ルフラージの魔獣討伐(後)
準備は全て整った。
魔獣赤狼を燻りだすための煙幕に、村の要塞化。勢子として獲物を追い込む方向と、そのための仕掛け、そして獲物を倒すための訓練。
村を囲う二重の柵、塀の役目を持たせた盛り土、見張り台も東西南北に作る。空堀の中には、尖らせた杭を設置して、狼が落ちた際に怪我を負わせるものとする。
とにかく早期に、魔獣を倒さねばならない。
なぜなら、魔獣の出現によって開拓村の孤立化が懸念されていたからだ。開拓村と言えども、生活必需品全てを自給自足で賄うことができない以上、村に必要な物資を運ぶ行商人達の活動が止まれば、すなわち経済活動の麻痺である。
経済活動の麻痺は、緩慢な死と変わらない。もし、一時でも止まれば、村の存続に多大な影響を及ぼすだろう。そうなる前に、ロズヴェータは早期の解決を望んでいたし、当然エリシュもそれは同じだ。彼女にしてみれば、辺境とはいえ自身の故郷の開拓村なのだから、当然生き残ってほしかった。
「もう一度作戦を確認するぞ」
各騎士隊の主要な人物──つまりは分隊長以上を集めた作戦会議を開く。今回は特別に、開拓村の村長にも出席をしてもらっていた。
村に関わることに、彼らの協力なしには何事も無しえない。だからこそ協力的な関係は必須であるし、それがあるとないのとでは、騎士隊の活動の自由度が全く違うものになるだろう。
その点、エリシュの存在は大きい。
彼らからすればこの地を支配する領主は、王そのもののである。庶子とはいえ、その妹ともなれば殿上人に等しい。まさに雲の上の人間。王都の民が王家や王族に対して好意的であるように、この開拓村においてエリシュは我らが姫様であり、彼らの支配者の一族であった。
彼女が白と言えば、黒い鳥でも白くなる。それがこの地に生きる者の当然の理屈である。だから村長が作戦会議に出席しなくとも問題がないと言えば、ない。しかし、ロズヴェータは、それを良しとしなかった。
「自発的な協力をするとしないのと、どっちが彼らのためになる?」
エリシュへの問いかけは、騎士隊の活動全般に関わることであると同時に、領主としての在り方を含んでいた。
「当然、前者。自発的な協力が望ましい」
「だからこそ、彼らには、自発的に協力してもらう」
わかったようなわからないような、エリシュは首をかしげる。
「……つまり?」
「……わからないなら、わからないって言えよ」
ロズヴェータは憮然とした表情でエリシュを突き放す。
「良いじゃん、減るもんじゃなし」
ため息をついたロズヴェータは、渋々ながら口を開いた。
「彼らにはこっちから命じるよりも、進んで俺達……というよりは、彼らの姫様であるエリシュに協力してもらう。その方が効率的だし、動かしやすい」
「命令は、反発を生むと?」
単純に疑問なのだろうエリシュに、ロズヴェータは噛んで含めるように言う。
「お前が命令すれば、反発はないだろうさ。お前はこの土地の領主の妹で、当然命令する立場にいる。だけど、そうだな……例えば俺や俺の騎士隊は、よそ者だからな。むしろ金で雇われている分、自由が利かない面もある」
「なるほど? じゃ私が従うように言えばいいわけ?」
「いや、それも考えてみたが、やっぱり反発される」
「どうしてよ?」
良くも悪くも、竹を割ったようなさっぱりした性格のエリシュは、そのあたりの機微が鈍い。リオリスほどではないが。
「彼らにしてみれば、俺達よりも、余所者を信頼するのかってな」
「……考えすぎじゃないの?」
「懸念の話だからな。ただ、命のかかる場面で妥協はしたくない」
「わからなくはないけど。いつもそんな細かいこと考えているの?」
