表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣達の騎士道  作者: 春野隠者
立志編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/145

ルフラージの魔獣討伐(前)

 魔獣とは、人に害をなす獣の総称である。

 害獣との相違はその強さによる。素人の大人数人で対処できないもの、という大雑把なくくりであり、知識の集積が進んでいない……どころか古代世界よりも退化している暗黒の中世においては、オオカミの集団ですらも魔獣と呼ばれている。

 いつの頃から発生したのかは定かでなく、どうやって生まれるのかもわからず、十字教最古の古典にも登場する。ゆえに彼ら魔獣は深い森や増殖する洞窟を好み、そこに侵入してくる者を排除するのがもっぱらである。

 中には高い知性を持ち、集団を率いて人の村を灰燼に帰するモノがいたり、過去には魔法を操る個体がいたり、人語を介するモノがいたり、遠く最果ての大地(インディガナ)には、神と崇められるモノもいたりと、その種類の幅は広く脅威度は高低差がある。

 現在獅子の紋に王冠(リオングラウス)王国国内において、確認されている危険度が高い魔獣の存在は、五ケ所。いずれも領主や国が討伐隊を送りこみ、敗北を喫した過去がある。

 王国南西、増殖する魔窟(ダンジョン)の囀る死の大魔蝶。

 王国南、火山地帯の炎纏う八本足の駿馬。

 王国北、雲の上を住処とする天駆ける大蛇。

 王国中央に二匹、夜魔の大森林の獣達の女王、増殖する魔窟(ダンジョン)に存在する進撃する大森林。

 とはいえ、強さの定義から言えば、一定の武力を持っているのなら、十分に討伐は可能である。

 彼ら魔獣を飼い馴らし、戦力とするという試みもなされたがリオングラウス王国においては、その成功例はない。獅子の紋に王冠(リオングラウス)王国の仇敵三日月帝国(エルフィナス)には“魔獣使い”と呼ばれる成功例がいるため、不可能ではない。

 まったく、神を恐れぬ所業であろう。一刻も早く神の御威光を遍く大地に降り注がすことが必要であろう。そうあれかし!(エィメェェン!)

 十字教会報、“聖棺”にみる魔獣の定義である。


◇◆◇


 猪野鹿亭に集まった面々は互いに情報交換をしつつ、討伐のための準備を進めていった。

 今回依頼された内容は、狼の集団を排除すること。その狼が魔獣とされた理由として三十以上の集団を組織して、人を喰う。

 すでに犠牲者はでており、一刻の猶予もない状態らしい。

 三頭獣ドライアルドベスティエの面々は二十名ほど、エリシュ率いる紅剣(スカーレット)は同じく二十名程の合計40名もの参加となる。

「数の上では互角か、少し有利だが」

「逃がすと厄介ね」

 可能であれば罠にかけて、一網打尽と行きたい。

「誘導、もしく勢子がいるな。こっちでやろう」

「良いの? 美味しいところもらっちゃうけど」

「一隊だけ、そっちに混ぜてもらいたい」

 ロズヴェータが視線を転ずる先には、平常運転で周囲からドン引きされているバリュードがいた。

「指揮系統が違うのは、どうかしらね」

「一時的に指揮権を預ける」

「……そこまで言うなら、良いけど」

 疑問の視線を向けるエリシュに、ロズヴェータは言い訳と、話題を変える。

「討伐の主体でなかったと言って、報酬を減らされるのを回避しないといけないからな。それに、今後の評価もある」

「……まぁそうね」

 問題は、今回の討伐が成功した場合、依頼主のエトワールの目にその主力がいずれかだったのかと映るだろうか。勢子をしただけの騎士隊と追い立てられた狼の集団をなで斬りにした騎士隊。その必要性を認めながらも、評価としては追い立てるための勢子をした集団が貧乏くじを引くことになる。

 そういう意味では、実力があることを証明するためにも一隊を殲滅側に混ぜて、実力を主張しておくのは間違いではない。

「……あんたもやっぱり貴族よね」

 どこか憂いを含んだエリシュの言葉に、ロズヴェータは首をかしげる。

「必要だろ?」

 貴族であること、政治的配慮と言う奴が必要だからしているに過ぎない。というロズヴェータの答えにエリシュは少し驚いた。

「……そうね。確かに、必要だわ」

 少し微笑んだ彼女は、どこか晴れ晴れとした表情で頷く。

 その役割を決めた後は、旅程とその準備へと議論が移る。それが終われば食事を挟んで、隊員同士の自己紹介だった。

 紅剣(スカーレット)には、思いのほか女性の兵士が多く、三頭獣ドライアルドベスティエからは羨望の眼差しが注がれていた。

 兵士が女性と出会う場所など、娼館を除けばほとんどない。

 だからこそ、身近に女性がいるのは羨望の目で見られる。何しろお見合いができるのは、ほとんどが土地を持った長男や長女であり、次男以下が結婚できるかどうかは、完全に運である。まして恋愛結婚などというものは、出会いの数で決まるといってもいいのだから。

