第06話 雷の日
その日の天気予報は、見事に当たった。
昼過ぎから空は鉛色の雲に覆われ、窓の外はみるみる暗くなっていく。
「これは降るな」
洗濯物を取り込んで数分後。
ゴロゴロ……。
遠くで雷が鳴った、ほどなくして雨が降り始め、あっという間に土砂降りになる。
窓ガラスを叩く雨音が部屋中に響き、風が庭木を大きく揺らした。
ドーン!
「うわっ!」
腹の底まで響く雷鳴に、思わず肩が跳ねる。
子どもの頃ほどではないが、雷だけは今でも苦手だ。
ふと部屋を見回す。
チコはキャットタワーの上で耳を伏せ、じっと窓の外を見ていた。
アンコは静かにテレビ台の下へ潜り込んでいる。
「……あれ?」
キナコの姿がない、さっきまでソファで寝ていたはずなのに。
「キナコ?」返事はない。
その時だった。
ゴロゴロ……ドーン!
雷鳴と同時に、廊下の奥から白い影が飛び出してきた。
ダダダダッ!
「うわっ!」
勢いよく足にぶつかってきたのはキナコだった。
そのまま俺の足元へ潜り込み、ズボンに体を押しつけるようにして震えている。
「……雷が怖いのか」
耳はぺたりと伏せられ、尻尾も丸まっていた。
いつもの落ち着きはどこにもない、もう一度、雷が鳴る、キナコはさらに身を寄せてきた。
「おいおい……」
これでは歩けない、仕方なく、その場に腰を下ろす。
するとキナコは安心したように俺の膝の横へ丸くなった。
「珍しいな」
普段なら近づくだけで逃げるくせに今日は自分から隣にいる。
「大丈夫。そのうち止むよ」
意味なんて分からないだろう、それでも、自然と声が出た。
しばらくして、テレビ台の下からアンコが姿を現した。
静かに歩いてきて、キナコの隣へちょこんと座る。
「心配してるのか?」
アンコは何も答えない、黙ってキナコのそばにいた。
一方のチコは、少し離れたキャットタワーの上から子どもたちを見守っている。
近寄りはしない。
それでも視線だけは、ずっと二匹から離れなかった。
「母親って感じだな」
そう呟いた頃には、雨脚も少しずつ弱まり始めていた。
雷も遠ざかり、部屋に静けさが戻る、十分ほどすると、キナコはそっと立ち上がった。
耳を動かして外の様子をうかがい、もう大丈夫だと判断したのか、何事もなかったようにソファへ向かって歩き出す。
その途中、一度だけ振り返った、俺と目が合う、ほんの一瞬、すぐにぷいっと顔を背け、そのまま歩いていった。
「……今のは」
気のせいだろう、でも、少しだけ『ありがとう』そう言われたような気がした。
「いやいや」
俺は苦笑して首を振る、猫だぞ、そんな都合よく感謝なんてするわけがない。
それでも雷が鳴った時、キナコが真っ先に飛び込んできた場所は、部屋の隅でもベッドの下でもなく、俺の足元だった。
その事実は、ちょっとだけ嬉しかった。
その夜。
いつものように猫トイレを掃除しながら、昼間のことを思い出す。
「昼間はあんなに頼ってきたのにな」
スコップを動かしながら苦笑する。
「明日になれば、どうせまた逃げるんだろうけど」
そして翌朝。
「ニャー!」いつものようにキナコの鳴き声で起こされる。
エサを用意しようと近づいた瞬間、キナコは俺を見るなり、一目散に逃げていった。
「……戻るの早いな!」
思わず笑ってしまう、昨日のあれは、本当に雷限定だったらしい。
まあ、それでいい。
たとえ一瞬でも、キナコは確かに俺を頼ってくれた。
そう思うだけで、その日の朝は少しだけ気分が軽かった。