「……よく、言われる」
憮然として答えたロズヴェータに、エリシュは朗らかに笑った。
「まぁ、準備のところは任せるわ。得意でしょ?」
明らかに【学園】でのことを指して言っている彼女に対して、ロズヴェータは頷くにとどめる。口では勝てそうにないだろうし、わざわざ自分達の【学園】における悪さを喧伝して、隊員の信頼を失いたくはない。
エリシュの全面協力の元、村人たちからも協力を得て急速に防衛のための準備は進んだ。
はじめは恐る恐る手伝っていた村人達も、出来上がる防御のための施設を見るたび、段々とこれで大丈夫だと自信を深めていく。
また一緒に作業をすることによって、一体感が生まれる効果もあった。副次的な効果として、村人から受ける誤解が、騎士隊の士気を高めるという効果があったためロズヴェータは敢えてその誤解を放置していた。
その誤解とは、騎士隊全員が騎士様であるというものだ。
あのバリュードでさえ、頼もしい騎士様という誤解を村人から受けていた。村人達はそれほど追い込まれていたし、騎士隊というものに馴染みがなかった。
ナヴィータに関しては、変わった耳の男の子程度の認識で受け入れられていた。これにはナヴィータも苦笑し首を傾げる。
「まぁ、おいらはそれでいいけどさ。隊長はそれでいいの? 仇敵三日月帝国と言っているのはこの国の公式見解だよね?」
その反応にロズヴェータは面白くもなさそうに答えた。
「何をいまさら、頼もしい騎士様? 彼らがそう信じるならそれが真実だろう」
にやりと笑うロズヴェータに、ナヴィータは驚いたように目を見開いて、愁眉を開く。
「おいらが、騎士様?」
「大出世ですな」
苦笑と共に村人の誤解を受け入れるのはガッチェ。先遣隊として村に到着して以来、何かと村人との交渉を担い、心を砕いてきた彼にしてみれば、もめ事が起きないことが最も大事であった。
彼自身にしても辺境伯領では、どんなに立身出世したとしても従士が精一杯のところを、騎士様と誤解されて気分は悪くない。
純朴な村人の勘違いを、ロズヴェータは敢えて訂正しなかったし、エリシュの騎士隊にもさせなかった。わざわざ自分たちは、騎士ではなく従士ではないただの兵士だなどと、主張して部隊の士気を下げたくなかったし、村人に対しては40人もの騎士が助けに来た、という事実こそが安心感を与えるのだ。
固定された身分制度の落ちこぼれ達、長男に土地と財産を全てもっていかれ、あるのは頑強に育った肉体のみという者が、騎士隊の兵士の大半を占める。
その彼らが物語の中にでも、夢を描くのが騎士と呼ばれる身分であった。
だからこそ、ロズヴェータはその優しい嘘をそのままにした。
彼らは全員が、少ない報酬で辺境の開拓村を救いに来た誇り高い騎士である。
という嘘を、村長に言い含めておいたのだ。
「救ってやらなきゃな」
ぽつりと、呟かれた騎士隊の隊員の言葉に、全員の思いが凝縮されていた。彼らの描く騎士がいるのなら、魔獣の脅威から辺境の村を救う程度のことは、やってやれるはずだった。
◇◆◇
朝焼け煙る森の中、朝食を取るとすぐに開始された。
勢子の役割を担う三頭獣が、魔獣を追い立てるため、彼らの嫌う臭いを込めた煙を発生させる。風向きを考慮して発生させたそれは、徐々に村を囲む森に流れていく。
獣は人間の何十倍も臭いに敏感で、ましてや魔獣と呼ばれる種類になれば加えて知能が高い。
そんな魔獣が、普段発生しない煙の正体に気が付いたら、どうなるか。当然、慎重な奴なら森の奥へ姿を隠すだろう。
だが、今回の魔獣は人の味を覚え、好戦的だ。
ならば、その魔獣はどうするか。
「……遠吠えだな」
