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Act1-20 成立

本日五話目です。

 翌日、目を覚ますと、なぜか一糸まとわぬアルトリアがいた。


 いや正確には、俺と同じシーツに身を包んでいたが、それ以外は生まれたままの姿だった。


 思わず、二度見したが、現実は変わらなかった。


 とはいえ、そこで慌てるような俺ではない。


 数回ほど深呼吸をしてから、アルトリアを起こしてあげた。


 が、なぜかアルトリアに抱きしめられてしまった。


 なぜそこで抱きしめるのだろうか。


 そう思ったけれど、アルトリアが言うには、ベッドで寝るときは、いつも裸で寝るうえに、なにか抱きかかえていないと落ちつかないということだった。


 正直、よく寝ているときに抱きしめられなかったと思ったよ。


 抱きしめられたまま眠られていたら、寝起きから大変な目に遭うところだった。


「カレンさん、朝ごは──」


 もっとも朝ごはんを知らせに来てくれた、ミーリンさんには、俺がアルトリアに抱きしめられているところを、ばっちりと見られてしまったけれど。


「モルンの言っていた通りだったんですね。カレンさんは、そうやって女の子を夜な夜な」


 加えて、モルンさんがより曲解した内容を伝えてくれていたことで、余計ややこしいことになってしまったが、どうにか誤解であることは伝えられた。


「いいんですよ、カレンさん。私、カレンさんがそういう人であっても、モーレ姉さんの気持ちまでは否定しませんから」


 伝えられたけれど、伝えたところで、それが相手の心に届くかどうかはまた別問題だということを、朝から知ることになった。


 そうしてひと悶着はあったが、どうにか無事に朝を迎えることができた。


 その後、なぜか俺に「あーん」をしたがるアルトリアをどうにか説得したという一幕はあったけれど、問題なく時間は進み、そして──。


「お待たせしました、みなさん。昨日はお騒がせして、申し訳ありませんでした」


 一階のロビーには、前日の人数の半分。


 俺が癇癪を起した結果、残った人たち全員がいた。


 ただみんな好意的ではあったが、どこか俺を恐れているような目でもあった。


 無理もない。癇癪を起して、暴力沙汰を起こしたんだ。


 しかもそれだけで、俺の実力がどれほどなのかは、全員がわかったはずだ。


 それは俺を悪く言っていた連中も痛感したことだろう。


「最初に言っておきます。昨日好き勝手に言っていた連中の言うことは、事実無根です。実際連中を叩きだしたところを見れば、私が実力でBランクまで上り詰めたことはわかったと思います。以後私が賄賂を使って、いまの地位まで上り詰めたと言いふらすことは禁止します。完全なねつ造ですので、私もそれなりの対応をさせてもらいます」


 全員を見回しながら言うと、誰もが静かに頷いていた。


 逆らうような真似をするのは誰もいなかった。


 図らずとも、畏怖させることができたということだった。


 この人に逆らってはいけない。そう思わせることができたのは、ある意味怪我の功名とも言えた。


 だが、畏怖させたままでは、意味はない。


 そのままじゃただの恐怖政治だった。


 恐怖政治にも利点がないわけじゃないけれど、長続きしないという欠点もある。


 だからこそ、畏怖させたままではなく、少しずつ親しみを持たせていかなければならなかった。


 それが一番難しいことではあるのだけど、やるしかなかった。


「次にですが、この冒険者ギルドは、冒険者ギルドであって、冒険者ギルドではありません。言葉遊びのように感じられるでしょうが、これは事実です。実際こことほかの冒険者ギルドは、別の組織です。あくまでも体裁で冒険者ギルドと名乗ってはいますが、あくまでも体裁のためであり、実際は違います。だからこそ、ここの冒険者ギルドは、ほかのギルドにはない「屋号」を用いています」


 次に俺が開業する冒険者ギルドが、通常の冒険者ギルドとは、別の組織であることを伝えた。


 ラースさんもここまでは説明していなかっただろうし、説明する意味もなかったはずだ。


 なにせ集まった職員はみんな魔族だった。


 それも「竜の王国」の魔族──ドラゴンレイスたちだった。


 もしくはドラゴンニュートと言った方がいいかもしれない。


 要は人とドラゴンの中間の種族というところ。


 が、混血児ってわけではなく、進化の過程で、ドラゴンの姿ではなく、人の姿を選んだ者たち、つまり元は魔物だったってこと。


 とはいえ、それはあくまでも大昔の話であり、現在のドラゴンレイスたちは、魔物だった者たちの子孫というだけであり、いまはもうわずかな名残を残すだけの人間とさほど変わらない種族だった。


