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片思いするなら君がいい  作者: 青子
むすばれる春
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 ピンポーンというインターホンの音に、のろりと立ち上がる。食欲のないまま一晩を過ごし、姉と将門がくる時間を迎えてしまった。さきほど「もうすぐ着くよ」とメールがあったから、そろそろかなとは思っていた。

「は、春香……!」

 私を見て若干涙目になった姉と、大きな袋を持った将門が玄関先に立っている。

「久しぶり、春香」

「うん。久しぶりだね」

 体の細い姉が、ゆったりとした服を着ている。ゆるやかに弧を描くそのシルエットは、まだ目立たない。

「遠いのに、ごめんね。車できたの?」

「ああ、冬奈もだいぶん悪阻おさまったんだけど、電車じゃやっぱりゆっくりできないかなと思って。はい、これお義母さんから」

 将門から大きな袋を受け取ると、中には野菜やレトルト食品が入っている。そして、お米も。昨日の間違いメールから始まった、江畑くんとのやり取りを思い出す。電話の後ろの、ルームメイトが言っていた名前、ゆいちゃん。からかうようなその声色に、「また」と言ったその言葉に、彼と彼女の関係の深さを感じとれた。

「すぐ出かけられる?」

「うん。これ、冷蔵庫いれてくるからちょっと待ってて」

 そう言って部屋の中へ入って行ったとき、うるうるとしている姉と目があった。姉の妊娠が分かったのは、3月の中旬ごろ。

「お姉ちゃん、お腹大きくなってきたね。今何ヶ月だっけ?」

 私が声をかけると、はっとしたように瞳を揺らした。

「えっと……今、今で」

「4ヶ月だろ?」

 ちゃんと喋れていない姉に、将門が苦笑いしながらフォローする。もしかしてまだ悪阻があるのかな。この前電話で話したときは元気そうだったのに、ちょっと心配だ。

「は、はるかあ〜……」

 ぐずぐずと泣き出すので、私は荷物を床に置いて姉に駆け寄った。

「ちょ、お姉ちゃん。大丈夫?」

「あ、春香。いいから、荷物置いてきな。体調が悪いんじゃないから」

「へ?」

「大丈夫だから」

 将門が姉の肩を抱き、なだめる。

 そんな2人の姿を見ても、悲しい気持ちはない。正直なところをいえば、少し複雑な気分ではある。でも今思えば、将門には姉しかいないし、姉にも将門しかいないのだ。最初から自分は蚊帳の外だったのだと、ちゃんと気付けて良かったと思えている。


 車に乗って出かけた先は、私の住んでいるマンションから遠くない場所にあるショッピングモール。まだ土地勘がないのでここがどのあたりかは分からないが、かなり大きな建物だ。

「もういい時間だし、先にご飯食べようか」

 将門が入り口で貰った店舗案内を広げた。

「春香、何食べたい?」

「私は何でも……お姉ちゃんのほうが希望あるんじゃない?」

 悪阻のときは普通のご飯が食べられなくて、辛そうな姿を見ていた。

「あっ、私は、本当に何でもいいから……春香好きなの、選びなよ」

「うーん……でもさっぱりしてるのがいいよね」

 ショッピングモールの5Fに、色々な飲食店が入っているようだ。そば、うどん、和食……どうしよう、どれがいいのかな。

「行ってみて決めようか」

 将門の提案に私は笑って頷いた。

 5Fはたくさんの人で賑わっていた。土曜日だから家族連れも多く、人気の店ではすでに列ができていた。どこにするか迷ったが創作うどんの店が美味しそうだったので、順番待ちのボードに『ももだ 3名』と書き込む。

「まだしばらく待つよね? トイレ行ってきていい?」

 姉がトイレに行ってしまったのを見送っていると、将門が椅子に座り直したと同時に私に近寄った。

「あれから進展あったの? 勇気出せた?」

 将門が問う意味は分かる。

 昨日のことを思い出して、自分の顔が曇る。将門はきっとうまくいくって言ったけれど、今の私にはそんな気持ちになれない。

 そんな中、やたらと背が高く体の大きい人の集団が私たちの目の前を通り過ぎた。ああいう人たちはうどんじゃなくて、もっとがっつりした店に行きそうだなと思っていると、最後尾に見たことのある背中を見つけた。

