幸せ
◇◇◇
午後にも少しお店を回った後、わたしたちはパフォーマンスを見に来ていた。
魔法を使った綺麗な景色に演出の中、役者も相当腕が立つようで圧巻の演技力を見せた。
わたしは、物語というよりも、役者の演技力と魔法の背景が凄すぎて見入っていた。
演技の内容はロマンスで、恋愛ものだった。初めはぎこちなかった2人が、友達になり、恋人になり、最後は結婚という形で幕が閉じた。
「とても凄かったですね。こういった演劇は初めて観ました」
演劇自体は前世でもテレビで見ていたので、見たことがあると言っても良いだろう。
「そうなんだな。また機会があれば見に行こう。……そろそろ、帰る時間だな」
「…はい。そうですね」
この時間が名残惜しい。お店の人はとても優しく、街に住んでる人々はみんなとても元気そうで活気があった。
たった1日で、この街が好きになったのだ。だから名残惜しく感じてしまう。
「ハナ…」
「はい、何でしょう?」
わたしが公爵を見つめると、公爵もわたしを見つめて微笑んだ。
「帰る前に、見せたい場所があるんだ。寄ってもいいか?」
「はい、もちろんです」
そうして、また公爵はわたしの歩幅に合わせて歩き始めた。最初は、街の中にあるのかと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
今公爵と歩いているところは、緩やかな坂が続いている。だからなのか、公爵はわたしの手を握っていた。
これも公爵の配慮なのだろうと、わたしも公爵の手を握り返すと、びっくりしたのか、少しわたしの手を握る力が強くなった。
だがそれもすぐに戻り、ゆっくりとした足取りで、公爵の目的地まで向かって行った。
でも、歩くだけでは少し暇だと感じたので、わたしは気になっていたことを聞くことにする。
「公爵様、一体どこへ向かっているのですか?」
わたしが質問をすると、公爵は教えたくなかったのか、また話をずらしてきた
「うむ、それより、まだデートは終わっていないのだから、ルカと呼ぶべきだろう?ハナ」
"え…これってデートだったの?"
今気付いた。
でも確かに、デート(?)が終わっていないのなら、呼び方もまだ変えない方がいいのか。
「分かりました。ではルカ、今はどこへ向かっているのですか?」
素直に納得してルカと呼んだわたしを見て、公爵はまた満面の笑みを見せた。そして
「もうすぐ着くよ」
と言って、場所は教えてくれなかった。どうしても言いたくないらしい。わたしは諦めて、坂を登ることに集中した。
でないと、ただでさえ少ないわたしの体力は、底をついてしまいそうだった。
子供の頃から今まで歩いたところと言えば侯爵邸と公爵邸くらいだった。
だから少し疲れても、この坂を登るのは新鮮で楽しいと感じた。
顔は変わっていないだろう。だが、楽しいのだ。味わったことのない経験ばかりで、わくわくする。
更にそのわくわくを掻き立てるように、公爵の言う目的地に到着した。
「ここだ。前を見てみろ」
そう言われて、疲れて下を向いていた顔を上げてみると、わたしたちがたどり着いた場所、公爵がわたしを連れて来た場所は、高い高い丘だった。
花が一面に広がっており、今行った街が一望出来る場所。
「わあぁ…!公爵様、行っても良いですか?」
「…!ああ、好きなだけ見渡してくれ」
柄にもない声が出たが、公爵の優しい声音で言った言葉は、わたしの感情を爆発させてくれたようだった。
今日回った街を一望出来て、地面には花が一面に広がっている。この景色が何だかとても綺麗で、心が揺さぶられる。
そうだ。今のわたしの気持ちは
"楽しい、嬉しい…ここが、この場所が大好き"
わたしも、公爵領を守っていきたい。綺麗で大好きな大切な場所。
今はここに座っても怒られないだろう。ドレスではないから、多少汚れても洗い落とせる。
その考えに至ったわたしは、花が一面に広がっている地面に腰を下ろした。
今度は落ち着いた感情で街を見ていると、色々な人がいたことが分かる。
街を回っている時、気さくに話しかけてくれた人。『お似合いだねぇ』『素敵なカップルだ!』と、笑顔で言ってくれた人。
今日のことは全てが大切な思い出だ。忘れたくないし忘れない。
こんな素敵な思い出をくれた公爵に、大切な場所をくれたこの場所に、お礼を言おう。
「ルカ、ここに連れてきてくれてありがとうございます…!ルカのおかげで、今はとても幸せです。」
「……!!!!ハンナ…!」
わたしが公爵にお礼を言うと、公爵はびっくりしたような顔をしていた。
顔が真っ赤になっているような気がしたけど、多分夕日のせいだろう。
それにしても、公爵も呼び方がハンナに戻っているな。と、わたしがそんな呑気な考えをしていた時、
ガバッと公爵が抱きついてきた。
いきなりすぎて思考の追いつかないわたしに対して、公爵は言葉を並べた。
「ハンナ、あなたは今、笑っていたんだ…!良かった…あなたが心の底から笑顔になれて。」
気が付かなかった。わたしは今笑っていたんだ。
"嬉しい、嬉しいのに、どうして涙が出るの?"
「ハンナ…?すまない、嫌だったか?」
公爵はわたしが泣いたことに気が付いたようで、見当違いな心配をする。
でも、わたしの涙は目から溢れてきて止まらない。
"いやだ、今離れてほしくない。"
ーギュゥー
わたしは離れようとする公爵の裾を掴んで、何とか言葉を絞り出す。
「違うんです。今は、離れないで。ください。どうして、涙が出るか…分からないんです。」
途切れ途切れの声で、公爵の無実を証明する。
すると公爵は、離れることをやめてまた抱きしめてくれた。
「大丈夫だ。思う存分泣けばいい。言っただろ?泣きたい時は俺を呼べと。」
「ありがとう、ございます。ルカ」
「それに今日の涙は、悲しくて泣いている訳ではなさそうだ。これからも俺に色んな表情を見せてくれ」
優しい。その優しさが、またわたしの涙を流させる。
泣いて、泣いて、泣いて、泣いて。
これでもかというほど泣いた。その時に公爵の裾を強く掴んでしまったからなのか、シワが出来ていた。
「すみませんルカ。裾にシワが…」
「これくらい気にするな。それより、もう涙は止まったか?」
「…はい、ルカがわたしの拠り所になってくれたおかげです。」
「そんなの、いつでも力になってや、る…!」
「えっ?!どうして…」
公爵はわたしを抱えて馬車の方へ向かった。泣いた後だからだろうか、何だか恥ずかしい。
「泣き疲れただろう?眠っていてもいいぞ」
そんな子供みたいな…と思ったが、公爵の言うとおり疲れていたようで、わたしはすぐに眠りに着いた。
次に起きた時、わたしはベッドの上で朝を迎えていた…………。
見てくださってありがとうございました!
次話も見てくれると嬉しいです!