 まぁ、完全に人の姿そのものってわけじゃない。


 だいたいの人は角が生えていた。


 さすがに翼まで生えている人はいないが、なかには先祖帰りで、翼や尻尾を生まれつき生やしている人もいるそうだ。


 が、そういう人はごくまれであり、せいぜい角を生やして生まれてくる人だけらしい。


 能力は完全な魔法型で、ドラゴンの厖大な魔力を生まれつき持っているそうだ。


 その分、肉体的な強度は、エルフよりかは強靭だが、ライカンスロープや鬼族ほどではないそうだ。


 どうりで俺が簡単にぶちのめすことができるわけだった。


「その「屋号」ですが、名前は決まっています。その名は「すけひと」です」


 俺の言った「屋号」を聞いて、職員はみんな首を傾げた。


 おかしな名前だと思われたはずだ。でもそれも無理はない。


 日本でも、うちの「屋号」はちょっとおかしなものだった。


 だけど、その「屋号」に込められた想いは決しておかしなものじゃなかった。


「この「屋号」は私の実家が経営する会社の「屋号」でもあります。私の父で五代目になりますが、名前の由来は「助っ人」から取ったとも、初代と二代目が兄弟であり、それぞれの名前から取ったとも言われていますが、定かではありません。ですが、大切なのは、名前ではない。その名に込められた想いなのです」


「想いというのは?」


 アルーサさんが、代表するようにして聞いてきた。


 職員全員が俺を見つめていた。


 全員の顔を見回してから、俺は「すけひと」の理念を口にした。


「「繋がりこそを財とせよ」です。人には様々な繋がりがある。その繋がりを通して、苦労することもあれば、助けられることもある。だがすべては、繋がりがあってこそ。ゆえに繋がりこそを最大の財とせよ。それが初代の口癖だったそうです。その口癖を二代目が理念としたそうです。その理念を私はこの冒険者ギルドの理念にしようと考えています」


 繋がりこそを財とせよ。


 二代目である曾々じいちゃんが理念とした言葉は、曾々じいちゃんのお兄さんの口癖だった。


 が、実際に俺は聞いたことがない。


 親父だって実際に聞いたことはないそうだ。


 曾々じいちゃんは、じいちゃんが社長を継いだころに亡くなってしまったそうだから、親父が聞けるわけがなかった。


 ただその言葉に込められた想いは、代々受け継がれている。


 繋がり。つまりは出会いを尊び、その出会った人との関係を大事に育んでいくこと。


 それは冒険者としての在り方でも同じことが言える。


 だからこそ、このギルドの「屋号」にふさわしい。


「皆さんも、その出会いを尊んでほしい。昨日立ち回ってしまった私の言うことではないかもしれません。けれどここに皆さんが出会ったことは、決してつまらないことではない。とても大切なことです。その大切な出会いを尊んでください。その出会いの輪を広げて行ってください。そうして出会った人に助けられ、助けることもあるでしょう。それがまた新たな出会いを作ってくれる。ゆえに「繋がりこそを財とせよ」を、我がギルド「すけひと」の基本理念とします。その理念に逸れぬことを、私はあなたたちに期待する。そしてあなたたちも私に期待してほしい。その理念に外れず、進んでいくことを期待していてほしい。私からあなたたちに話すことは以上です。今日より一週間後、冒険者ギルド「すけひと」を開業します。その日の新しき出会いを、私とともに広げて行ってほしい」


 そう言って、俺は職員たちの前から離れた。


 同時に誰かが拍手をした。その拍手は徐々に伝播していき、静かな熱気となっていく。


 その熱気の中、俺はもう一度職員全員の顔を見回した。


 少なくとも、全員の目に火がともっているように見えた。


 このメンバーで稼ぎ抜く。


 星金貨一千枚を稼いでみせる。


 俺は静かな闘志を燃やしながら、そう思った。

続きは十五時になります。

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