 あれは、きっと。間違いじゃない。

「あ、ねえ、まさ、と……」

 隣に座る将門の腕を掴んで揺らす。

「え、何?」

「あれ……あの」

 私の視線の先にいるその人は、ゆっくりとこちらを振り向き、どこか向こうのほうをぐるりと見渡し、そして私の姿を捉えてそこで止まった。

「江畑ー? 焼き肉と寿司どっちがいいー?」

 大きな声が、私の頭に響くように聞こえてくる。

「あの子、あの日の……」

 隣で将門が何か言っていたけれど、まったく耳に入らなかった。江畑くんはじっと私を見て、すれ違う人と肩がぶつかってようやく我に返ったように視線を落とした。

 立ち止まったままの江畑くんに、その集団の一人が近づく。少し話をしたあと、その彼は江畑くんからすぐに離れて行った。


 江畑くんは、私と将門を交互に見ている。私はそんな彼から視線をそらせず、動くことができなかった。

「3名でお待ちのももだ様、ももだ様」

 私たちが座るすぐそばで、店員さんが叫ぶように呼んだ。

「春香、行ってきな」

 将門は私の肩を叩く。立ち上がった将門を見上げると、江畑くんのほうを見て会釈をしていた。

「え、でも、うどん……」

「冬奈と先に食べてるよ。ゆっくりしてるから、春香もちゃんと話しておいで」

「ももだ様、いらっしゃいませんかー?」

 店員さんが私たちのほうをちらちら見ながら、さらに大きな声で言っている。

「あ、すみません。僕らです」

「3名様、ですよね?」

「はい、もう一人……」

 そんな会話をしていたところで、姉がパタパタと走ってこちらに来た。

「もう順番?」

「うん、春香は後から合流するから、僕たちで先に入ってよう」

「え、春香? 何で?」

 姉は眉を下げて、心配そうに私を見る。

「ほら冬奈、行こう」

「はる、春香……早く来てね、あの……」

 ごにょごにょと話している冬奈を半ば強引に引っ張って店い入って行った2人を見送り、私は大きく息を吐いた。意を決してもう一度江畑くんのほうを見ると、彼はまだそこに立っていた。

 いざこうやって対面すると何を話していいのか分からない。

 昨日電話をしたときに、言えなかったこと。ずっと言おうと決めていたこと。とにかくちゃんと向き合わなければ、私は立ち上がりゆっくりと歩き出す。一歩ずつ近づくその距離に、痛いくらいに胸が鳴り出す。

「久しぶり、だね」

 一生懸命に笑って、声に出して言った。耳に聞こえてくる自分の声が、まるで自分のものじゃないようで。江畑くんもぎこちなく笑って、大きな手で鼻を掻いた。

「昨日、電話したけど」

 電話越しじゃなくて直接聞く江畑くんの声は、遠くなく、近くもない。

「うん、そうだね」

「遊びに来たの?」

 江畑くんは、私がここの近くに住んでいることを知らない。私がK大だってことも、江畑くんを好きで追いかけてきたってことも、何も知らない。こうやって出会えても、ただの偶然としか思ってもらえない。当たり前なのに、私はいたたまれなくなる。

「ち、違うの……」

「うん」

「そうじゃなくて……私」

 きゃあきゃあと騒いている子どもが、傍を通って行く。私の小さな声はすぐにかき消されていくようで、思わず江畑くんを見上げる。至近距離で合った目と目は、いつかと同じ。そこにある唇が、私の唇に触れたことがあるなんて嘘みたいだ。あのときの思い出は大切にちゃんとしまってあるのに、時間が経つごとに真実から遠ざかっていた。

「こっちに行こう」

 右手をとられ、強く引っ張られる。慌ててついていくと、いつの間にか人ごみから離れていた。

「ここの上に屋上庭園があるんだ」

「屋上庭園……」

「そこも結構人が多いんだけど、今は昼時だから多分空いてると思う」

 江畑くんの言葉通り、人はまばらだった。さきほどまでたくさんいた家族連れや子どもたちの姿はなく、どちらかといえば落ち着いた雰囲気のカップルや夫婦が多いように思う。そんな中、江畑くんと手を繋いで歩いているのが気恥ずかしかった。

 噴水の傍のベンチに、先に江畑くんが腰掛けた。手を繋いだまま、私も座るように促された。

「さっき百田さんと一緒にいた男の人だけど」

 将門のことだ。

「カッコいい人だよな。ずっと思ってた。俺なんかが勝てる相手じゃない」

「え……?」

「さっきだって余裕たっぷりで、俺に会釈なんかしてさ……すげえ悔しいのに、何もできない。こうやって、無理やり百田さんのこと連れ出すくらいしかできなくて」

「え、ちょっと、待って。それって」

 私が言葉を遮っても、江畑くんは喋るのをやめない。

「俺さ、百田さんのこと、片思いでもいいってずっと思ってた。思ってたけど、やっぱり2人のこと見るたびに落ち込んで、やっぱりやめようって、諦めようって思い直すのに。未練がましくメール送って、返信あるだけで舞い上がって、本当にばかみてえで」

