21.覚醒異能力の等級と人数
「うん?どうしたんだい?」
「い、いえ。こちらこそよろしくお願いします」
握手をするために手を差し出したのに、動かない僕に対して何を感じたのか。
自称・桜御翁元親は僕に問いかけてくる。慌ててその手を取って握手をした。
夢の中で話したときは【虚偽感知】は何も示していなかった。
目の前の人物が夢の中に出てきた人と同じなのであれば、僕の夢の中に桜御翁元親が侵入してきたとき、僕は能力を行使することができないということになる。
抵抗できずに殺される可能性を考え、背中に冷や汗が垂れた。
もし昨日話した人が本物で、夢の中でも能力が使えたとしても、目の前にいる人物が偽物ということになってしまう。そして、周囲の人はそれに気付いていないということにもなる。
どっちに転んでもロクなことにならない。
だが、今できる最善の策は、全力で気付いていないフリをすることだけだ。
「あはは、夢でちょっと脅しすぎちゃったかな?責任だなんて仰々しい言葉を使ったけど、要は私利私欲のために使ったらだめだよ、平和を保とうねってことを伝えたかっただけなんだ。覚醒者のほとんどが、能力を悪用することで簡単に国を滅ぼすことができる」
「それは……そうですよね、ありがとうございます」
「まぁそんなこと試したら一瞬で社長に殺されちゃうだろうけどね!あはは」
嘘は吐いていないみたいだ。
この人も、私利私欲のために能力は使わない方針なのだろう。だが、偽名を使っているであろうことと、夢の中で僕は抵抗できないという可能性はまだ消えていない。
自分の名前を偽るなんて、何か後ろめたい理由がなければしないはずだ。もしかして、指名手配犯とか……?
あまり考えすぎて顔に出ても良くない。別の事を考えよう。
能力の悪用で社長に殺されるという言葉。下手すると、桜御翁元親の問題よりもそちらの方が危険な気もする。
「あの、社長っていうのは……」
「あ、そういえば全然この組織の事説明してないね……浅田君、時間大丈夫?」
「急に集まったからね、私もちょっと本部に行かないと……今日本部に行かない人って誰だっけ?」
「私だけだね」
アーサーの問いかけに対して、奏さんがそう答える。海琴さんに連れてこられたこの場所が一体どこなのかわかっていないが、こことは別に本部とやらが存在するらしい。清澄さんも先に本部へと向かったようなので、本来ならここに人はいない予定だったのかもしれない。
「よし、じゃあ御厨さん。この組織についての軽い説明と、今後の注意だけお願いしていいかな?」
「はいはい、任せていってら」
「1時間くらいで栗山さんを先に戻らせるから、それまでよろしくね!それじゃあ栗山さん。本部までお願い。あ、そういえば松賀君と天津さんは?」
「おけです。どっちも先に本部に送ってるです」
海琴さんが開けた次元の穴に、みんなが歩いて入っていく。
どこでも〇アをもっと便利にしたような能力、正直言って羨ましい。僕もガチャからあんな感じの能力手に入らないかな。
「じゃ、また後でです」
他の人がみんな入ったのを確認して、海琴さんも次元の穴へと姿を消した。直後に、次元の穴が消失する。
後には僕と奏さんが残された。
「とりあえず私の作業室に向かいながら話そうか」
「はい、わかりました」
「さっきはごめんね」
「え?」
「手、触っちゃって」
ああ。確かに手を握られた。
あまり女性に手を握られた経験はないのでドキッとしたが、それ以上にアーサーまで僕の手を握ってきたことに対して驚いたのですっかり忘れていた。
「全然大丈夫です。僕の能力が奏さんの役に立つ……んですよね?」
「そう!そうなんだ!みこちゃんの異能力を使った道具で周囲への影響を一切気にすることなく戦闘をできるようになって、民間人への被害は5年前に比べてほとんど0になったと言ってもいい。本部には魔物の出現場所と時間を感知できる覚醒者がいるから、その人からの指示でどこでいつこの道具を使うか決まるんだけど、じつはこの道具って欠点があってさ、3時間っていう時間制限があるんだよね。松賀みたいな超強力な異能力を持っていれば、周囲一帯ごと魔物を消し飛ばせるんだろうけど、全員がそういうわけにはいかないから、複数の魔物がセットになってたり、分裂するタイプだと時間切れになる可能性もあってリスクが高かったんだよね。だけど、君の覚醒した異能力を組み合わせることでその時間制限を……あ、ごめん。つい熱くなっちゃった」
「い、いえ。ちゃんと聞いてますよ」
突然目を炯々と輝かせながら、マシンガンのように喋り始める奏さん。既にその兆候は見えていたが、気だるげなダウナーロングウルフお姉さんのイメージは完全にぶち壊れた。
いや、こういうのはギャップがあって良いのか?
