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VRMMO バーチャルってなんだっけ?  作者: 肉うどん
第7章 仮想世界
73/114

64話 イベント二日目

新年明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします!


 イベント二日目。


 ある人は有給を使い、ある人は家に引き込もり、またある人は学校に連行されていく。


 「嫌だぁぁああ! ダンジョンがぁああ! ダンジョンが僕を待ってるんだー!」


 壊れた奏を慣れた手つきで引きずる美唯菜、今日も美唯菜の家の前で待機していた佐鳥は苦笑いするしかなかった。


 朝。美唯菜が玄関を出て佐鳥が「おはよう」と挨拶しようとしたのだが、美唯菜は淡々と一直線に向かいの家に歩いていったのだ。佐鳥は「おは」まで言って挙げかけた手をそっと戻した。

 そのあと数分して奏の叫び声と共に美唯菜は佐鳥の前までやってきた。


 「おは、よー」

 「う、うん。おはよう美唯菜ちゃん」


 隣で壊れたようにダンジョンと叫ぶ奏を極力見ないようにして挨拶する佐鳥。

 朝から強烈なものを見てしまった。


 「みぃ。僕は今からダンジョンに潜らないと」

 「がっこー、行こ?」

 「よし、行くか! ほら早く行くぞ!」


 その変わり身の速さに呆気に取られる佐鳥だったが、美唯菜が気にしていないのを見るとツッコミも入れられない。

 当然かのように奏の隣を歩く美唯菜についていくことしか出来なかった。


 「そういえばあの後合流すること無かったね」

 「ああ、そういえばそうだな。僕はずっとダンジョンに……ダンジョン?」

 「かなと、がっこー」

 「はい」


 もう重症である。

 美唯菜は奏の手を掴むと急かすように引っ張った。こういう時にドキッとするだけ奏の症状はまだ軽かった。


 「それでみぃ達はあの後どうしたんだ?」

 「私達はダンジョンに行ったんだ」

 「じゅ、かい、まで……いった」

 「おおーそれは凄いな」


 ダンジョンが全何回層かは公表されていないが、1日で攻略する早さとしては充分だろう。

 イベント期間が1週間あるからある程度余裕を持てるかもしれない。


 「というよりも10層攻略した後はダンジョンから出て街をブラブラしていたんだ」

 「かなとは?」

 「僕は23階層まで行ったな」

 「……え」


 倍以上だった。

 佐鳥は自分たちが結構進んでいると思っていたが、上には上がいた。まさか1日で23階層まで行くとは思ってもいなかった。


 「さすが」


 美唯菜は自分のことのように誇らしげだ、腕を組んでうんうんと頷いている。まるで奏がそこまで行っているのが当然かのようだ。


 よく村田はこの二人の間に割り込もうとしたな、そう佐鳥は一人心の中で呟いた。美唯菜の奏に対する理解度が半端ない、奏も当然のように受け入れている。二人が喧嘩することなんてあるのだろうか、ふと思ったが心にそっとしまっておこう。