「江畑くん、ちょっと、待って」

「前に言っただろ。別に答えはいらない。ばかにしてもいいから、返事だけはすんなよ」

 そう言って私を見た彼の視線はとても強い。

 そんなふうに意思を向けられることに戸惑い、私は泣きそうになってしまった。

「好きすぎて、知るのが怖い。俺の知らない百田さんが、増えていくのが、辛いよ」

 知らないことのほうが多いのにな、と冗談ぽく最後に付け加えた江畑くんは力なく笑っていた。


「昨日、電話越しに聞こえたの。ゆいちゃんって……」

 しばらくの無言のあと、私は切り出した。ずっと気になっていたこと。

「……ああ、あれは」

「木下さんのこと、だよね?」

「うん、やっぱり……あのとき、聞こえてたよな」

 私は大きく頷くと、まいったな、と江畑くんはまた笑う。この笑顔、すごく好きだ。普段は落ち着かなくてがさつな印象なのに、笑うと優しくてホッとする。

「俺、2年のときに木下に告白された」

「うん……」

「文化祭の後だったかな、呼び出されて……断ったし、断ってすぐは全然喋ってなかったんだけど。あいつ3年にあがっても体育委員でさ、俺も相変わらず体育委員やってたから体育祭の時期にまた喋るようになったんだよ」

 体育委員は、有無を言わさず体育祭の運営委員に選出されるんだった、確か。

「木下は強いよなあ、俺なんかのことすっかり忘れて、彼氏できたって笑顔で報告してくれたよ。俺も知ってる奴だったから、時々相談とか受けてて、今もその延長。遠距離だから、すれ違いが多いみたいで最近ちょっと悩んでるんだって」

 その言葉に、私は声が出なかった。江畑くんと木下さんは、付き合ってなかったんだ。さきほどの江畑くんの告白でそれはもう分かっていたのに、ひどく安心した。

「電話かかってきたとき、たまたま携帯を友だちに見られて、ふざけて下の名前で呼ばれてるだけ。俺にとっては木下はずっと友だちだし、彼氏とのこと応援してるから」

「そっか……うん、分かった」

 繋がれた手は離すタイミングを失っているのか、それとも私と江畑くんの思いを結んでくれているのか、ずっとそのまま。

 ポケットにいれた携帯が、震える。

 その振動は繋がれたそれを通じて江畑くんにも伝わったのか、また目が合う。

「……ごめん、もう行かなきゃいけないよな」

 今携帯を鳴らしているのはおそらく、将門じゃなくて姉のほうだろう。せっかく久しぶりに、といっても大した日数離れていたわけじゃないけれど、一緒に過ごすのだから。

「今日は一日ここで遊んでるの? いつ帰るの?」

 詰まるような声でそう尋ねてくる江畑くんに、私は手をぎゅっと握りかえした。

「あのね、私、このあたりに住んでるの」

「へ?」

 ぽかんとしたような顔。

「さっき一緒にいたのは、お姉ちゃんと、その旦那さん」

「……は?」

「今日は2人で、私のところに遊びにきてくれたの。お姉ちゃん妊娠4ヶ月で、旦那さんはお姉ちゃんのこと大好きで、だからね、今私がいなくても大丈夫。それに、私はずっとここにいるし、でもここがどこかもよくわかんないけど……とりあえず車で20分くらいのところのはずで……」

 マジか、と呟いた江畑くんの声は掠れて、私には聞こえたのか聞こえなかったのかよく分からなかった。




 数週間後、私は倫子たちのグループに、まだあんまり馴染めていなかった。がやがやとした雰囲気は苦手だし、授業は集中したいからとりあえず気配を消して話しかけられないようにしている。それでも大人数でいると、何かと遊びに誘われることも多くて。

「春香、今日みんなで買い物行かない?」

 意気揚々とした倫子に誘われるも、私は遠慮がちに首を横に振った。

「なんだ、デート?」

「違うよ、サークルの日なの」

「ああ、バレーボールの?」

 結局私は、週2回活動のバレーボールサークルを選んだ。人数はそれほど多くなく、メンバーはみんな他のサークルやバイトと掛け持ちしているものの、活動の日には積極的に参加する人ばかりだった。時々飲み会や食事会もするけれど、基本的にはつかず離れず程よい距離感を大切にする人たちで私には合っていると感じている。

「じゃあ、ゴールデンウィークにみんなでキャンプ行こうって言ってるんだけど、それは参加できる?」

「キャンプかあ……」

「テント張ってさ、バーベキューして、川釣りとかもできるんだって。楽しそうじゃない?」

 必死になって私に説明する倫子の姿がなんだか可笑しくて、私は思わず頷いた。

「分かった。ゴールデンウィークだね」

「本当? やったあ、じゃあまた詳しいこと決めようね!」

 子どものようにはしゃいだ倫子は、ぴょんぴょん跳ねながら手を振りながら行ってしまった。誘われても断ることのほうが多くて、決して愛想のいい私じゃないのに、捨てないでいてくれる倫子と出会えて本当に良かった。同じグループの子たちも、騒がしくて嫌だなって思うことも少しあるけれど、いつだって笑顔で私を受け入れてくれるのはありがたい。