連続した遠吠えが、森の奥から聞こえる。まるで戦の前を予感させる連続した狼たちの遠吠えは、鬨の声に似ていた。
元狩人グレイスとナヴィータが木に登って遠く魔獣の声に耳を澄ませる。村を丸く囲むように作られた柵。どちらから魔獣が来るかわからないため、北にナヴィータ、南にグレイスを配置していた。
「どうだ?」
問いかける兵士の声に、元狩人グレイスは沈黙するように指示して引き続き警戒を緩めない。
三頭獣において、彼らは目であり耳である。
「来た。南だ。全員に動くなと伝達してくれ」
連続して響く遠吠えの声を木の上で聞き取るとそこから降りて地面に耳をつける。地面を通じて、複数の足音をとらえる技能は、狩人特有の技能であった。
「多いな……30じゃ効かないぞ」
四つ足で走る狼の群れの多さは、グレイスの耳をもってしても正確な数を数えられない。少なくとも30よりは確実に多い。
「若様に伝令、数は、40以上! 南から、まっすぐこっちに向かってる。接敵間もなく! 」
そういうや、自身は村を囲う柵の内側へ移動する。見張り台になっている場所に上がると、自身の耳が聞き取った方向へ向けて視線を転ずる。
同時刻、村の北側にいたナヴィータの耳にも複数の遠吠えと、足音が聞こえる。
「……おいらの方が当たりだったね、参ったな」
苦笑を張り付けながら、彼も伝令を走らせる。
「隊長に伝令を頼むよ、北からまっすぐこっちに向かってる。接敵間もなく、数は30以上」
淡々と告げる彼も、村の中にある見張り台へ移動する。
「予定通りの数だ。さっさと片付けてあげなきゃね」
余裕の表情を崩さない彼は、矢筒の中に入れた矢を引き抜いた。
◇◆◇
南北両方からの伝令を受けたロズヴェータとエリシュは、わずかに混乱した。
「……聞き違いの可能性は?」
そうあってほしいという願いを込めてエリシュが聞くが、ロズヴェータは首を振る。
「うちの斥候は優秀だ。それを信じないで作戦は立てられない」
ほかに情報もないしな、と苦笑してロズヴェータは作戦の変更を考える。
「数が、多いな」
想定していた数の2倍の敵は、流石にロズヴェータの予想を超えていた。
「私の紅剣が南側、ロズが北側で分担する?」
「いや、それだと魔獣に逃げられる可能性が高い」
そして、逃げて生き延びた魔獣は、更に狡猾で手に負えないものになる。だからこそ、殺せるときに殺す必要があるのだ。
「作戦は、大きく変更は無しでいこう。ただし、そちらの指揮下に入れると言った分隊は返して貰う」
「構わないわ。他には?」
しばらく沈黙したロズヴェータは、口惜しさに歯嚙みする。
「村に1個分隊残す必要がある。それを紅剣から」
その要望に、エリシュは拳を叩き合わせ、口元を猛獣の笑みに浮かべた。
「いいね、そういうのを待ってた」
「すまん、負担が増える」
謝るロズヴェータの肩を叩いて、紅剣の全員を集めると、指示を出す。
それを横目にロズヴェータもまた、三頭獣の面々を集めるのだった。
「作戦は変化しない。ただし戦力配分を変更して、バリュードの分隊は勢子は、こっちを担当してもらう」
「どっちでも構わんですよ」
軽い笑みを浮かべて頷くバリュードを確認するとロズヴェータは、続けて作戦を確認していく。
「最後になるが、みんな……この村は良い村だ」
作戦以外のことを話すロズヴェータに、分隊長をはじめ三頭獣の面々はどうしたことだと視線を交わしあう。
「言うまでもないが、俺達が負ければ、この村に被害が出る。そして苦戦しても同じだ」
確かめるように一人一人の顔を見て、ロズヴェータは続けた。
「お前達を、騎士様と呼んでくれたこの村のために、魔獣を殺せ!」
「っ!?」