 「きょ、は。ひとおおい、ね」

 「そうだな、確かイベント中はVRを使った移動が出来ないんだったよな」


 ゲーム発売から現実世界を歩く人は減り登校が静かになっていたが、イベント期間はVRでの移動が出来なく人通りは以前と同じに戻っていた。むしろ増えているくらいである。


 「バス座れないだろうからちゃんと掴まっておくんだぞ」

 「むー、わたし、そんなに、こどもじゃ……ないもん」


 頬を膨らませて怒る美唯菜にその姿にデレる奏。佐鳥は奏と同じことを言いかけて危なかったと息を付いていた。

 ちなみにバスの中では吊り輪を持った奏に捕まっていた。佐鳥はさぞ後悔したそうな。











               ★










 「それであの後ひよりちゃんのおじいちゃんの病気は治ったのか?」

 「あーうん、今日の朝に行ってみたら元気になっていたよ」


 昼休み。

 珍しく美唯菜は奏の近くにおらず、佐鳥を含めた女子達の集いに参加していた。奏は少し寂しそうにしながら美唯菜の席に座って根元と話していた。


 「昨日は寝たきりだったんだけど、今日の朝に行ってみると店を開けていたよ」

 「店?」

 「言ってなかったっけ? おじいちゃんは商店をやっているんだ、見た目はちょっとおんぼろだけど商品は一級品だよ」

 「へぇ〜」


 奏は美唯菜の机の上に置かれた弁当を取る、そこには『奏へ』と書かれた紙があった。

 とりあえず愛しすぎて写真を撮った。


 「それでおじいちゃんの容態は前より良くなったみたいなんだけど、まだ完治していないみたいなんだ」

 「結構依頼が続くな、1回で終わらないってことは」

 「うん、サブイベントも発生していたから間違えないと思うよ」


 だいたいのゲームで起きる依頼系クエストは種類が存在する。

 例えば単発で終わる依頼、これは重要な依頼でない場合が多い。誰にでも簡単に受けることができ達成率も低くないが、その代わり報酬はあまり期待出来ない。

 一方物語が発生し連続で依頼を受けることができるなら、条件や進行率にも寄るだろうが報酬は期待出来るかもしれない。サブイベントまで起きているなら確実だろう。


 「でもボクはそれよりもおじいちゃんを治してあげたいんだけどね。ひよりちゃんも喜んでくれるだろうし」

 「"おねーちゃん"なんだっけ?」

 「相馬くんも"おねーちゃん"って呼んでくれていいよ?」

 「おねーちゃん」

 「………………っ〜!! ごめん、やっぱ無しで」


 恥ずかしそうに横を向く根元にいたずらが成功したように笑う奏。自分から言い出したことなのに全く予想していなかった、不意打ちだ。

 奏の言葉を理解するのに少々時間を要したが、分かると咄嗟に拒否してしまった。少しもったいないことしたかな、そう思ってももう1回言う勇気は持ち合わせていなかったのだった。


 「それで、今は何を集めてるんだよ」

 「おっ? 手伝ってくれるの?」

 「まあどうせなら最後まで結果見たいしな」

 「結果ならもちろん教えるつもりだけど」

 「いいんだよ!」

 「あははっ、そうだね!」


 根元は笑って自分の弁当を食べる。奏は拗ねて美唯菜作の弁当を口に入れた。


 「今はダンジョン草ってのを集めてるんだ。あと24本だったかな」

 「ダンジョン草ってダンジョン内で手に入るんじゃなかったっけ?」

 「そうだよ、ボクは行くことが出来ないから他から買い取らないと手に入らないんだよね」


 もしSIMが他2種のプレイヤーとトレードが出来なければ難渋していただろう依頼だ。

 DPも基本はダンジョン内でエネミーを倒すことで手に入る、SIMではダンジョン以外でDPを稼がないといけない。


 「もちろん住人の人なら適正価格で売ってくれるんだけど、数が少なくてね。プレイヤーから買うと少し高めで困ってたんだ、ありがと」

 「ダンジョン草とかなら使う予定は今の所無いしな、どれだけあるか分からないけど」

 「ううん、充分助かる」


 どれだけあるか分からないとは言ったが、根元が提示した個数はあるだろうと奏は踏んでいた。なにせ階層ボス以外は逃げていくのだ。ソロだろうと採取ポイントで安全にアイテムを獲得することも出来るし、探索が楽になり宝箱なども見つけやすい。引き換えとして物凄く退屈。


 そんなこんなで学校が終わると学校内で帰宅ラッシュが始まった。

 イベントのために休んでいる人も居たが、真面目に登校した人だっていち早くゲームがしたいのだ。

 廊下を爆走してヘドロ先生にぶつかる者、窓から飛び降りてヘドロ先生に衝突する者、各々が自分の能力を活かし最速で下校する。


 「僕達も行くか」

 「うん」


 奏達も歩いて教室を出ていく。奏は翼を広げて飛んで帰りたかったが、ここまで来たら5分10分変わらないだろう。空を飛びたそうにしているのは美唯菜が佐鳥と仲良くしているからじゃない、ゲームがしたいからである。断じて。