 あっちの騎士隊が良い、などという兵士達の愚痴をロズヴェータは苦笑と共に聞く。エリシュもまたその愚痴に苦笑するしかなかった。


◇◆◇


 助けを求める開拓村までの距離は、日数にして徒歩で7日。魔獣の討伐を含めれば、少なくとも20日程度は見ておく必要のある依頼であった。

 早馬を出して先遣隊を派遣し、開拓村に救援の騎士隊が出発したことを知らせるとともに、最終的に40名もの騎士隊が宿泊する場所を確保する。

 先遣隊に選ばれたのは、辺境伯領出身の分隊長ガッチェであった。また紅剣(スカーレット)からも分隊長を長として一隊を先行させる。

「ミィーユ。この任務の重要性わかってるよね?」

 エリシュの言葉に頷く、紅剣(スカーレット)の先遣隊を横目で見ながら、ロスヴェータは、自ら指名した先遣隊長に視線を移す。

「頼むぞ」

「若様、言われるまでもありません。必ずや」

 辺境伯領出身の分隊長ガッチェ率いる先遣隊は、いずれも辺境伯領の出身者で固めた。これは何も辺境伯領の出身者が信頼できるという話ではない。危機に瀕した開拓村の状況をよくわかっている者達を選抜した結果である。

 馬を巧みとはいかないまでも、何とか振り落とされない程度に操り、出発していく先遣隊を見送って、三頭獣ドライアルドベスティエ紅剣(スカーレット)は、開拓村へ向けて前進を開始した。

 道中は組合ギルドの発行した通行証と、ブリュエド女子爵の出した紹介状により、町に到着すれば宿で休めるというかなりの好待遇であった。

 むろん一日の行程上どうしても野宿をしなければならないという場面はあるが、身銭を切らずに宿に泊まれるというのは、騎士隊の特に兵士達にとってかなりの好待遇であった。

 これまでに一度も宿に泊まったことがないと言う者までいたのだから、如何に恵まれた環境であったのかがわかる。

 ほとんど疲労も覚えず開拓村にまで到着した彼らは、先遣隊と合流すると、早速魔獣の被害を調査し始める。先遣隊が集めた情報をもとに、その活動範囲を絞り、一網打尽にするにはどうしたら良いのか、知恵を出し合う。

 その中でも先遣隊のもたらした情報はやはり有益であった。

「あれは、赤狼ですね。若い個体だと思われます」

 狼種の中でも知能が高く大きな群れを構成する種類だった。年を経るごとに体が大きく狡賢くなり、一説には百を超える群れを形成したこともあるという。

「一つ提案なのですが、村の防護柵を強化するのを手伝ってはいかがでしょう?」

 先遣隊に加えられたガッチェの言葉に、エリシュが首をかしげる。

「それ、何か意味があるの? ああ、いや別にダメってわけじゃないんだけどさ」

 一度ロズヴェータに視線をやり、話していいかを確認。頷くロズヴェータを確認するとガッチェが説明する。

「村に安心感を与えるとともに、赤狼の目をこちらに引き付けるためです」

「村人の心情はわからなくもないけど、赤狼ってそんなに知能高いの?」

「こちらが何をしているか、まではわからないと思いますが、何かをしているということは、わかると思います」

「……つまり、村を餌にするってことだよね?」

「言葉を選ばないならば」

 考え込むエリシュにロズヴェータは、グレイスに話を振る。

「グレイス。元狩人として意見が欲しい。赤狼を辺境伯領で狩る時は、どうしてた?」

「へい。若様。おおむねガッチェ殿の見立て通りで。ただまぁ狩人の間では、同時に森に煙を巻きます」

(いぶ)す、わけか。だが狼は警戒心が強いから逃げ出すんじゃないのか?」

 考え込むロズヴェータの質問に答え、再びグレイスが口を開く。

「奴らは群れを形成すると、途端に強気になるみたいで、同数以上の相手……まぁ辺境伯領で言えば村落だったんですが、そこを襲ってくるんです。それが魔獣と呼ばれる所以かと」

「経験者に学ぶ、だな。その案で行きたいが」

 ロズヴェータの視線に気づいたエリシュが、頷く。

「それが確実みたいだし、それで良いと思う」

 事前の役割に若干の修正が加えられ、村の防備を強化するのと並行して森を燻すための煙を発生させる材料を収集することになった。


◇◆◇


 村の防備のために周囲の柵を補強している中、ロズヴェータはエリシュに話しかけられた。時刻はちょうど昼食時、隊員には食事のための休憩をさせていたところだった。

「よっ! 元気してる?」

「おかげさまで」

 一緒に依頼を受け、旅程を経るごとに彼女との距離は縮まっていった。

「しっかり隊長をやってるんだね。少し感心した」

「そっちこそ」

 言葉少なめで応じたロズヴェータだったが、彼女が差し出す薄い赤ワインをありがたく押し頂く。

「この辺りは、地味が豊かでね。もう少しで開拓も軌道に乗るってところだったんだ。そうすれば小麦や、葡萄、野菜なんかもいっぱいとれそうで、食うに困らないだろうって」

「……村長が?」

「そう、村長が」

「希望を抱くのは、良いことだ。けど、そんなに思い通りにいくはずもない」

「はは、だろうね」

 天変地異はつきものだし、今回のような魔獣の災害もきっとまたあるだろう。そうでなくても疫病や盗賊の被害だって馬鹿にできない。開拓村の開発というのはそのようなリスクを経てなされるものなのだ。

「……けど、大叔母様も言ってた。私たちにとって、何でもない依頼の一つが、依頼する側にとっては人生を左右する重大事なのだってさ」

 村を見守るエリシュの視線は柔らかい。

「成功させなきゃな」

「そうだね」

 魔獣、赤狼を狩る準備は着々と整いつつあった。


副題:ロズヴェータちゃん、15歳なのに、当たり前のようにお酒を飲む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