63話 ミズキ
明日も投稿する予定です。
良いお年を(^-^)
ミーナとソウを見送りミズキも広場を去ろうとした時、NPCの女の子がミズキに近づいた。
「……おねーちゃん。おねがい……助けて」
「お姉ちゃんっ……どうしたの? お姉ちゃんに教えてくれる?」
泣きすがるようにミズキに助けを求めるが、ミズキは『おねーちゃん』という言葉に反応したようだ。
それだけ甘美な響きなのか、はたまたお兄ちゃんじゃなくお姉ちゃんと呼ばれたことがミズキにとって価値のあるものだったのか。
ミズキは脚を折り女の子と目線を合わせる。右手を頭の上に重ねて優しく微笑み、女の子に問いかけた。
「おじいちゃんが……おじいちゃんが」
「落ち着いて……おじいちゃんが、どうしたの?」
取り乱し気味の女の子に出来るだけゆっくり尋ねる。
少しでも落ち着くように一定の間隔で背中をさすった。
「ゆっくりでいいから聞かせてくれる?」
「……おじいちゃん……病気で、たおれて」
「うん」
「ひよりじゃ、治してあげられなくて」
悲しそうに涙を零す女の子──ひよりの言葉に耳を傾ける。
ミズキは少しの予感と期待を悟らせないように顔を引き締めて、ひよりと目を合わせた。
「だからおねがい。おじいちゃんを助けて!」
「……うん、分かったよ。ボクに何が出来るかは分からないけど、おじいちゃんの所まで案内してくれる?」
「う、うん!」
ひよりはパァっと笑顔になるとミズキの手を取り、早くと言わんばかりに走り出した。
【期間限定サブクエスト『ひよりのおねがい』が発生しました。このイベントは途中で辞めることができます】
ミズキは視界に表示されたメッセージを一瞥し、ひよりの先導する手に従って後を付いていく。
「ひ、ひよりちゃん? 一体どこまで行くのかな?」
「もうちょっと」
ひよりとミズキが進む道は右に曲がったり左に曲がったりと忙しなく、街の中央からどんどん離れていった。
始めのうちは何も思わなかったミズキだが、もう移動して30分程は経過していた。
そしてひよりがもう少しと言って約5分ほど、街外れにひっそりと建つ商店の前で足を止めた。その古びた商店は準備中と書かれた札が立てられ、中に人がいる気配もしない。
「ついたよ。ここがひよりのおうち」
「はぁ、はぁ……[持久力強化解除]。それじゃおじいちゃんを見せてくれる?」
「うん」
35分ほど走り続けたミズキは隠れて体力を上げていた。ひよりは汗一つ流さずに走っているのに立ち止まることなど『おねーちゃん』が出来るわけ無かったのだ。
「ただいま」
「お邪魔します」
ひよりとミズキは裏口から中に入る。
家の中は外見から予想出来ていた通り至る所に蜘蛛の巣が伸び、歩くたび埃が宙に舞う。
「ここだよ。おじいちゃん、入るね」
ミズキが案内された場所は軋む階段を上り2階、2つある扉のうちひよりと書かれた札が掛けられていない方の扉。
ひよりはその扉をゆっくり開けるとミズキに入るよう促した。
部屋は比較的簡素で必要最低限の物が置いてあるくらいである。
ミズキが部屋に入り辺りを見渡す前に、ベットでうなされている初老の男性の傍まで近寄った。横にはひよりが佇みミズキを見上げている。
ひよりはおじいちゃんが魘されているのにも関わらず悲痛な声は出さない、しかしその表情から悲しみは見てとれた。
「もうずっと前から病気で……このまえからひどくなって、たおれたりうなされたりするの」
「……ひよりちゃんはその病気のこと、分かる?」
「……うん。治しかたは、しってる」
どうやら治せる病気らしい。病気だと聞いて治せるものじゃないかも知れないとミズキは危惧していたが、ひよりの言葉に少し安心した。
「おねーちゃんは街のそとから来たんだよね」
「そうだよ」
「あか色の薬がいるの。でも……ひよりのおこづかいじゃ買えなくて」
「赤色の薬……小遣いはDPのことかな。ここじゃない他のお店で売ってるんだね」
「でぃーぴー? は知らないけど、そとの方が安いって。だから……ひよりでも買えるかなって」
ひよりはポケットから両手いっぱいにDの模様がある銅貨を取り出した。
「おねーちゃん。おねがい……ひよりに売ってください」
ミズキはひよりの行動に少し驚いた。
赤色の薬というものがミズキの手にあるとして、ミズキはソレを無償でひよりに渡すつもりだったのだ。小さな女の子にまでお金を取るほどDPに困っているわけでもない、なによりミズキの良心がそうさせない。
だというのにひよりからミズキに交渉を持ち掛けてきた。無償で手に入ると思っていないのか、それとも商店に住む商人の娘として一方的な施しを受けることを良しとしないのか。もちろん一般的なやり取りをするなら適正値、つまりこの街における赤色の薬の値段で売るのが普通だが。
「……いいよ。その代わり赤色の薬をボクが持っているか分からないから確認してくれる?」
この女の子が持ち掛けた取引にはお金以上の価値がある。無論『おねーちゃん』がひよりからのお願いを断ることはそう無いのだが。