              ★










 「ちょっと気になったんだけど」

 「うん? どうしたの、マッキー?」


 ダンジョン11層。

 ミーナ、トリア、マッキーの3人で歩いていると、マッキーが思い出したかのように話を切り出した。


 「気を悪くしたらごめんね」

 「許さないわ」

 「……トリア」


 すかさずマッキーにトリアが問答無用でNG宣言すると、ミーナが半眼でツッコミを入れる。マッキーは少し眉を下げながら笑うと思ったことを口に出した。


 「ミーナちゃんとソウくんって喧嘩とかするのかなって。ほら、いつも仲がいいから……とんでもなく」

 「へ? あるよ、普通に。実はちょっと前にも喧嘩していたんだよ?」

 「え、そうなの!?」


 想像が出来ないとマッキーは驚愕を顕にする、隣でトリアも少し驚いた。

 小さく怒ることはあるだろうが、喧嘩に発展する程の事が二人に起きるとは露とも思わなかった。


 「昔だけど殆ど喋らなかった時もあったんだよ」

 「ソウくんとミーナちゃんが?」

 「そうそう」


 ミーナはころころと笑ってこたえた。ミーナが昔を思い出そうとしてマッキーが聞く体制に入る。が、トリアがそれを止めた。


 「二人とも、敵よ」

 --にゃー


 トリアの視線の先には三匹の大豚が血走った目でミーナ達を見ていた。

 トリアが抱いているこねこも声を上げて知らせている。


 「お願い『白ねこ』」

 「頼んだよ『吸血コウモリ デュオ』」


 二人の呼びかけに応じて召喚される白ねこと2匹のコウモリ。

 同時にミーナ、マッキー、トリアのマスが光り、不可視の障壁が張られた。


 「戦闘開始だね、行くよ吸血コウモリ」

 --シャー!


 「白ねこ『強化』」

 --ふにゃー!


 吸血コウモリ2匹が1体の大豚を取り囲み、白ねこが2体の大豚を相手する。

 白ねこの召喚SPは30と少し高めだ、強化することによる能力の上がり幅も大きい。大豚2体相手でも負けはしないが、ミーナのSPは100から強化によるSP消費も含めてあと25になった。

 また吸血コウモリを召喚したマッキーは未だ残りSP85、戦力に不安はあるが2体1という数的有利である。


 「頑張りなさいよ!」


 何故かポンポンをもったトリアが応援する。

 ミーナは戦いに目をくれずトリアをSSスクリーンショットした。


 「吸血コウモリ『強化』」


 マッキーは徐々に減らされていく吸血コウモリのHPを強化によって持ちこたえる。また強化による能力値向上がさっきよりも戦局を有利にさせた。


 「『猫が小判』」


 アクティブカード『猫が小判』。猫への攻撃が手加減される、効果時間2分。

 白ねこと戦っていた大豚の動きが鈍り、白ねこは着々と大豚のHPを減らしていった。


 大豚を一体倒すと形勢は揺るぐことが無くなる。増援が来たとき用にマッキーがSPを温存していたが、杞憂に終わり戦闘が終了した。

 不可視の障壁が消えると同時に、戦ったクリーチャーの元へいくミーナとマッキー。労いの言葉と共にマッキーは吸血コウモリの2匹を撫でる、ミーナは白ねこに抱きついて離さない。トリアは手でカメラのポーズを取りそっと保存した。


 呼び出したクリーチャーはそのままに再び歩き出す3人とクリーチャー達。白ねこは先導するように皆の前をてくてくと歩く。そして振り返って一鳴き。


 --にゃー


 まるでこっちだと言っているようである。

 しかしそんなことはお構い無しで表情を緩める3人だった。

 攻略に熱を注いでいるわけでもなく、あとを追うことは白ねこが前を歩いた時点で決定していた。


 「それでえっと……なんの話だっけ?」

 「ミーナがソウと喧嘩したことがあるって話よ」

 「あー、そうだったね」


 トリアも多少興味があるようだ。先を促すような言葉にミーナはそうだったと思い出す。

 そう面白い話でもないんだけどな。ミーナはそう思いながらも言葉を続けた。


 「えと、2年前……3年前だったかな」


 かなり昔だとマッキーとトリアは思ったが敢えて聞き流す。


 「と、前提として言っておくけど私とソウは昔から仲良かったわけじゃないからね」


 それも意外だった。

 マッキーなんて産まれた瞬間からバカップルだったんじゃないかと思っていたくらいだ。トリアにいたっては産まれる前から恋人同士だったんじゃないかと考えていた。


 「仲が悪かったわけじゃないけど、昔ソウが私の家に遊びに来た時に事件が起きてね」


 『仲が良い』という定義を見失う二人。仲がいいわけじゃないのにも関わらず家に遊びに来る。ここでも二人はスルースキルを発動した、仲がいいの基準を一段階上げた。


 「その時にソウが怪我をしちゃったんだ、全治2ヶ月の骨折」


 まさかの少し重い話だった。

 喧嘩した時の話だからある程度重いのは承知だったが、初めから怪我の話が出てくるとは予想外であった。


 「それからだっけ、かなっ……ソウが本気で身体を鍛え始めたのは」


 惚気話に変わった。

 頬を染めて当時を思い出すかのように言うミーナに、トリア達は微妙な表情で相槌を打つことしか出来なかった。


 「ソウは私の近くをずっと居るようになってね。大好きなゲームを止めてまで」


 犯罪臭がした。

 ストーカーじゃないかとは口が裂けても言えない。

 怪我をしてから身体を鍛えてそばに居るようになった……。変質者が変質地味た遊びをして怪我、そのあと変質地味た身体の鍛え方をしたのち1人前の変質者になる。


 いやいやいや!

