獣人たちのダンジョン攻略②
「うげぇ~~~」
「これは……攻略に骨が折れそうだ」
主人公のダンジョンの1層を攻略した獣人たちは、警戒しながら2層へと足を踏み入れた。 階段を上がった先にあったのは全面鏡張りの部屋。 階段を戻る以外にそこから繋がる道は一つしかないが、あまり進みたくはなさそうだ。
「一応これ割れないか試してくれな~い?」
確かに鏡が割れれば1層の通路と変わらないため、攻略し易いだろう。 割れればの話ではあるが。
「おらぁぁっ!! ……無理そうd ぐぁぁぁぁ!?!?」
……何故全力で攻撃した? 獣人が放った打撃は倍以上の威力をもって、本人へと跳ね返った。
「普通に攻略するしかなさそうだね~」
「そのようだな」
「……お前ら俺に何か言うことないか!?」
「「ドンマイ」」
味方にすら雑に扱われるとは……新たな不憫枠だな。
まあそんなことは置いといて、獣人たちは前に進むしかないと察し、部屋と同じく全面鏡張りの通路へと足を踏み入れた。
「うっわこれ絶対迷路型だよ~」
「それに加えて全面が鏡張り……方向感覚も狂ってくるだろうな」
無数に分岐する道を警戒しながらそんな話をしていると、遠くから チュイン チュイン という音が聞こえて来た。
「なんだ? この音?」
「………やっば~~ 絶対にこのダンジョンを作ったマスターは外道だね~~」
音の正体に気付いたのは1人だけだった。 とはいえその1人も気づいた時にはもう遅かったのだが。
「分かったなら早く教え」
チュイン
「うん。 もう遅いね~ 次は何かたいさk」
チュイン チュイィン
「……確かにこれは外道だ」
チュイン チュイィン チュイィィン
最初の部屋で分かっていたが、鏡は攻撃を反射すると倍の威力で跳ね返る。 迷路の中で幾度も反射して来たレーザーらしき攻撃は、獣人たちの所に着くころには回避不能、一撃必殺の光線と化していた。
「諦めてもいいかな~? どう考えても攻略できないよあそこ~」
「駄目に決まっているだろう。 何か考えろ」
リスポーンした獣人たちは今にも倒れそうな表情をしていた。
「避けられない攻撃なんて対策のしようがないよ~?」
「避けられない攻撃? どういうことだ?」
「あ、マスターじゃ~ん やっほ~」
諦めかけていたその時、モニタールームから獣人のダンジョンマスターが現れた。 まあだからなんだという話なのだが、今回ばかりは一つの可能性を示してくれた。
「その避けられない攻撃とやらがモンスターなのか罠なのかは知らんが、それ自体の数は少ないとは思うぞ。 そればかりにDPを割いていたら攻撃の方に人型モンスターを使えないだろうからな」
「……へぇ~ 偶には役に立つじゃんマスター」
「一言多いわ」
まあ主人公に喧嘩を売るぐらいのやつが役に立つかと言われるとね?
「それじゃあ確認と行こう。 1層は同じように攻略した後、最速で鏡の通路に入る。 迷路に関しては死ぬ覚悟で駆け抜けろ。 あぁ、もちろん自分が進んだ道は覚えておけよ? そして光線を出している罠、もしくはモンスターだが、出来れば接敵次第倒せたら倒せ。 それが無理なら情報だけでも持って帰ってこい。 分かったな?」
『了解!!』
「りょ~か~い」
そんなわけで今回は足が速い獣人とは違う獣人が1層へと入って行く……予定だった。
(すみません……)
「ん? どうした?」
1層に入ったはずの獣人に持たせた通信の魔道具からは困惑した声が聞こえて来た。
(1層に来るはずが、2層の部屋にいるんですが……)
「………とりあえず全員入るか」
その言葉を聞き、“全員”でダンジョンに足を踏み入れた。
「実は優しいのかな~? 階層が上がるごとに最後に攻略した場所に飛ばしてくれるって~」
今回の主人公のダンジョンは階層があがるごとに入る場所が更新されていくスタイルだったらしい。 1層を攻略していた獣人たちは全員2層の鏡の部屋へ行くことが出来た。
「ふむ……何はともあれこれで物量作戦が実行しやすくなったな。 ありがたい」
そんなわけで獣人たちは1層を気にすることなく、2層を物量作戦で攻略していくこととなった。
「………もしかして俺って1層から出れない?」
同時刻。 2層にいる獣人たちは完全に忘れていたが、1層を攻略していない最速の獣人が1層にて立ち尽くしていた。 最速らしいのに。 2層で活躍できそうなのに。
「俺……どうすればいいんだ????」
1層の鉄球をモンスターたちに出させて自分だけ2層に進むことは出来るのだが、最速の獣人は能力を速度に全振りでそこまで頭が良いわけではなかった。 2層の獣人たちがリスポーンするまではダンジョンの入り口と1層とをうろちょろしている最速の獣人だった。