20.異能力覚醒者集団
次元の穴を抜けた先で、僕は目を開ける。
中央に空間のある、円卓とでも呼べばいいのだろうか?それの中央に立たされていた。
数えると13席あり、空席がいくつかあるようだが、それでも数人はこちらを観察している。
冷や汗が垂れる。この人たちも、松賀さんのように破壊的な異能力を持っているのだろうか?
「大丈夫です。悪いようにはならないです」
僕の緊張を察してか、海琴さんは背中を軽く叩いてくれる。
海琴さんはまた次元の穴を開き、その中に入っていく。かと思えば、円卓の空席に出てきて、静かに座った。
「さて、それじゃあ話を始めようか」
円卓の中でも一際豪奢な椅子に座っている金髪の美男子が、真っすぐに僕を見つめながらそう言う。
僕の緊張をほぐすためか、にっこりと笑いながら言葉を続けようとする。
「私の名前はア「あれ!?やっぱり姫宮君だよね!」……知り合いでもいたかな?」
「え、天津……さん?」
名乗ろうとした金髪美男子の方を向いていると、右から大声が聞こえてきたかと思えば、そこには先日ジョギングで出会った同じ学校の生徒、クラスのマドンナ天津紗凪さんが居た。
興奮を隠しきれないのか、円卓から身を乗り出してこちらに来ようとしており、隣に座っていた人に慌てて止められている。
「なんやなんや!二人は知り合いかいな!」
「はい!同じクラスの姫宮夜嗣君です!へー、姫宮君も覚醒したんだ!」
「それはわかったから1回すわろか!大将の名乗り邪魔してんで!」
天津さんを抑えている関西弁の女性。根元が黒で途中から金髪の、所謂プリン頭というやつで、髪型は後ろで一つ結びにしている。
正直こちらとしても天津さんが覚醒者であるということには驚いている。が、なんとなく納得した。人に話せない悩みを抱えているような雰囲気ではあったが、これのことだったのだろう。
こっちに手を振ってきている天津さんに小さく手を振り返し、再度金髪の美男子の方へ居直る。
「改めて……私はアーサー・ペンドラゴ「本名は浅田さんって言うんだよー!」……栗山さん、お願い」
「わかったです」
「ええっ!なんっ……」
本日二人目の強制退場。天津さんは下に落ちていった。円卓で見えないが多分次元の穴でどこかに飛ばされたのだろう。
もっと大人っぽいと思っていたのだが、人の名乗りに大声で横槍を入れるタイプの人だったとは。親しみやすいというべきか、アホの子というべきか……。
「はぁ……ようやっとアーサー王伝説になぞらえて円卓も用意して、強力で協力的な覚醒者で円卓を埋められそうだったのに……欠席する人はいるし、松賀君はなぜか帰ってこないし……名乗り終わる前にネタバレする人はいるし!私の円卓騎士計画が!」
「浅田君、諦めなよ。いきなりだったからむしろよく集まってる方だし、僕もおもしろそうだから乗ったけど、やっぱりいつも通りの方がよさそうだ」
「元親君……」
アーサーペンシルゴン改め浅田さんの、僕から見て右側に座っている見覚えのある白髪の美男子。
昨日僕の夢に侵入してきた桜御翁元親がそこにいた。
浅田さんを落ち着かせた彼と目が合うと、彼もにこやかに手を振ってくる。
なんだろう、思っていたよりも雰囲気が軽い。天津さんはデジョンされたけど。
夢の中でのあの仰々しい言い方は、脅しか何かだったのだろうか?
「さて、改めまして。私の名前は浅田星見。気軽にアーサーと呼んでくれてもいいんだよ」
「恥ずかしくないんかあんたは」
「諦め悪いです」
「あの辺の話、ガウェインとランスロットくらいしかわからないんだけど」
「逆になんでその二人知ってるの?あ、やっぱいい言わないで」
「ねぇ、この円卓片付けていい?」
「ハハハ!おもしろいね、浅田君!」
浅田さんはアーサー王伝説のファンなのか、どうしてもアーサー扱いしてほしいみたいだ。
そしてそれに対して総ツッコミが入る。最初ここに来た時の重い空気感は完全になくなり、今は皆が和気あいあいと喋っている状態である。
こっちが本来の姿だとしたら、緊張した空気を弛緩させてくれた天津さんは良い仕事をしたのかもしれない。
「初めまして、アーサー。先ほど天津さんからも聞いたと思いますが、姫宮夜嗣と申します」
とりあえず雰囲気も良さそうなので、片膝をついてノッておこう。
すると、アーサーはワナワナと震えだし、下を向いてしまう。あれ、もしかして怒らせちゃった……?呼んでって言われたのに。
「夜嗣君!いやガラハッド!今日から君は私の親友だ!」
「えっ」
言うが早いか、アーサーは円卓を飛び越え僕に抱き着いてくる。突然のことに一切の抵抗ができなかった上、妙なあだ名をつけられてしまった。
あ、この人いいにおいする。
「アホが1人増えよったわ」
「星×夜……と」
「その写真何に使うの?あ、やっぱいい言わないで」
「円卓片付けるね」
「姫宮君、随分と気に入られちゃったね!ハハハ!」
音もなく円卓が消え、後には椅子に座っている人達が残る。
残った人たちも椅子から立ち上がり、こちらに近付いてきた。