 マッキーは首を振って一瞬ぎってしまった考えを振り払う。

 そんなこと無い事は普段のソウを見ていると分かる……はずだ、実際ミーナは楽しそうに喋っている。


 「でも私はそんな事して欲しくなくて」


 んんん??


 「…………確かに嬉しかったけど」


 んんんんんっ??


 「だから言ったんだ……『止めて』って」


 四六時中そばに居られたら堪らない。

 マッキーは『そりゃ言うよね』と心の中で納得した。同時にマッキーのソウに対するイメージが崩れていく。


 「でもソウは聞いてくれなくて、怒っちゃって」


 ストーカー紛いのことをしておいて人の話も聞かないのか……。

 それは美唯菜ちゃんも怒るよ。


 マッキーのソウへの心象は瓦解した。

 今やストーカー野郎である。


 「ソウが私の為に我慢しているのが分かってたから……私もヒートアップしちゃって」


 するよ! しない方がおかしいから! というかそれで我慢しているの!!

 マッキーは心の中でツッコミを入れた。思わず口に出そうになったがそこは我慢した。


 「ソウは私の事を思って、私はそんなソウのことを思って……喧嘩しちゃった」

 「……ミーナちゃんは大丈夫だったの」

 「うん。私も怖かったけど、いつまでも震えていたら前に進めないから」

 「ミーナちゃん……」


 ──強いな、ミーナちゃんは。


 マッキーはミーナの強さ・・を少し羨ましく感じた。

 私にもミーナちゃんの強さがほんの少しでもあれば……そう思わずにいられない。

 ソウに怒りが湧いてもマッキーにはそれをぶつける事は出来ない、マッキーにはその資格がないから。何気なく聞いてみた事に胸が痛むのを感じた。


 「……マッキー? 多分勘違いしているわよ」

 「……へ?」

 「ごめんなさい、少し覗かせてもらったわ」


 覗いた? 何を。

 それに勘違いっていったい何の?

 マッキーはトリアの言葉の意味が分からずに疑問符を浮かべる。トリアはマッキーが分かっていないのを悟ると、ミーナに顔を向けて言った。


 「ミーナ。このままだとソウがストーカー野郎だって伝わるわよ」

 「えっ、違うの?」


 ソウが変態行為をしでかそうとして失敗、全治2ヶ月の骨折。そのあと変態的なトレーニングにより変質した変態的な肉体でミーナを付け纏った変態ストーカー野郎。

 ……さっきよりもマッキーの心象が悪くなっていた。


 「全然違うよ、マッキー。えと……」

 「……ミーナ」


 ミーナがマッキーに説明をしようとすると全員が通ったマスが赤く光り出した。

 赤い光はミーナ達を囲むように広がりだし、大きな境界線が形成された。


 「ボスよ」


 赤い光で囲われたフィールドの中央が光だし、クリーチャーが召還される。

 灰色の毛並みに突き出された大牙、その巨大な体格は9×9マスの上で荒い息を漏らした。


 「話は後よ、戦いに集中しなさい」

 「うん、白ねこ……頑張ろうね」

 --にゃー!


