結合
「さっきぶりだね。とりあえず今の疑問は、なぜ君がここにいるか、だけど、今は聞かないでおいてあげるよ」
私には昼同然の明るさではあるが、この暗闇の中、いきなり現れたザクロ様は、優しい口調で歌うように言う。けれども、私にはその言葉が不気味にしか思えず、数歩後ずさりをする。
そしてその言葉も、特にありがたいものではなかった。自分はいつだってお前に勝てるんだぞ、と言われている気がしてならない。
私の本能が言っている。この人は本当に危ないと。
脳をフル回転させ、この状況の打開策を考える。ニコニコしてこちらを舐めるように見回される。本当に気持ちが悪い。この人の目的がわからない。
私を隊に入れたい、というのはわかっているが、自分が戦闘向きの性格ではない事もよくわかっている。その真意は謎のままだ。
「んっふっふ、どうしたのかな、黙っちゃって。ほらほら、スマイルスマイル、笑って」
ザクロ様はそう言って私との距離を縮めようとする。心の問題も、物理的なものでも。後ずさりで稼いだ距離はあっという間に0に近い。
「あ、あの…、やめてください…」
再び後ずさりをし、距離を稼ぐ。微々たるものだが、ないよりはマシだし、少しでも安心したかった。
だがそれも逆効果。この人は私が露骨に嫌がるのを見て楽しんでいるように思える。私の顔を見た後、鼻で笑うと白衣のポケットに両手を突っ込む。
「怖がる必要はない。僕は君が欲しいだけなんだ。ね、ミラ・ローシー」
いきなり呼ばれた名前に戸惑ってしまう。この人はなぜ私の名前を知っているのか、と一瞬考えるが、軍のリーダーの弟なのだから、兵の情報をどこかで見られるのだろう。個人情報もへったくれもない。
ふと気がつくが、この状況になって私はやめてくれ、以外の言葉を発していない。いくら不気味な人とはいえ同じ人間なのだから、話せばわかってくれるはずだと勇気を出して嫌がる口を無理やり開ける。
「あ、あの…、ですからわ私は…、その、あの、わ、私なんてただの役立たずですので!」
言った、言ってやった。頭が真っ白になりそうだ。恐怖に打ち勝って自分の気持ちをはっきりと言ったのだ。まだ始まったばかりの孤独な冒険、少しだが成長している。
そんな満足そうにしている私を嘲笑うかのように、ザクロ様は不気味に笑い、ポケットから手を出して空を仰ぐようにし、
「ああ、やはりいいものだ。恐怖、恐れ、怯え、全てが愛おしい。僕には何も感じられないから、他人でそれを感じるしかないんだ。君は素敵だよミラ、ああ本当に愛おしい」
異常だ。この人は本当に人間なのか、成長したとか言った自分が馬鹿のようだ。ザクロ様はポーズをそのままに、上に向いた顔だけこちらに向ける。その顔は不気味さを超え、狂気そのもののように思える。
「でも残念だ。僕が本当に欲しいのは感情でなく、チカラ。君の能力、この世界でも稀な強力なチカラ、それが欲しい。より強さを得るために」
話の途中、ガッと肩を掴まれる。
「な、何を…」
「君の全てが欲しい! そのチカラの全て、感情を少し。動かないでくれよ…、すぐに終わるから…」
私は恐怖のあまり抵抗できず、肩の手を払う事が出来ない。次第に肩の感覚がなくなり、掴まれていることがわからなくなるが、それは違った。
本当に肩は掴まれていない。見ると、私の体が肩からぽろぽろと崩れ落ちている。
「何…これ…」
ありえない状況に、私は無意識のうちに声を出していた。その答えは呆気なく返ってくる。
「結合、1つをもう1つに混ぜるか、2つを1つにするか、どちらも可能な僕のチカラ。君を僕のものにすることで、僕はまた強くなれる!」