「私って人に恵まれてるよねえ……」

 ぽつんと呟いた独り言に、すれ違う人は誰も振り向かない。

 ふふ、と一人で笑って歩き出した。


 サークルが終わって、マンションの近くにあるスーパーに向かう。カゴを持って商品をみてまわるのも、大人の真似事みたいで最初は慣れなかった。でも今は、玉ねぎ、もやし、じゃがいも、と買うと決めていたものをカゴに入れていく。まだまだ料理は下手だが、練習していつか振る舞えるようにと彼の顔を思い浮かべた。

「やばい、もうこんな時間」

 ぼうっとしていた自分の体を動かし、てきぱきと残りの食材を探して行く。

 時計は19時すぎ。約束の時間に遅れないように、私は荷物を揺らしながら急いだ。


 私が住むマンションの近くには公園がある。昼間もあんまり人気がなく、こぢんまりとした規模。そこの公園に唯一ある遊具のブランコに、不釣り合いな体の大きさの江畑くんが座っている。お互いに部活とサークルが終わった後、少しだけ会えるこの時間。

 今日もその姿を見つけて、私は思わずまた一人で笑ってしまった。

「百田さん」

 私を見つけて嬉しそうに名前を呼んだ江畑くんは、ブランコから立ち上がる。

「ごめんね、買い物してたら、遅くなっちゃった」

 約束は19時半。今はまだその時間になっていないけれど、いつも先に待っていてくれる彼に私は申し訳なく思っていた。でもスーパーに寄ってから公園に来たほうが手間じゃないから。ちゃんと料理してますよっていうアピールじゃないよ、決してそんなことは。

「いいよ。待ってるのも、楽しいから」

 ふんわりと香るのは、グレープフルーツの匂い。

 誤解のとけた私たちは、付き合いましょうなんて言葉はなく、でもとりあえず素直になることにした。江畑くんを追いかけてK大に入ったこと、スポーツ健康学部に探しに行ったこと、サッカー部のマネージャーにまでなろうとしていたこと。江畑くんのびっくりした顔は、すぐに笑顔に変わった。

 そして江畑くんも教えてくれた。

 ずっと私を好きでいてくれたこと。今年のバレンタインデーは、きっと私が学校で勉強していると思ったからチョコレートを期待して後輩の応援に行ったんだということ。卒業式では、どうしても顔が見たくて家の前まで行ったのに、彼氏だと勘違いしていた将門が家から出てきて思わずビビってそのまま引き返してしまったこと。私は地元の大学に進むと思っていたから、せめて帰省したときに会える希望を持っていたということ。

 言葉で聞くと随分都合がいいけれど、今まで積み重なって不安になっていた塊が優しく溶けていくのを感じた。

 前に言われたことがある、素直でいれば、自分の気持ちを拾ってもらやすいと。

 もちろん私か江畑くんが怖がらずに素直になっていれば、もっと早く結ばれたかもしれない。でも、もちろん今だから言えることなんだけれど、素直になるために、素直になれない時間があると思う。怖がらないために、怖がってしまう時間があると思う。これからも私は怖がったり、素直になれないだろうけれど、無駄じゃないはずだとじっくり向き合うだろう。

 逃げなければ、諦めなければ、終わらないはずだから。


「大学の授業、分かる?」

「うん、面白いよ」

「俺ついていけてなくて、やばい。英語が特に、分かんなくて」

 江畑くんが進んだのは、発達科学部。

 名前だけ聞くと何をする学部なのか分からなくて、てっきり理系学部だと思っていたが、実は文系学部らしい。教育関係に興味があるのだそうだ。

「英語、また大学でやると思わなかったよね。でも文献講読とか、楽しくない?」

「えー、全然楽しくない。当てられるの怖くてすげえ予習するのに、まったく内容が分かんない」

「じゃあ、教えてあげようか」

 うん、と頷いた顔に微笑み返すと、自分の右手がふわりと軽くなる。

「送ってくよ」

 スーパーの袋を持ってくれた江畑くんのもう片方の肩には、すでに大きな鞄がかけられているというのに。

「ありがとう」

 今はまだ、家の前まで一緒に歩くだけ。

 いつか、もう少し私に勇気が出たら。素直になれたら。

「一緒にご飯食べない?」

って、誘えるかな。

 想像して、顔が熱くなって、今はまだ到底無理だと思い直す。

 ゆっくりでいい。進んでいなくてもいい。私の思う人が、そこにいてくれるだけでいい。

 スーパーの袋を持つ、色黒の腕に自分の手をかけた。今は、とりあえずここまでの勇気。

「なんだよ」

 照れたように彼が言うので、私は小さく笑った。

完結となります。最後まで読んでくださったかた、ありがとうございました。

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