。その姿勢にライコウ様の指導にも熱が入っていた。最初はもっと優しかったのに、いまや時折罵声が飛んでくることもある。
しかしその罵声にもシリウスは耐えていた。いや耐えようなんてことを考えてもいないんだろうね。必死になって食らいつこうとしているのが、かえって耐え忍んでいるように見えるってだけなんだろう。
それはライコウ様もわかっている。わかったうえで罵声を浴びせている。
「何度言えばわかる!? そんなのろまな動きで敵を倒せるか!」
「負けないもん!」
「ならもっと速く動け!」
「わぅ!」
ライコウ様の言葉にシリウスが頷いていた。次第にふたりの会話は少なくなっていく。変わりに剣と枝がぶつかり合う音が聞こえる。本来であれば、おおよそ聞こえてくるはずのない音なのだけど、その音を奏でられるのはライコウ様あってのことだ。
俺が同じことをしても確実に枝を切り落とすことになる。枝を切り落としても、シリウスにはまだ負けるつもりはないけどさ。
ただシリウスの吸収力はとんでもないレベルだ。あっという間に上達していく様は、焦りを生じさせるけれど、かえって誇りたくなるよ。
本当にうちの愛娘はいろんな意味でハイスペックですわ。
それもライコウ様という師匠がいてこそだけどね。というか、天上における武術指南役の指導を最初から受けられるとか、どれだけ恵まれているんだって話ですよ。
そのうえシリウスのセンスが合わさっている。そりゃ上達も速いよな。うん、こうして見ているままだと、そのうち本当に追い抜かされてしまいそうだよ。そうならないためにも俺も頑張らないとな。
「というわけで、稽古お願いしますね」
「……なにがというわけなのかは、いまいちわからないけど、構わんよ」
シリウスとライコウ様による剣戟を聞きつつ、目の前にいるマモンさんに頭を下げた。そう俺の相手はマモンさんだった。
そもそもなんでシリウスがライコウ様の訓練を受けているのかと言うと、これもアンデッド対策のひとつだからだ。
謎のアンデッドどもはセイクリッドウルフをも超えた実力がある。そんな実力者相手に、いまのまま戦いを挑んだところで、被害は大きくなるだけだ。その被害を少しでも抑えるためには、レベルアップは必須だった。特にシリウスのレベルが圧倒的に足りていない。
進化して基礎能力は大幅に上がっただろうけれど、それでもセイクリッドウルフとどっこいというレベルだ。セイクリッドウルフと同じくらいじゃ、謎のアンデッドどもには太刀打ちできない。もちろんシリウスが危なくなれば、手助けに入るつもりではあるけれど、常に手助けに入れる余裕があるかどうかはわからない。介入するまで保たせる必要がある。そのためにシリウスを鍛えることになったのだけど、予想以上にシリウスには才能があったことで、ライコウ様の指導はとんでもなく熱が入ってしまったんだ。
おかげで俺は放っておかれているという状況にあった。放っておかれるからと言ってなにもしないわけにはいかない。
だからマモンさんに言ってご教授してもらうことにしたんだ。まぁ、だいぶ端折ったから、マモンさんはわからないかもしれない。決してマモンさんの察しが悪いと言っているわけではないよ?