「ほかの誰でもなく、お前達を英雄と呼んでくれたこの村の人々を救え!」
驚き固まっていた三頭獣の面々の瞳に火が宿る。
「俺達にはそれができる! さあ、作戦開始だ! いくぞ!」
「応っ!!」
前衛分隊が飛び出していく。
作戦自体はいたってシンプルだった。紅剣が待ち受ける地域まで三頭獣が獲物を追い立てる。村人で戦えない者は村の中央付近に退避させ、どうしても戦いたい者だけ、資材運搬などに従事させる。
三頭獣の面々は、二重に作られた柵の中へ躍り出た。広く作られた柵の合間は、十分な広さを確保して、騎士隊二つが動くのに不自由のない。最も大外の柵はところどころ侵入が可能にしてあるが、それは狼たちをその中に誘い込むためである。
だから罠の仕掛けてある紅剣が待ち構える地域には、柵に隙間はなく【檻】の役目を十分に果たしてくれるはずだった。
檻の中に最初に飛び込んでいった前衛分隊は、我武者羅に目の前にいる狼達をなぎ倒す。
「がるぅるぅううぅ」
狼と対峙して吠えるバリュードを横目に、どっちが獣なんだかと苦笑しつつ棍棒を振り回すヴィヴィ、短槍で確実に狼の息の根を止めていくガッチェの分隊が左右に展開する。彼らの役割は檻の中に入った獣を叩き潰しながらひたすら前進することだ。
「多いな!?」
棍棒に噛み付いた狼ごと振り回しているヴィヴィが吠える。
「なんとかするしかないでしょうな」
短槍でとびかかってくる狼の頭を叩き、分隊員と横並びで狼を追い詰めていくガッチェの言葉に、ヴィヴィが頷く。彼らの隣で長剣で狼を次々に斬り伏せているバリュードの姿がある。
「うおぉぉお! やっと斬れる! 斬れるぞぉ!!」
ぶれないその精神性に、いっそ感心する。
「一匹、飛び出たぞ!」
一番外側にいた隊員の声にこたえて、ロズヴェータが視線を檻の外側に転じれば、檻から逃げ出した狼の姿。矢筒から即座に矢を引き抜き、弓につがえると一気に引き絞って、狙いを定め間髪入れずに射撃する。
檻から逃げるような魔獣は、弓隊の管轄である。
外れた矢の軌道に舌打ちしながら、ロズヴェータは再度矢を引き抜こうとするのと、狙っていた獲物が見張り台からの射撃で射抜かれたことを確認する。
グレイスの腕前に舌を巻くと同時に、次の獲物を狙う。
赤狼の姿が見えない、ということは本命は北側だったのかと臍を噛む。できれば、勢いのあるうちに本命と当たりたかったのが本音だ。
ぐるりと見渡した狩場の様子に、優勢を感じるがやはり、獣の動きは読みづらい。その中で最も暴れ回っているのは全身を鎧で固めたバリュードの分隊だった。
「うひょー!」
頭部を覆う鉄製のヘルムの奥から、おかしな声をだしながら、その太刀筋はまさに一撃必殺のものだった。そのおかしなバリュードに引きずられるように、彼の分隊が突出し始めている。さすがの狼の牙も鉄製武具を貫くまでにはいたらない。
四肢に一匹ずつ狼に噛み付かれながら、それでも長剣を振るう姿は、いっそ清々しいほどの理不尽の塊だった。
「今回の臨時報酬はバリュードで決まりか!?」
このままだと突出したバリュードの分隊に攻撃が集中すると考えたロズヴェータが声を上げる。
「んなわけねえだろう!」
吠えるヴィヴィは、部下に発破をかけると、棍棒で狼を薙ぎ払う。
「だいたい、獣の狩り方はわかっただろう!? 私が先頭だ! いくぞ、お前ら!!」
棍棒に噛み付いた狼の頭を素手で握り潰して、投げ捨てる。彼女に続く分隊員達も、短槍や棍棒で狼を牽制しながら、ヴィヴィに進んでいく。突出する彼女の背後を守るように狼を牽制しながら進む様子は、手慣れていた。
狼の返り血で顔を汚し、獰猛に笑うヴィヴィは、蛮族の女戦士と言われてもなんら遜色ない。
