想定外
意外と時間というのは早く過ぎていくもので、あっという間に1ヶ月が経った。
その間にもわたしの株は結構上がっていた。
なんと、公爵に書類整理を任されるまで。
まあ、書類を整理するときは必ず公爵の目の届くところでしないといけないんだけど。
それでもこれはとてもすごい進歩だ。
これなら1ヶ月頑張った甲斐というものがある。
ちなみに、いまだにわたしは働きまくっている。公爵には許可してもらった。
「公爵様、書類の整理終わりました」
「ご苦労、…掃除に戻って良いぞ」
あの日から公爵はわたしと目を合わそうとしない。侍女長も執事長も料理長も、多分わたしが本当に色々していると証言してくれたんだろう。
"疑っておいてそれが誤解だったのだから気まずくもなるわよね、うん"
…あれ?、公爵の顔色が悪いような気がする。
「公爵様、顔色が悪いように見えますが、大丈夫ですか?」
「……ああ、…大丈夫だ。」
こうやって少しだけど返事もしてくれるようになった。
にしても本当に顔色結構悪いんだけど、大丈夫なの?
まあ本人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫だろう。
「分かりました。では失礼……」
ードシン!ー
あまりにも大きな音だったので後ろを振り返ると、あの大丈夫はどこへやら、公爵が倒れていた。
「えっ?!えっ?公爵様!大丈夫ですか!」
"どの口が大丈夫なんて言ってるの"
とりあえずセバスさん呼ばないといけない。
「少しだけ待っててくださいね。すぐ参ります」
急がないと…もしこれが流行り病なら、公爵を急いで寝具に移動させないといけない。
そして、その周辺に誰も近づけてはいけない。
「ッハァ、ッハァ、セバス、サン!公爵様がお倒れに!わたしだけでは無理ですので、セバスさんにも手伝って頂いて良いですか!」
「は、はい!」
良かった。こんなに焦ってたら信用するしかないはず。こんなことイタズラで言う訳ないし、言うとしたらタチが悪すぎる嘘だ。
「セバスさん、こちらです!、公爵様、大丈夫ですか?!今運びますから」
「さ、わる、な」
「こんな時に何言ってるんですか!わたしが触れるのは我慢してください!後で怒っても良いですから」
「………」
静かになった…、公爵には申し訳ないけど、公爵が治るまでわたしが指揮を取らせてもらおう。
また信用と好感を失うかもしれないけど、仕方ない。
背に腹は変えられない。
「セバスさん、お願いがあります。」
「なんでしょう、お嬢様」
「今からわたしとセバスさん意外は公爵様の部屋と部屋の周辺に来てはいけません。」
「な…!それはどういう…」
「公爵様の症状の発熱、眩暈、そして意識が朦朧とする。この症状は流行り病の可能性があります。流行り病は空気感染ですので、公爵様の部屋周辺に来てしまうと感染する恐れがあります。ですのでみんなをここから遠ざけてください。お願いします。」
「…かしこまりました。ですがお嬢様も、ここの部屋周辺には来ない方がよろしいかと」
「いえ、わたしは公爵様の看病をします。だって、みんなのうちの誰かが感染したらそれは悲しいじゃないですか。」
「お嬢様…」
「それなら、みんなの安全が最優先です。当たり前でしょう?」
「っ_!」
何を驚いてるんだろう。
だって、一緒に働いたり昼食を美味しいって言ってくれてるみんながしんどい思いをするなんて嫌。
"だれかのしんどい顔を見るなんてしたくない"
前世でも、みんなのしんどい顔を見るのは嫌だったので、なるべく仕事を手伝うようにしていた。
これも同じような感じだ。
「だからみんなに伝えてください。公爵様の部屋と周辺の掃除はわたしに任せて、みんなは持ち場をしっかり掃除すること。公爵様の部屋と周辺が担当の人は各自臨機応変に場所を変えて対応していくこと。この2つをお願い出来ますか?」
「…分かりました。ですがお嬢様も決してご無理はなさらず」
何を今さら。
「大丈夫よ」
ーパタンー
さて、わたしも出来ることをしないと。
今期の流行り病は死亡例もあるほど危険な病だ。症状は頭痛、眩暈、そして発熱
症状はいたって単純だが、それは重症化しなかった場合。
もし仮に重症化すれば、頭痛は重くなり熱は急激に上がる。そして治るまでに時間がかかってしまう。
問題はこの熱なのだ。人の体温は42℃を超えると死に至ってしまう。
身体が熱の暑さに耐えられず、機能不全になるのだ。だから必ず重症化は防がなければいけない。
騎士団の仕事も公爵としての仕事もあるのに、重症化して病み上がりで仕事に追い詰められるのは可哀想だ
流石にわたしでも出来る資料はやらせてもらうことにしよう。
多分公爵を看病しながらでも出来るだろう。
ひとまず水を飲ませよう。発熱で汗をかいてると脱水症状を引き起こす可能性がある。
「公爵様、お水飲めますか」
「…………」
返事はないけど飲んでくれてる。
それで良い。
汗をかけば拭かないといけないし、身体を拭くのはセバスさんに任せるにしろ、セバスさんにずっと起きてろなんて言えない。
だから看病はわたしがすると言ったのだ。
「公爵様、タオル置きますね」
少しだけ気持ち良さそうに、だけど熱そうにしてる。
ここで体力を失ってしまったらそれこそ重症化する可能性が上がってしまう。
ならばここは
「公爵様、少しだけ席を離れます。すぐに戻って来ますね」
"急がないと…"
厨房に、行って材料を揃えてもらおう。
それからセバスさんには公爵のしている資料を持ってくるよう頼んでおこう。
「料理長!」
「お嬢、あんた1人で看病するんだって?」
もう言ってくれている。流石、セバスさんは仕事が早くて助かった。それなら話も短くて済む。
「はい、そうです」
「本当に大丈夫か?俺に出来ることはあるか」
本当、料理長さんも丸くなったと思う。
今となっては愛称だけど、初めは皮肉の意味を込めてお嬢って言ったの覚えてるんだから。
でも、本当は優しい人だって分かってたし、今更そんな前の話をしても意味なんてない。
とにかく手伝えることは手伝ってもらわないと手が足りない。
「それでは、おかゆを作りたいので、今から言う材料を用意してください」
見てくださってありがとうございました!
奮闘するお嬢様はこれからどうなっていくのでしょう( ^ω^)