 「え、えっ、タイミング悪いー!」











              ★










 「ほい、ダンジョン草な」

 「ありがと、それじゃこれ『紅のポーション』ね」


 ダンジョン街、とあるカフェにてソウとミズキがお茶を飲んでいた。

 窓の外から見える行き交うプレイヤーを眺めながらアイテムを渡し合った。


 「いいのか? ダンジョン草はあげるつもりだったんだけど」

 「んー、一応商人だからね。無償で貰い続けるのはポリシーに反するでしょ?」

 「そういうもんか」

 「ソウは今種族は何レベル?」

 「74だけど」


 少し納得のいかないソウにミズキは唐突にレベルを聞いた。

 ソウは大して疑問を抱くことなく答える。


 「思ってたより高いね……。それだったらもうHPは1000を超えてるんじゃない?」

 「ああ、今は1000ちょっと」

 「相変わらずだね、だったら『紅のポーション』はそれなりに使えるはずだよ。ソウのHPを削る相手は少ないだろうし保険で一つ持っておきなよ」


 そう聞いてソウは『紅のポーション』を見た。所有者は既にミズキからソウに移って、その詳細が表示される。



アイテム] 紅のポーション


 HP500回復。再使用可能時間45秒。



 赤のポーションの2倍の性能を誇り、ソウのHPの約半分が回復する。

 半分といえば少ない気もするが、戦闘中に半分のHPが一瞬で回復するのは大きい。特にギリギリの戦いになるなら尚更である。

 また赤のポーションと併用して使うことにより四分の三回復することも出来る。今は赤のポーションをミズキに渡して無いが、もし手に入るなら緊急時に役立つだろう。まさにミズキが言っていた通りの保険だ。なお『深紅のポーション』は流石に渡せなかった模様。


 「それなら有難く貰っておくか」

 「うんうん、もう所有権はソウに移ってるから返せないからね」

 「次に紅のポーションが必要になったらどうするんだよ」

 「紅はまだあるからね、それはそれで助かるかな」


 知らないアイテムを集めるよりは楽だとミズキは笑う。手間は無くなるし、あまり問題はなかった。

 ソウが納得したところでミズキは「そういえば」と話を続けた。


 「ソウは今からダンジョンに行くの?」

 「んーそうだな、ミーナ達もダンジョンに潜ってるだろうし」

 「合同の方にはまだ行かないんだね」

 「ああ、ミーナが女友達と遊べるいい機会だからな。合同の方はそれを充分楽しんでからでも遅くないだろ」


 ソウは自分がいると邪魔になるだろうと思って合同ダンジョンに行こうとは言わないでおいた。学校ではCREATUREダンジョンの事で盛り上がっていたようだし、いい話のネタになるだろう。


 「せめてボクがダンジョンに潜れればいいんだけどねー」

 「ミズキは自分のイベントがあるだろ」


 一人でダンジョンに潜り続けるのは寂しいだろうとミズキは言ったが、確かに自分のサブクエストを達成しなければいけないのだった。

 実際ミズキがダンジョンに潜れるならソウに守ってもらって素材集めに精を出していただろうが。


 「まあさっさと攻略してミズキの依頼でも手伝ってやるか」

 「それは楽しみだね、期待しておくよ」

 「そろそろ出るか」

 「だね、ボクもダンジョン草をひよりちゃんに渡さないといけないし」


 二人は席を立って会計に向かう。

 ここで支払われるのもやはりDPだ。


 「700DPでーす」

 「350だね」

 「ほいほい」


 どちらかが全額払うなんてことは無く、もちろん割り勘である。

 ミズキが半分の数字を言うと、ソウも返事しながら画面を操作する。


 「ありしたー!」


 二人は店を出るとお互いの目的地に歩きだす。

 ミズキは街外れの商店に、ソウはFANTASYダンジョンへ。

 軽く手を振ったあとは二人とも別々の道を歩いていった。






              ★




 「こんにちは、おじいさん」

 「こんにちは、お嬢さん。どうしたんだい? ひよりに用事があるのかい?」


 ミズキは商店の裏口からではなく、営業中と札の掛けられた表口のドアを開けた。

 迎え入れてくれるのは昨日ベットで倒れていた初老の男性、少し顔色が優れないのはまだ病が治っていないからだろう。それでも一晩で大分回復している。


 「はい、中に入ってもいいですか?」

 「構わないよ、お入り」


 軋む店内を歩き男性が店の奥にあるドアを開けた。

 生活空間へと続くドアをミズキは礼を言って入り、そのまま階段を上がる。

 2つある扉の内、ひよりと書かれた札のある扉を開ける。


 「あっ、おねーちゃん!」

 「こんにちは、ひよりちゃん」

 「うん、こんにちは」


 部屋に入るとひよりが笑顔で出迎えてくれる。

 ひよりの部屋もおじいちゃんの部屋と同じく比較的簡素だったが、ぬいぐるみが置いてあったりと女の子らしさが垣間見えた。


 「ダンジョン草持ってきたよ」

 「ありがとう、おねーちゃん。これで薬が作れるよ」

 「うん、早速お願い」

 「まかせて」


 ひよりは机に置いてあったすり鉢にダンジョン草を入れて潰していく。ミズキはそれを眺めながら手伝えることがないか聞くが、ひよりは大丈夫と断った。ミズキには専門的なことが出来ないから致し方ないが。手持ち無沙汰になったミズキはひよりの事を聞くことにする。