対してガッチェの分隊は苦戦気味だった。基本的に獣は音を出す相手がいれば逃げる。辺境伯領で勢子の経験があるだけに、狼の攻撃性の高さに若干の戸惑いがある。
赤狼の統率力だとでもいうのか、一匹一匹が、まるで人間に対して憎悪でも抱いているように執拗に狙ってくる。突き出した槍先を咥えられ、引っ張られれば態勢を崩すものもいる。それを補佐しながら進むため、どうしても他の2個分隊に比して進みが遅くなる。
ロズヴェータは、堅実な彼の戦い方に信頼を置いているが、今回ばかりは手助けが必要だった。弓をつがえた矢を、ガッチェ分隊の前にいる狼に向けて、解き放つ。その狙いは正確に、今にも分隊員に飛びかかろうとしていた狼の脇腹を射抜く。
わずかに安堵の息を漏らし、次なる獲物を狙う。
狼を半分に打ち減らしたところで、狼達が動き出す。北側の本命と合流をしようとしているのだろう。彼らの後を追って、三頭獣が走り出す。
「……」
「畜生風情が! 食っちまうぞ! ゴラァ!」
「あひゃーはっははは!! 次! 次!」
罵声を浴びせるヴィヴィに、どこか頭のねじが緩んでしまったバリュード。
声を上げろ! との指示を出そうと思って周囲を見渡したロズヴェータだったが、言われずとも奇声を発している部下を見ると、まぁいいかという気分になる。
「あー……ガッチェ、狼達が逃げ出したようだから、声を上げつつ追いかけるぞ」
一周回って冷静になったロズヴェータは、ガッチェに声をかける。
「わかりました。若様。どうやら勝ちましたな」
「そうだな」
「では!」
そう言いおいて、声を出すガッチェ。
「おーほいほいほい! おーほいほいほい! おーほいほいほい!」
「え、ガッチェ!?」
思わず声を出してしまったロズヴェータに反応することなく、おかしな奇声を上げながらガッチェもまた狼の追撃へ移った。
「……」
「辺境領域での勢子の掛け声みたいなものです」
ぼそりと呟かれた従士ユーグの声に、ロズヴェータが驚きに目を見開く。
「……マジ?」
「伝統ですので」
「……伝統なら、仕方ないか」
◇◆◇
三頭獣が獣を追い込み、紅剣に合流できた時、辺りは既にかなりの数の狼の屍が転がっていた。じっとしていられなかったエリシュが、北側の狼を誘引して戦っていたらしい。
南側の狼が合流してからは劣勢になったようだったが、三頭獣が合流してからは、優勢に推移しているようだった。
「あれが、赤狼か」
ひときわ大きな狼の姿を捕らえたロズヴェータの視線の先で、三人掛かりでそれに対処する紅剣の姿が見える。
「罠を発動するぞ! 退避しろ!」
見ればエリシュも手傷を追っている。時間はそんなにないと判断するべきだった。
手元から一本の矢を取り出すと、傍らにいるユーグから火をもらう。
天上に向けてはなったそれに呼応して、見張り台からも火矢が放たれる。その先にあるのは積み上げられた薪木。油をたっぷり染み込ませたそれが、爆発的な勢いで燃え広がっていく。
柵の外側に火が走る。
一匹も逃がさないように、囲い込む処置だった。
動物は火を恐れる。その習性を利用しようとしたその策。その効果は予想以上だった。赤狼の動揺は瞬く間に狼達に伝播する。その隙をついて、一挙にエリシュが前に出る。
その速度は、狼もかくやというほどの速度であり、一挙に間合いを詰めると突き出した細剣が、魔獣の喉を貫く。
「勝鬨を! 殲滅しろ!」
倒れ伏す魔獣の血を払い、追撃を命じる姿は既に歴戦の指揮官の威厳がある。
攻め込んできた狼全てを駆逐して、ルフラージの魔獣討伐は終わった。
副題:ロズヴェータちゃん、火をたく。