「んーん、ごめん。どこから話そうかな……夜嗣君。赤誠コンポーネント株式会社って知ってる?」
「名前は聞いたことあります」
赤誠コンポーネント株式会社。機械の部品などを企業向けに販売している会社だったかな?詳しいことは知らないけど、学生の俺でも知っている大企業。
そんな会社の名前がなぜ急に出てくるのだろうか。
「だよね。その会社がうちの組織。従業員全員覚醒者なんだ。というか覚醒者は全員うちの従業員になるって言った方が正しいかな?」
「えっ」
「ふ、良い反応」
あ、ダウナーロングウルフお姉さんの笑顔可愛い。
ではなく。割と昔からある結構な大企業だったはずだが、従業員が全員覚醒者?そんなに覚醒者が居るのに、テレビにはインチキ超能力者ばっかり出てくるのか。じゃなくて。最近色々ありすぎてダメだ、すぐ変な方向に思考が傾く。
そんなに覚醒者が居るのに、社会的に隠せている事実、そして統制が取れているであろう事実に、僕は少し恐怖を抱いた。
「夜嗣君、さっき涼香に王級覚醒者って言われたの覚えてるよね?」
「はい」
「覚醒者ってのは、5つの等級がある。下から、借用者、主、支配者、王、神って分かれてて、上に行くほど強力でデメリットが無くなっていく。夜嗣君は上から2番目の等級の異能力に覚醒したんだ」
「それって良いんですか?」
「もちろん。この会社の全従業員数は3000人以上だけど、王級の覚醒者は君を含めて13人しかいない。神級覚醒者なんて、浅田と社長だけだから」
ということは全国に3000人以上の覚醒者がいるのか。それだけいれば同じクラスに覚醒者がいてもあり得ない話ではないだろう。いや、確率は相当低いだろうけど。
13人しかいないという王級覚醒者の何人が、先ほどの円卓に居たのだろうか?
「あ、そうだ。夜嗣君、あとで異能力使ってみてよ」
「え、いいんですか?」
「大丈夫大丈夫。そもそもこの場所出入り口ないから、勝手に外に出て悪用とかできないしね」
衝撃の事実。そういえば確かに、廊下らしきところを歩いているが窓がひとつもない。
地下なのかなぁとうっすら考えてはいたが、まさか出入り口がないとは。
あれ?僕今拉致監禁されてるってこと?
「ここが私の作業部屋だよ、ほらいらっしゃい」
「おじゃまします……わぁ」
「おっと」
バタン。
開けた扉を秒で閉める奏さん。一瞬見えた室内は、足の踏み場もないほど物が散らばっていた。
「うーん……武者小路が帰ってきたら片付けてもらえばいいか。やっぱりいいよ、入っておいで」
「お、おじゃまします……?」
再度扉を開く奏さん。僕を外に置いて片付けるか迷ったけど、面倒くさかったのか清澄さんに丸投げ宣言をした。
机の上には灰皿と山盛りになったタバコの吸い殻。床には酒の空き缶が散らばり、生活雑貨や何に使うかわからないものも散らばっている。
寝袋やアイマスクらしきものもあるので、ここで寝泊まりすることがあるのかな。
それにしても、歳上とは思っていたけど20歳越えてたとは。……越えてるよな?
「いやー、油断した。作業部屋はまだ片付けてないんだった。ごめんね、夜嗣君。適当に座って?」
「適当に……」
「ほら、このへんと、かっ!座れるでしょ」
そう言いながら奏さんは豪快に空き缶を蹴り飛ばし、床を露出させる。
他に座るところもないので、大人しくそこに胡座をかいて座った。
「さっきも言ったけど、私の能力って道具を創造する能力なんだけどさ、創り出しても消すことは出来ないから部屋が散らかりやすいんだよね」
「……なるほど」
喉元まで出かかった、殆ど酒の缶じゃないですかという言葉は何とか飲み込めた。
「じゃあ、能力の使い方だけど……なんとなくわかんない?」
「なんとなくわかります」
「だよね。覚醒してから体に違和感はあったかもだけど、能力名聞いたらパッと使い方わかるよね。私もそうだったし」
体に違和感があったかと言われると、とくにそういったものは感じなかったが……確かに、【自己分析】で覚醒異能力の存在を確認してから使い方はわかっていた。
ただ、使う機会がなかっただけだ。人の目がある場所で時を止めたりなんかしたら、次に動かした時に僕の体の位置で不審がられるに決まっている。
人目のないところでじっくり練習したかったが、こういう状況になったので時間停止に関しては遠慮なく使えるだろう。
「でもただ止めて動いただけじゃ私がわかりにくいので……はいこれ」
「これは……?」
「ゴミ袋」
見ればわかる。
問題はどこから取り出したかと、なぜゴミ袋を渡してきたかだ。
「私の能力ってね、【蒐集する創造の王】っていう王級の異能力なんだけど、特殊な道具以外にも自分の知っている物質はなんでも創造できるんだよね。デメリットなしで」
「え、なにそれ強すぎません?」
「うん。それだけ王級の覚醒者は理不尽な存在なんだよ。私の異能力なんてまだ大人しいほうだから」
「凄いですね……それで、なんでゴミ袋なんですか?え、もしかして……」
「時止めてる間に……ね?空き缶だけでいいから、お願い……」
ダウナーロングウルフお姉さんの上目遣い。
この人は、歳下にそんなお願いをするなんて恥ずかしくないんだろうか。
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お絵描きできる人はダウナー系黒髪ロングウルフお姉さんこと、奏さんを描いてください(欲望)