 「ひよりちゃんはお父さんとかはどうしてるの?」


 そう聞くとひよりは少し顔を曇らせる。


 「……パパとママはお星様になっちゃった。だから今は会えないんだ」


 聞いてはいけないことを聞いてしまった。

 昨日も今日も見かけなかったなら、そういう可能性もあったはずだった。ミズキはうっかり失念してしまったことを後悔する。


 「お馬さんに連れて行かれたんだ」


 轢かれたっていうことだろうか。星になったというならきっとそうだろう。ということはおじいさんはたった一人の肉親だ、ひよりが必至になるのも無理はなかった。


 「そっか……ごめんね、辛いこと思い出させて」

 「ううん、だからひよりがおじいちゃんと一緒にいるんだ。おじいちゃんが寂しくないように」


 薬を作るひよりの表情は真剣そのものだ。

 ひよりも辛いだろうに自分よりもおじいちゃんの事を考えてる。小さいのに強いなとミズキはいたたまれない気持ちになった。

 ゲームの中の世界で相手はCPUだというのに感傷的な気持ちにさせるのはトリアという存在がいるからだろうか、それとも感情移入しすぎているのかも知れない。


 「……できた」


 途中引出しから色々な薬品などを混ぜ、出来たそれは草の緑色ではなく煌々と白色に輝いていた。


 「綺麗……」

 「う、うん」


 フラスコから溢れ出す神聖な光、この液体が病を癒す薬だと言えば誰も疑わないだろう。しかしこれを小さな少女が作ったと誰が信じるだろうか。

 ミズキも目の前で見ていなければ有り得ないと言っていたかもしれない。


 「さっそくおじいちゃんに渡してくるね!」


 ひよりは光るフラスコを片手に部屋を出ていった。

 ミズキは大きく頷いてひよりを見送る。一人残ったミズキはひよりのいた机を見て気付く。


 「この前の」


 『赤のポーション』、そして今さっきひよりが作った光る薬。その両方が並んで置いてあった。

 ポーションは先日ミズキが渡した物の半分、光る薬はひよりがおじいちゃんに渡すと言って持って行った分と同量だった。


 「なんでだろう。一気に飲んだらダメだったのかなぁ」


 半分では価値も付かないだろう。となるとやはり半分ずつ飲むことにより効果が発揮するものだろうか、しかしそれなら赤のポーションがまだ飲まれていないのはおかしい。


 「おねーちゃん」


 ミズキが考えていると扉が開きひよりが戻ってきた。

 ひよりは少し落ち込んでおり、結果がどうだったかミズキはすぐに察してしまう。


 「だめ……だったよ」

 「……そっか」


 薬の事を聞こうとしたが、そんな雰囲気でもなかった。見るからに落ち込んでいるひよりを見ると、半分だけあるポーションが何のためにあるのかなんて言えなかった。


 「じゃあひよりちゃん。次は何を持って来ればいい?」

 「おねーちゃん……手伝ってくれるの?」

 「当たり前だよ。ボクもこのままなんて嫌だからね」


 ひよりは不思議そうな顔をしていたが、始めにひよりのお願いを聞いた時点で最後まで付き合うことは決めていた。少し疑問に思うことがあってもそれは変わらない。


 「ありがと、おねーちゃん」


 決してこの『おねーちゃん』という言葉が聞きたいからではない。決して。


 「ダンジョン草でダメだったけど……特殊ダンジョン草なら」

 「特殊……ダンジョン草?」


 ひよりは少し思いつめたように言う。ミズキはそれがどういったものかは分からなかったが、なんともレアリティが高そうな響きである。

 ダンジョン草に特殊と付いただけだが、それだけで希少価値は上がっていそうだ。


 「ダンジョンの上に生えてるらしくて…………すごく危ないからあまり出回らないって」



 【期間限定サブクエスト『ひよりのおねがい③』が発生しました。このイベントは途中で辞めることができます】


依頼] ひよりのおねがい③


納品 特殊ダンジョン草 0/50

報酬 不明


 依頼を受けますか? YES/NO



 ひよりは言っているうちに不安になって声が萎んでしまう。見るからに高そうな物を要求しているのだ、簡単にお願い出来るものじゃなかった。断られるかもしれないと怖くなるのはごく自然なことで。


 ミズキは表情されるメッセージを視界の隅に追いやり、そんなひよりの頭に手を置いた。

 ひよりと目を合わせるとミズキは頬を緩ませて笑顔を見せる。


 「おねーちゃんに任せなさい!」

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