「まぁ、どういう意味にせよだ。さっさとやろうか」
「はい。よろしくお願いします」
一礼をして、「黒狼望」を抜いた。マモンさんは適当な長さの棒を持って、やはり一礼をして構えた。その構えはどう見ても槍の構えだ。クラウディさんに騎乗する関係で、マモンさんは槍が得意なんだろうな。実際マモンさんの構えには無理がない。とても自然体に構えていた。どこにも隙はない。どこを打ちこんでもたやすく返されてしまうのは目に見えていた。隙がないのであれば、隙を作るだけだった。
「行きます!」
宣言してから俺は一歩大きく踏み込んでいった。
レアと同格の相手。つまりははるかに格上だ。
ならばためらいなんていらない。
マモンさんの獲物は槍に見立てた棒だ。リーチでもすでに劣っている。俺が勝てる要素はほとんどない。
だからこそ動く。動くことで勝機を見つけるんだ。
下段に構えながら駆け寄る。
マモンさんは動かない。じっと俺の動きを見つめている。
すでにマモンさんの間合いには入っている。棒の穂先がゆっくりとだけど、絶えず動いていた。
常に俺の喉元へと穂先は向いている。いつでも喉を突けると言われているようだった。
それでも構うことなく駆け抜ける。
マモンさんの間合いの内側、俺の間合いに入るまで止まらずに駆け抜ける。
マモンさんは穂先を常に動かすだけ。でもそのわずかな動きが怖い。
動かないと思わせて、いきなり突いてくることだってありえるんだ。
だから気を抜かずに──。
「甘い」
マモンさんの声が聞こえたと思ったときには棒の穂先が目の前にあった。
鼻先を掠める距離にまで突きこまれていた。
とっさに体を捻って避ける。頬を穂先が掠めた。
が、避けたと思ったときには衝撃が走り、飛ばされていた。
体勢を整える暇もなく、目の前に再び穂先が突きつけられていた。
大した見せ場もなく、あっけないほど簡単に負けてしまった。
体勢を崩されたのは、状況から見て薙ぎ払いを貰ったのかな。
剣ではおよそ貰うことのない一撃であり、槍、いや長柄の武器特有の攻撃だった。
「間合いに迷わず飛び込む勇気はいい。が、少し考えなさすぎだな?」
マモンさんは笑っていた。
いまの一撃は棒だったからこそ、俺は生きているけど、もし実戦でかつ棒ではなく柄まで鉄でできた槍であれば、たぶん死んでいたな。
体勢を整えるまもなく、突き殺されていた。
わかっていたことだけど、やはり「七王」陛下たちと俺の間には絶望的なほどに差がある。
でも逆に言えば──。
「まだまだです!」
「黒狼望」で棒を跳ねあげながら、立ち上がる。
逆に言えば、それほどの格上とノーリスクで戦えるんだ。これ以上の経験を得るチャンスはなかなかない。だからこそ全力で戦うおう。
跳ねあげながら、穂先を切り落としたいところだったけど、切っ先に触れる直前で棒の位置が変わった。切っ先に込めた力は容易く受け流されてしまう。棒に傷は一切なかった。
「まだまだです、だな?」
マモンさんがにやと口元を歪めて笑う。とても意地の悪い笑顔ですね。
「決まったと思ったのに」
「ふふふ、まだまだ甘いぞ、カレンさん。俺なんかにいいようにされているうちは、ライコウ様の足元にも及ばんな」
「マモンさんでもライコウ様には?」
「うん、勝てないな。たとえばいまの受け流しで言えば、俺は反射的にしている。体がとっさに動いたというところだが、ライコウ様の場合は、体が当たり前のように動いているのさ。歩くときにいちいちどうしてそうなるのかを考えることなどないだろう? それと同じさ。あの人にとってあの受け流しはやろうと考えているわけでも、とっさにしているわけでもなく、当たり前のように体が動いているからなのさ」
「……とんでもない人だな」
「あぁ、あの域に達するのにどれだけの時間がかかることやら」
マモンさんが遠くを眺めている。それでも隙はない。
そんなマモンさんでさえ及ばないとか、ライコウ様はどれだけ強いんだか。
でもそれほどに強い人に鍛えられるのであれば、いまよりももっと強くなれるチャンスだった。
「もう一本お願いします」
「おう、来い」
シリウスはライコウ様に切り込み続けている。でもライコウ様には届かない。俺もまたマモンさんには届かないけど、諦めずに切り込み続けよう。この先にきっと道はあるはずなのだから。
「行きます」
再び宣言しながら俺はマモンさんに向かって切り込んでいった。




