幸せな夢と不幸な現実
「何故、言わなかったのですか…?」
「ん…」
「今の状況に至るまで、奥様は苦しいことがたくさんあったはずなのに、何故ご令嬢方には、それを話さないのですか…。」
正直、その質問は来るだろうなと思っていた。
わたしの周りの人は、よく質問してくれる。
わたしの言動に疑問を持ったから。
わたしのことをもっと知りたいと思うから。
わたしのことを少しでも探りたいから。
理由は色々ある。
今回のリアの質問は、探りたい訳でもないだろうし、知りたいと思ってる訳でもないから、
ただ疑問に感じたのだろう。
何故ありのままのことを話さないのかという疑問だ。
わたしからすれば、答えは単純だった。
「あのね、リア。世の中には知らなくて良いことがいっぱいあるでしょ?」
「奥様のあの苦労が、知らなくて良いことなのですか…?」
そうよって言ったら、リアは怒るだろうな。
知らなくて良いこと、知らない方が良かったことなんて、世の中にはたくさんある。
その知らなくて良いことの中に、わたしの過去が入っていた。
本当にただそれだけ。
「別にあの子たちからのわたしの評価を気にしてる訳じゃないわよ。」
「そんなこと、分かってます…!」
リアが強い感情を訴えてくるのは、わたしが怪我をして帰ってきた時以来だ。
「私が言いたいのは、奥様の幸せは、楽して手に入れたものではありません。自分の努力を、1つでも話しても良かったのではありませんか…」
リアの言いたいことも分かる。
だけど、いつ、誰が、どこで、何を聞いてるかも分からない安心出来ない場所で、話せるわけがない。
もし仮に、わたしがバーンスタイン家で自分の過去を話したとしよう。
それが誰かに聞かれていたら?それがまた噂として広まってしまったら?
わたしの噂には更に尾ひれがついて、これ以上体面を損なってしまったら今度こそ取り返しがつかない。
それに
「幸せな夢を見ててほしい。あの子たちなら家柄も良いし、きっと夢を見たまま幸せな人生を送れる。その中に、不幸な現実を見せる必要はない。」
「奥様だって、あのご令嬢方とそう年齢は変わらないのに、どうしてあなただけ不幸な現実を見なければ…」
リアが最後まで言う前に、わたしはリアの両手を取った。
確かに不幸な現実だ。
母は亡くなり、父とは会話もなかった。
姉とはそもそも話す機会すら与えられなかった。
公爵家でも散々敵視されたし蔑まされることもあった。
でも、それだけじゃない。
「わたしを救ってくれたのも、こんなに幸せな感情でいっぱいにしてくれたのも、全部公爵家にいるみんなのおかげ。その中にはもちろんリアもいる。」
「…っ!」
「前に言ったわよね。わたしは感情が分からないって。」
「はい…」
「今は違う。ちゃんと分かる。」
リアには、わたしを不幸な目に遭った哀れな人だと思ってほしくない。
「これも、公爵家のみんなが教えてくれたわ。」
だって、今はとても幸せだから。わたしがリアに感じてるこの気持ちも、分かる。
「だからね、リア。わたしはリアのことが大好きよ。」
ずっと隣にいてくれてありがとう。
感情が分からないって言った後でも、わたしに付いてきてくれてありがとう。
1番初めに、わたしのことを信頼してくれてありがとう。
何より
「こんなにわたしのことを思ってくれて、ありがとう。」
「奥様__…。すみません、生意気なことを言ってしまって」
「ううん。わたしのことを心配して言ってくれたんでしょ?全部わかってる。ありがとう。」
「私も、奥様のことが大好きです…」
「ふふっ、知ってるわ。」
わたしが笑うと、リアもやっと笑ってくれた。
周りにいる人が1人でも悲しんでいるのなら、そこに寄り添ってあげたい。
わたしのことで悲しんでくれているのなら尚更。
わたしがそうして欲しかったように。
◇◇◇
皇宮で開かれるパーティーまで今日を含めて後4日。今日は木曜日だ。
つまり、バーンスタイン家に行った翌日。
本来なら、魔法の授業があるはずだったのだが、皇宮のパーティーに行くということで、今日の授業はなくなった。
そして、わたしは現在デザイナーさんを待ちながら、ルーカス様の膝の上に座っている。
もう膝の上に座ることが当たり前になっているので勘弁してほしい。
それに慣れてしまったわたしもわたしだが。
「あの、ルーカス様?」
「降ろさない」
「え」
あまりにも食い気味で応えられたので思わず驚きが声に出てしまった。
しかもわたしが言おうとしてたことへの返事だったので余計に意味が分からない。
ついにわたしが話さなくても言いたいことが分かるようになったのかと思う。
「昨日言ってたじゃないか。俺の要望に応えてくれるんだろう?」
うん。確かに言った。
邸宅に着くと、やっぱりルーカス様がさきに帰ってきていた。
その夜に夕食を取った時、ルーカス様に言ったのだ。
『わたしに出来ることがあれば、何でも言ってください。』と…。
これがその結果だ。かける言葉を間違えたのかもしれない。
わたしが少しだけ後悔をしていると、膝から降りる前にデザイナーが来てしまった。
ガチャリという音と共に入ってきたそのデザイナーは、あっけらかんと言った表情でわたし達を交互に見る。
こうなるから嫌だったのに。
見てくださりありがとうございました!
次話も見てくれると嬉しいです!