アーサーは手を広げたまま僕から離れ、一人の女性の方に向かう。アーサーに抱きしめられているときにスマホでパシャパシャと写真を撮っていた女性だ。
長い髪は少しぼさっとしており、前髪と眼鏡で顔がよく見えない。
「ガラハッド!この人が君の異能力を調べてくれる、有馬涼香」
「目の保養ありがとうございました雑食ですどうぞよろしく」
「よ、よろしくお願いします、有馬さん」
猫背でわかりにくいけど、近くで見るとこの人結構身長高いな。多分背筋伸ばしたら僕より高そうだ。
いや、僕は今のところ平均より下だけど、父親の背が高い遺伝子を受け継いでいればいずれは大きくなるはず。女性に負けたところで、大した屈辱はない……。
握手を求めてきたので返しておく。
「……うんうん、やっぱりそうだ。浅田、やっぱりこの子王級だよ」
「っ……い、今のでもう何かわかったんですか……?」
しまった、触れるだけで調べることができるのか。
なんの心の準備もしていない状態で調べられてしまった。思わず、握手していた手を引っ込めてしまう。
「うん、異能力名は【明滅する時の王】。時間を止めるのと、時間を動かすのがワンセットになってる能力っぽい」
「時間停止!?」
あの一瞬の握手で、僕が新しく手に入れていた覚醒異能力の内容が完全に把握されている。
そして、容赦なくこの場で公開されている。他の能力がバレていないかとドキドキしていると、先ほどまで有馬さんの隣に座っていた、聞いておいて回答を拒んでいた女性が大声を出す。
見た感じは黒髪ロングウルフのダウナーお姉さん。その人がズンズンと近付いてきて、鼻息荒く僕に詰め寄ってきた。
「君みたいな人を探していたんだ!」
「おっと!ガラハッドは私の親友だからね、渡さないよ」
「ちょい、二人とも落ち着き!話が進まんわ!」
ダウナーお姉さんが僕の右手を掴んできたかと思えば、アーサーが左手を掴んでくる。その場面の写真を無言で撮影する有馬さん。
カオス空間になりつつあったところを、プリン頭のお姉さんが宥めてくれた。ダウナーお姉さんの方はハッとして少し離れてくれたが、アーサーは手こそ離したものの、僕の隣からは離れなかった。
「ごめん、いきなり。私は御厨奏。他の覚醒者の異能力を使って、色んな道具を創る異能力を持ってるから、君みたいな時間関係の異能力者が欲しかったんだ」
「ここへ来る前に経緯は聞いてたで、ウチは龍仙朱音。怪我した人を治す治療要員しとるさかい、夜嗣君も怪我したら言いや!」
「御厨さん、龍仙さん。よろしくお願いします」
覚醒している異能力を明かしながら自己紹介をしてくれるお姉さん方。雰囲気からして大学生とかだろうか?
有馬さんの居た方を見てみると、既に椅子に戻ってスマホを弄っていた。かなりマイペースな人のようだ。
だけど、僕の他の能力について何か言ってくる様子はない。
後で僕の居ないところで話をする可能性も考えたけど、スマホを見ながら時折ぐへっと笑って言る姿を見ると、とてもそうは思えなかった。
有馬さんの異能力は、僕の【自己分析】のようにすべて表示するのではなく、同じ覚醒異能力だけがわかる能力、と考えるのが自然か?ひとまず、今のところは大丈夫そうなのでほっと胸をなでおろす。
「うーん、固いなぁ……夜嗣君、今何歳なん?紗凪と同じ16?」
「いえ、僕早生まれなのでまだ15です」
「若いなぁ~、ほな朱音ちゃんって呼んでええで!朱音おねぇちゃんでもええわ!」
「あ、私も奏でいいよ」
「わかりました、朱音さん、奏さん」
アーサーと呼ぶのはまだいいんだけど、流石におねぇちゃん呼びは要求されても応えられない。恥ずかしすぎる。
「僕は武者小路清澄。清澄でいいよ。見てたと思うけど、物体を出したり収めたりできる能力を持ってる。仲良くやろうね」
「はい、よろしくお願いします!」
「それじゃあ僕は先に用事があるからまたね。栗山さん、本部までお願いできる?」
「任せろです」
清澄さんは、黒髪で目元が完全に隠れている男の人。身長も僕より10センチほど高いだろうか?
両手で握手をしてくれたし、話し方も優し気で良い人そうだ。忙しい人なのか、海琴さんの開けた次元の穴に姿を消していった。
本部が別にあるということは、ここは支部なのか。
「いやぁ、馴染めてよかったよ、姫宮君。緊張したでしょ?」
「はい……松賀さんの戦いを見てから来ましたし、昨日の夢での話し方もあって、凄く緊張しちゃいました。実際に話してみると皆さん良い人ですね」
白髪美青年、桜御翁元親が近付いてきて僕に話しかける。
阿武堂さんがなぜこの人のことを隠したのかはまだわからないが、そのうちわかることだろう。
ここにいる人たちもみんないい人だし、僕は必要以上に桜御翁元親のことを恐れすぎていたのかもしれない。
だけど、続く彼の言葉で僕の緊張感は一気に高まることになる。
「改めまして、僕は桜御翁元親。好きなように呼んでね。これからよろしく、姫宮君?」
万人を魅了するであろうその笑顔が、その声色が。
嘘を吐いていることがわかってしまう僕には、酷く恐ろしいモノに見えた。
黒髪ロングウルフダウナーお姉さんの絵が無限に欲しい




