そうだ、豚汁を食おう 〜引きこもり令嬢の不本意なダイエット〜
初めまして、瀬戸 際と申します。
記念すべき第1話は、とある女の子・栄子のお話から始まります。
広大な「なろう」の海の片隅で、ひっそりと、でも熱量だけは100%詰め込んでお届けします。どうぞユルい気持ちでお付き合いください!
「神様、仏様、どなたでも結構です。どうか……どうかこの哀れな栄子にお慈悲を。具体的には、寝て起きたら脂肪だけが消滅しているような、そんな奇跡をお願いします」
ベッドの中で、栄子は切実に祈っていた。
ちょっとばかり(いや、だいぶ)ぽっちゃりしてきた体型を気にしての、現実逃避の祈りである。もちろん、本気で神が来るとは思っていなかった。
だが、世の中には「聞いてはいけない祈り」を律儀に拾う、大迷惑な存在がいるものだ。
突如、栄子の視界が真っ白な光に包まれる。
「ハッハー! 呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! どうもオリビエでーっす! いぇい!」
まばゆい光の中から現れたのは、やたらと露出度の高い衣装をまとい、信じられないほどIQの低そうなポーズを決める美女だった。
栄子は完全にフリーズした。
「……え?」
「ん〜? 痩せたいって祈ったよね? オッケー、把握! それはもう、完全に『豚汁』の案件だわ!」
「……は?」
豚汁。日本のソウルフード。なぜ神を呼んでメニューを提案されねばならないのか。
栄子の困惑を置き去りに、自称オリビエは、さらに両手を広げて叫んだ。
「というわけで、友達呼ぶわ! カモーン、豚汁ーーー!」
直後、栄子の精神世界(夢の中)の床が激しく揺れた。
地響きと共に現れたのは、巨大なイノシシにまたがった、見るからに筋肉密度の高そうな固太りのおっさん。なぜか肩には、マスコットサイズの手乗りイノシシを乗せ、胸元には文字通り「大釜」と呼ぶべき鉄なべを抱えている。
「……呼んだか?」
おっさん(概念名:豚汁)が、無駄に渋い、地響きのような低音ボイスで呟いた。
「この子がさー、痩せたいんだって! 痩せたいなら、豚汁と筋トレっしょ?」
「それしかない」
おっさんは深く頷き、その鋭い眼光を栄子に向けた。
「汝に、我が豚汁を捧げよう」
「え? え? ちょっと待って、ぎゃあああああああ!?」
次の瞬間、栄子の脳内に直接、ド直球で「豚汁」のビジュアルと、煮込まれるゴボウの香ばしい匂いが流し込まれた。拒絶権などない。脳内シェアの100%が豚汁に占拠される。
「うむ! これで美味い豚汁を食べながら筋トレしてたら一発で痩せるから! あ、毎晩成果報告を聞きに来るからねー!」
「メッセージの既読スルーは許さんぞ。まずは美味い豚汁の作り方からだ。行け! 豚汁で至高の健康を手に入れるのだ!」
――なんでやねん。
「ふぎゃあああ!!」
栄子は、己の叫び声でベッドから跳ね起きた。
全身、嫌な汗でびっしょりである。
「ゆ、夢……? なの、よね……?」
ハァハァと荒い息を吐きながら、栄子は己の額を押さえた。
だが、悪夢はここからが本番だった。
それからの日々、栄子は深刻な悪夢に悩まされることになる。
夜、目を閉じれば、そこは狂気のワンダーランド。
「スクワットをしろ!」と叫ぶ露出狂の女神と、「味噌は出汁が沸騰してから溶け!」と熱弁するイノシシ乗りのおっさんが、交互に栄子の精神を殴りつけてくるのだ。
寝てても休まるわけがない。
結果として。
脳内に刷り込まれたせいで毎日なぜか作って食べてしまう、野菜たっぷりの超健康豚汁の効果と、日々の筋トレにより、栄子の体重はみるみるうちに落ちていった。
劇的な激痩せである。
なお、夢の中でさんざん脅された「筋トレ」は、激甘ボディのため、1ミリも役に立ってない、プラン雲病で落ちるほどだ。
「……勝った。だけど、何に勝ったのよ私は……」
すっかりスリムになった体で、今日も栄子は、なぜか手元にある完璧な出来栄えの豚汁を、涙目で啜るのであった。
(第一話・完)
まずは栄子のお話からスタートさせていただきました。彼女のこれからを温かく見守っていただけると嬉しいです。
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