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Act5-64 重なる姿

 結局、その日俺はマモンさんに一本取るどころか、ワンパターンで倒され続けてしまった。


 実力差がありすぎたときに起こりやすいことではあるけど、相手の力をろくに引く出させることもできずに負けるとは、わりと悔しいことだった。


 でも、どんなに悔しがったところで、同じパターンで負け続けたことには変わらない。


 俺だって同じやり方をしたわけじゃない。工夫は色々したけど、最終的には薙ぎ払われて突かれて負けになってしまった。


「カレンさんはいろいろと考えているのがよくわかる。おかげで退屈しないよ」


 マモンさんは明らかに気遣った言葉を口にしてくれました。それがかえって情けなさを助長させるのだけど、本人は気づいていないだろうね。


「七王」陛下方ってわりと天然さんが多いよね。


 レアもああ見えて結構天然だしな。まぁ、レアの場合はわざであることも多いのだけど。


 レアは嫁であるけど、考えていることがいまいちわからない。


 そもそもおバカな俺じゃレアの考えを見通すこと事態が無理なのかもしれないけど、もう少しくらいはレアの考えも理解したいなって思うよ。


 なんだかんだと言いつつも、俺もレアが好きだもの。人としても、ひとりの女性としても。


 だからこそ少しでもレアを理解したい。一方的に理解してもらうなんて、そんなのは本物の愛情じゃない。お互いのことを理解して尊重し合う。それが愛情だと思うんだよね。


 と、脱線してしまったな。どうにも俺は脱線しやすいなぁ。


 とにかく、気遣い&手加減をされたうえで、俺はマモンさんから一本も取ることはできなかったよ。


 取れないにしても、もう少し手の内を引き出させてたかったけど、やはり「七王」陛下方は規格外にも程があるよ。


 俺はまだまだ「七王」陛下方には敵いそうにない。


 いつかはレアにも正々堂々と戦って勝ちたいなと思うけと、はたしていつになることやら。


 生きている内には、レアにも負けないようになりたいものだよ。


 そのためにもマモンさんに稽古をつけてもらえるのは運がいいね。


 ライコウ様はシリウスの訓練を看るのに忙しいから、相手をしてもらえそうにないし。


 ライコウ様はサラ様ほどではないけど、結構シリウスをかわいがっている。ただ本人は気づかれていないと思っているのだろうけどね。


 そういう意味ではライコウ様も天然だなと思うよ。


 不思議と天然さんも多いよな、俺の周りって。


 まぁ、ドエスばかりなのもどうかと思いますがね?


 タマちゃんが乙女ゲーには登場人物がドエスばかりなのもあるとか言っていたけど現実的に考えたらさ、全校生徒が三百人くらいの高校で攻略可能なキャラが六人だとした場合、五十分の一になる。その五十分の一を、王子様だったり、泣き虫さんだったり、ちょっとヘタレだったりするキャラもいるであろうに、なぜ全員ドエスということになってしまうんだろうか。五十分の一であればひとりくらいは混じってもおかしくないけど、なぜ全員ドエスなんだろう。いやなぜ全員ドエスになる確率を主人公は引いてしまったんだろう。どんだけの低確率を引いているんだよとか思うんだが。


 とタマちゃんに言ったら「レンさんは夢がない!」とマジギレされましたが。


 たしかに夢はないかもしれないけど、そんなありえないファンタジーを夢想するよりかはとは思ったけど、それはそれで怒られそうな気がしたから、あえてなにも言わなかったけどね。


 まぁ、乙女ゲーの主人公、それも極一部の作品よりかは俺の周りはましなんだろうな。


 まぁ、俺の状況もある意味恋愛シミュレーションゲームのようではあるけどね。なにせ幼なじみにお姉さま、天然な年下に加えてかわいい愛娘と来ている。そして主人公である俺も女性である。


 ニッチというか、どれだけマイノリティなんだろうか?


 たぶん、こんな恋愛シミュレーションゲームなんてそうそうお目にかかれないだろうね。


 ……ゲームではなく、現実なのがほろ苦いなのだけどね。


 ゲームならセーブをすれば、自分の思う通りにシナリオを進められる。選択肢を誤ってもセーブポイントからやり直せばいいだけだ。


 けれど、これはゲームじゃない。セーブなんてものはない。


 だから誤りがあってもやり直すことはできない。


 カルディアの死をなかったことにはできない。彼女の死を回避することはもうできない。


 あの日、俺はどうすればよかったんだろう?


 どうすればカルディアを助けられたんだろう?


 選択はいくらでもできた。


 でも俺が選択したのは、カルディアが死んでしまう結果だった。


 どうしたらその結果を回避できたのだろうか?


 それは今回の稽古もある意味では同じだ。


 人の生き死にと勝ち負けを一緒にはしたくないけど、今回のようなボロ負けではなく、せめて惜敗にするにはどうすればよかったのか。


 カルディアの死はどうあっても変えられないけど、稽古の結果はやろうと思えば変えることはできる。


 いやカルディアの死だって、結果を踏まえたうえで、やり方を変えていれば回避できたのかもしれない。


 しょせんはたらればでしかないけど、たらればとはいえ、軽視はできない。


 過去を顧みて、未来を変えるのにはどうすればいいのか。


 どうしたら未来を変えることができたのか。


 考えろ。


 なにをもっても考え続けろ。


 もう二度と誰も喪わないために、常に考えろ。


 望んだ未来を手にいれるためにも。ギリギリまで考えろ。絶対に諦めるな。


 とカッコつけるのはこれくらいにして。とりあえずいまは──。


「まだ甘い!」


「わぅ!」


 俺とマモンさんの稽古を終えてもなお、稽古を続けていたシリウスを見守る。シリウスの体は擦り傷と打ち身だらけだった。


 対してライコウ様は汗一つさえ掻いてもいない。


 シリウスを打ち付けるも、とても弱く打っている。


 それでもシリウスの体は傷だらけだ。


 本当ならとっくに剣を持つこともできないに痛いだろうに、それでも剣を持ち戦おうとしている。


 その姿は、ガルムともマーナとも通じるものがある。そしそれは──。


「……カルディア」


 カルディアの最期の姿とも重ねられる。その姿はただただ誇らしい。


「頑張れ、シリウス」


 戦い続けるシリウスを俺はじっと見つめ続けた。

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