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デイリーガチャで現代無双!?  作者: 初凪 頼


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22.時を止める少年

 【明滅する時の王】で時間を止めるのはとても簡単なことであった。時よ止まれと考えるだけで即座に発動する。発動までのラグもない。それだけ聞くと、まぁ強力な能力だと思う。問題は。


 

 何も見えない。

 何も聞こえない。

 体動かない。

 息できない。苦しい。

 苦しい?呼吸できてない!このままだと死ぬ!!やばいやばい時よ動け!!



 パッと周辺が見えるようになり、その場に崩れ落ちる僕。ほんの数秒できなかった呼吸のありがたみを感じるように、喘ぐように呼吸を繰り返す。



「……え?よ、夜嗣君?どうしたんだい?」


 心配そうに僕の顔を覗き込む奏さん。



「奏さん。この異能力……使えないかもです……」


「え?どういうこと?」



 考えてみればそうだ。まだ詳しく習っていないけど、物体を動かすためには力が必要であり、物体をより速く動かすためには、より強い力が必要になる。

 時間が止まっているということは。その状態で物体が動くということは。

 0秒で目的地に到達する、まさに光の速度を超えた無限の速度。

 生じる無限の質量と、それを動かすための無限の力。


 そんなものは存在しないのだ。故に、時止めは使えない。能力の中に動けると書いていても、動くための力が足りない。

 フィクションでは時を止めて動く描写なんていくらでもあるのに、あれは一体どうやって動いているんだろうか。



「時間を止めたら、光も空気も何もかも止まっていました」


「あー……なるほど。わかったよ、夜嗣君。それは比較的簡単に解決できる」


「え?」


「君は高校に入ったばかりにしてはかなり頭がいいんだと思う。相対性理論とか、そういうのほんのり頭に入っているんじゃない?」


「え、ええ。まぁ、多少は興味ありましたし……」



 授業で習っていなくても、興味があったからネットで調べたことがある。

 タイムマシンは実現可能なのだろうか、とか。そのときに出てきたことで、先程の推論が立てられたのだ。

 


()()だよ、夜嗣君。異能力は、覚醒者の知識や想像力を基に発動するんだ」


「はい……」


「君の知識は間違っている。止まった時の中では動けるし、呼吸もできる。目は見えるし、音も聞こえる」


「……?」


「私も初めて能力を使おうとした時は戸惑ったものだよ。無から有を創造するなんて、質量保存の法則に背いている!発動できるわけがない!ってね。けど、できるものなんだ、異能力はそれを可能にしてしまうんだって心から信じたら、なんだって創れるようになったよ」



 そう言って奏さんは、僕に見せつけるように缶チューハイを創り出した。

 言われてみれば、確かにそうだ。明らかに物理法則に反したことを、なんともなしに行っている。海琴さんの次元の穴だって、あれこそ物理的に説明がつかない。松賀さんの凍らせる異能力もだ。



「ねぇ、夜嗣君。私を、異能力を、信じてくれるかい?」



 真っ直ぐに僕を見つめながら。

 そして、ゴミ袋を僕の手に握らせながらそう言葉を発する奏さん。



「わかり、ました。やってみます」



 固定観念を捨てる。言うは易し、行うは難しの典型ではないだろうか。

 だが、最近の僕は1つ前例を持っている。

 【念動力】も、原理のわからないままに使っている。あれと一緒だ。物理的に説明がつかないことでも、能力はどうにかしてくれる。

 【念動力】はオートでどうにかしてくれたけど、【明滅する時の王】は自分でそこの辺りをきちんと考えてあげなければならなかったのだろう。


 そう心から信じて能力を使えば。

 奏さんは。

 世界は、完全に静止していた。






 


「い、いかがわしいな」



 思わず声が漏れる。動きを止めた綺麗なお姉さんがこんなに情欲を唆る存在だとは。

 思春期の男子が時を止める能力を手に入れるなんて、よくない。僕で良かった。僕は自制心が強い。だから僕で良かった。

 ……奏さん、酒は飲むしタバコは吸うみたいだけど、面倒見は良さそうだし、優しいし、美人さんだし……。

 


「だめだ、空き缶を片付けよう」



 頭に湧いてくる邪な感情を振り払うように、床に散らばった空き缶を拾う。

 


「おお、面白い」



 空き缶を持った手を離すと、空き缶は少しだけ落ちたあとその場に静止する。

 本当にアニメで見るような能力だ。奏さんの的確なアドバイスのおかげで、異能力をマスターしたも同然。

 逆に言えば、これ一人で使ってみたら二度と使わないと封印していただろうな。


 それに、時を止めている間でも【念動力】は使えるようだ。

 これで誰にも見られないように好きなだけ訓練ができるというもの。


 






 

 その後もどんどんと【念動力】を駆使して空き缶を袋に入れていき、他のものも軽く片付け、粗方片付けを終えてから時を動かした。

 


 


