獣人たちのダンジョン攻略①
「それじゃあ駆け抜けるぞ。 俺が間に合わないならどこかに仕掛けがあるんだろうよ」
主人公のダンジョンに入って行った第一陣の獣人たちがリスポーンをしている間。 一人の獣人が通信の魔道具片手にダンジョンの中に入ってきた。 その獣人は攻略に向かないほどの軽装で、本人の出せる速度だけに集中していることが分かった。
「それじゃあ行くぞっ!!」
ガコッ ズズッ ズズズズズ......
全力で走り始めたその獣人は、第一陣とは比べ物にもはならない速度で傾いた通路を進んでいった。 ………が、後ろから来るはずの鉄球は何処にも無かった。
「…………は? どういうことだ?」
ズザザッとその場に急停止した獣人は、困惑してその場に立ち尽くした。
(一応そのまま真っ直ぐ進んでくれるか?)
「了解した」
魔道具から聞こえてくる声に従って、獣人はゆっくりと歩き始めた。
「突き当りまで来たんだが………何も無いぞこの道。 第一陣は本当に鉄球に潰されたのか?」
(いや、むしろおかしいだろう。 何故“何も無い”? 次の階層に進む手段が無いのはダンジョンバトルとして成立しないはずだぞ?)
テクテクと歩いて通路の突き当りまでついた獣人だったが、罠の一つも無かったためか、一瞬第一陣を怪しんだ。
「それもそうだな。 もう少し調べてみる」
その後も通路をじっくりと探っていたが、獣人が何かを見つけることは無かった。
そうして時間が経ち、第一陣の獣人たちが戻ってきた。
(鉄球が出てこなかったってのは本当~?)
「ん? ああ一陣のやつか。 本当だ。 今も通路に何か仕掛けが無いか探っているが、特にめぼしいものは無いな」
(………ちょっと奥で待っててもらっていい~?)
「何か思いついたのか? 少し待ってくれ。 突き当りまで戻る」
「突き当りまで来たが、何をするつもりだ?」
(鉄球が出てきたら周りに道が出ないか探してね~)
獣人が突き当りまで戻ると、通信の魔道具からそんな声が聞こえてきたが、そもそも鉄球が出てこないのに何を言ってるんだと獣人は思ったが、その考えは直ぐに覆されることになる。
(多分ね~ “人数”か“重量”だと思うんだよね~)
その言葉を聞いた瞬間、新しくダンジョンに入ってきた獣人たちとモンスターたちの後ろから鉄球が迫ってきた。
「なるほど、そういうことか。 直ぐに周りを探ってみよう」
(よろしく~)
「ふぅ~~~」
(ど~お? 何か見つかった~?)
「すまんが、何も無かっ」
グシャッ
最後まで周りを探っていた獣人だったが、同胞の血が纏わりついた鉄球が迫ってくるのを見て、諦めて目を瞑った。
「何もなかったか~ う~ん 思ってたのと違ったな~」
「ほう? 何があると思っていたんだ?」
通信の魔道具から肉が潰れる音を聞き、少し顔を顰めながらも、すぐに気持ちを切り替えて攻略法を探し始める。
「次の階層に上がる人数を抑えるために、鉄球が出ることを条件に一番奥に次に行ける何かが出現すると思ってたんだけどね~~~。 …………あぁ、逆か。 そっちのパターンもあったね~」
「一人で完結されても困るんだが?」
「あぁごめんね~ 一つ質問なんだけどさ、鉄球が出てくるところって奥に何があると思う~?」
「そりゃあ鉄球があるだろ……ってそういうことか」
それを聞きながら他の獣人たちも考えに至ったらしい。
「多分そこじゃないかな~ 次の階層へ繋がる道があるのは~」
「鉄球が転がっている間だけ開く道ということか。 中々に鬼畜だな。 足を踏み入れた第一陣は確実に死んでしまうではないか」
「DPを使ってリスポーンできるダンジョンバトルだからできることだろうね~ ってそもそもまだ想像でしかないけどね~」
まあ主人公のダンジョンに限っては死んでも自動でリスポーンするので、その方法を使っても問題は無いのだが。
「もう一度死にに行けって中々酷いことを言うじゃねぇか。 グシャッって音聞こえてなかったのか?」
「まあまあそう言うな。 おそらくは最後だろうからな」
先ほど潰された獣人たちのリスポーンを待ってから、もう一度主人公のダンジョンへと入って行く。 今回は攻撃班を2つに分け、通信が来てから入るようにするらしい。
「それじゃあ頼んだよ~」
「はぁぁ……お前ら次の階層で死んだら覚えとけよ? 2度目は逆だからな?」
ブツブツと文句を言いながらも、獣人一人が大量のモンスターを引き連れて主人公のダンジョンへと入って行った。
(鉄球来たぞ!! これで間違ってましたとか言うんじゃねぇぞ!!)
数10秒後、その通信を聞いて獣人のみで構成された第2陣が主人公のダンジョンへと入って行った。
「やっぱりあってたね~ 閉じる前に進むよ~」
「急げ急げ!!」
ダンジョンの中に入ると、鉄球が出てくる場所は予想通りに開いたままになっていて、そこから奥へと階段が獣人たちの目には入っていた。