「……うわっ、想像はしてたけどいざ目にするとすごいね」


「ええギリギリですが袋一枚で足りました。衣類は軽く畳んでそこに。下着とかなくてよかったですよ」



 冷静に考えたら女性の衣類に勝手に触れているのも少し問題があるし、下着の話をするなんて完全にセクハラだが、気分が上がっててそこまで考えが及ばなかった。



「ああ、私基本下着つけてないからね。いやぁ、それにしても助かったよ。これで武者小路に怒られなくて済む」


「えっ」



 しかしながら僕のセクハラ発言を超えるとんでもない爆弾発言に、思わず僕の目が奏さんの胸に行ってしまう。自制心でなんとか抑えようとしたが、衝撃的な発言のせいで一瞬僕の目は僕の制御を外れた。

 そして最悪なことに、その瞬間を奏さんに見られていたようだ。

 奏さんはその控えめな胸を腕に抱きながら、僕の視線から庇うように動く。



「……冗談だよ。大人びて見えるけどまだまだ思春期だね」


「えぁ……ごめんなさい……だけどからかわないでくださいよ……」


「……見てみる?」


「これ、僕がはいって言ったらどうなるんですか?」



 奏さんは、だめだよ、と言い笑いながら僕のほっぺを両手で摘んできた。

 これが、大人なお姉さんの色気……ってコト!?

 瞬間的に顔が真っ赤になってしまい恥ずかしくなったので、時を止めて奏さんの手から脱出。部屋の隅に逃げる。



「……わっ、早速使いこなしてるね。それじゃあ他にも夜嗣君に言っておかないといけないことがある」


「……はい、なんでしょうか」



 ここまでの和やかな雰囲気を断ち切るように、奏さんは真剣な目で僕を見てきた。

 奏さんも立ち上がり、僕に近付いてくる。



「絶対に、この能力を悪用してはいけない」


「はい」


「覚醒者じゃない人が見ていそうな場所で、不用意に異能力を使わない」


「はい」


「誓える?」


「誓います」


「それじゃあ……目を瞑って……?」



 奏さんは、その時すでに僕の目の前に居た。

 壁に手を突き、僕の顔に顔を近付けてくる。

 息がかかる程の近さ。ほんのりと上気した奏さんの頬。

 雰囲気に飲まれ、逃げることもせず僕は目を瞑った。




 バチッ。


 

「え、痛っ」


「はい終わり。鏡見ながら異能力を使ってみて」



 何か静電気のような感触が右頬を走った。少し痛みはあったが、既に消えている。

 差し出してきた鏡を持って、言われるままに時を止めた。



「これ……」



 僕の右頬に、白く輝く紋章が浮かんでいた。

 剣と天秤が組み合わさったような形に、天秤の片側には雷のようなマークがあり、もう片側には時計のようなマークが描かれている。

 鏡を見ながら能力を解除すると、5秒ほど経過して色を失い消失した。


 これって、松賀さんや海琴さんの顔にも出てきてた紋章によく似ている。色は違うけど……。



「あの、これは?」


「これは誓約の紋章。浅田さんの能力から創ってて、誓約を破ったら浅田さんと社長に君の居場所が伝わるようになってる。覚醒者は全員やる決まりなんだ。能力を使うと浮き出るようになってる」


「なるほど……あれ、これって顔だけですか?」


「うん。みんな右頬だよ」


「さっき奏さんが能力を使う時は出てきませんでしたよね?」



 奏さんの言うとおりなら、先程ゴミ袋や缶チューハイを創ったとき右頬に浮き出ているはずだ。

 だけど、正面から顔を見ていても何も出てきていなかった。



「お、鋭いね。明らかに誓約を破らない程度の能力行使なら浮き出ないよ。私なら、拳銃創ったり効果のある道具を創ろうとしたら紋章が浮き出るかな。誓約を破ったら紋章の天秤が雷の方に傾いて、能力の発動をやめても出っぱなしになる」


「そういうことでしたか」



 なるほど。でも僕の場合だとその程度の能力行使はできなさそうなので、時を止めている間は常に紋章が出ていそう。



「それにしても、さ」


「はい?」


「……キスされると思った?」



 ニヤニヤと半笑いで僕の顎をクイッとしてくる奏さん。悲しいかな、奏さんのほうが数センチ身長が高いので、非常に情けないことに僕が見上げる形になっている。

 なんだか少しむかついた。僕の中の平均より低い身長に対するコンプレックスが恥じらいに勝った瞬間である。



「してくれないんですか?」



 そう言いながら、少し顔を近づける。

 うわ、酒くさ。いつの間に酒飲んだんだこの人。缶チューハイ開いてるし。

 どういう反応をするのか気になったが、思ったよりも効果はあったようで。



「な……生意気!生意気!生意気!もう!うざい!だるい!」


「言い過ぎです」



 顔を真っ赤にしながら僕から距離を取る奏さん。

 もう、僕はこの人をちゃんとしたお姉さんとしては見ることはできなくなっていた。

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