ミズキはメニューを開き、アイテム欄から色の赤い薬を片っ端から出していく。
『謎の薬(赤)』
『謎すぎる薬(赤)』
『HPポーション(赤)』
『MPポーション(赤)』
『状態異常回復薬(紅)』
『状態異常薬(赤)』
『深紅のポーション』
「これくらいかな? どうかな、この中にある?」
イベント開始前に手に入れていたポーションのうち、価値が高い物まで戸惑いなく取り出してひよりに見せた。
だが、ひよりは首を横に振った。ミズキの出した赤い薬ではなかったようだ。
「ダメかぁ」
「これより赤くないやつ」
ひよりが手に持ってミズキに見せる。それはミズキが最後に出した『深紅のポーション』、ミズキが他の商人との取引に使える切り札の一つである。曰く高級ポーションであり、それ相応の価値がある。
深紅のポーションよりも赤くないというと『紅のポーション』や、その一段階ランクを下げた『赤のポーション』がそれに該当する。
「ごめんね、ひよりちゃん。ちょっと手に入れてくるけど、おじいちゃんを」
「ひよりも行く」
すぐに用意出来ればよかったのだが、持っていないものは仕方ないとミズキは外に出て買って来ようとする。横でうなされている男性は汗も酷くどれだけ時間が残されているか分からないために、ひよりを置いておじいちゃんの傍に居てもらおうとしたのだ。もし間に合わなかったとしても最後の瞬間は看取れるように。
だがひよりは間髪入れずに行くと言った。
ひよりが来ることでミズキは薬を間違える可能性が減る。しかしひよりの買えなかったものを目の前で買い、ひよりのお小遣いで売るという事だ。これほどまでに商人としての誇りを汚すことがあるだろうか。
「……分かった。それじゃあ急ぐけど頑張ってついてきてね」
「うん!」
ミズキは少し逡巡したあとに了承した。
そしてすぐに二人は外へ出る。部屋には静かに寝息を立て始めた初老の男性だけが残った。
★
「さて、着いたわよ! ここがCREATURE限定ダンジョン、その名もCREATURE限定ダンジョンよ!」
--にゃー!
そのままである。
ミーナ、トリア、マッキー、こねこの3人と1匹はCREATURE限定ダンジョンの前に立った。
聳え立つ塔の入口は合同ダンジョンより人が少なく、大した労力を使わずに来ることが出来た。
トリアは塔の前に立つと塔を後ろにポーズをとる。まるでトリアが手掛けたダンジョンのような態度だが、それを知るすべはミーナやマッキーには持たなかった。むしろトリアがトリアだからこそ、まさか……と思うのだった。
「じゃあレッツゴー!」
しかしそんな些細なことは気にしないミーナなのであった。二人と腕を絡めてテンション高めでダンジョンに入る。
「おおー! 結構広いね」
「ねっ! ねっ!」
「ふふんっ」
ダンジョンの中を見渡しながら言うマッキーに、テンションが高すぎるミーナ。トリアはドヤ顔で胸を張っていた。
ダンジョン内部は線が張り巡らされ、正方形が均等に並んでいた。これはWORLD CREATURE内でエネミーに遭遇すると形成されるバトルフィールドと同様のものである、大きさは比べ物にならないが。
「これは敵がもう近くにいるってことでいいのかな?」
「いいえ、違うわ。私達が入るダンジョンは初めからバトルフィールドが形成されているのよ、中にはそうでないものもあるのだけど」
マッキーが足下を見ると自分の立っている正方形、マス目の部分が光っていた。一方前へ歩くと光もマッキーに付いてくる。マッキーがミーナに触れると二人のマス目が引っ付いて長方形になった。
「基本的にはさっきマッキーが動いた通りよ。私達はマス目に沿って動くことになるの、近寄ればお互いにあるマスの隔てる線が無くなって一つのマスになるわ。バトル中はクリーチャー同士が近寄ってもマスはそのままだから注意するのよ」
「はーい!」
トリアの説明に手を挙げて返事するミーナ。なおテンションは高い。
ミズキがこの場にいたならソウの病気が移ったと思っていたことだろう。
それから3人がダンジョンを進みだして暫く。人の流れに沿って歩くミーナパーティは徘徊しているはずのエネミーに会うことなく淡々と移動していた。
合同ダンジョンよりは人が少ないとはいえ、このダンジョンも大勢の人達が挑んでいる。もちろんエネミーがリポップする暇もなく殲滅されていた。
「暇だね」
「暇だよね」
「暇ね」
--にゃー
ミーナパーティはする事もなくただ歩くのみ。
ダンジョン内なのに街を歩いているのとさほど変わらなかった。こうなってはテンションがおかしくなっていたミーナも落ち着きを取り戻し、適当に話をしながら時間を消費していた。
そうこうして暫く。やっと敵を見つけたと思ったが、そのエネミー近くでプレイヤーがズラリと並んでいた。
その奥には上に登る階段があり、つい先ほどエネミーを倒したプレイヤーが上っていく。
「……ダンジョンボスね」
「……トリアさん。今まで1度もエネミーと遭遇しなかったんですけど」
「そうね」
「ほ、ほら! 戦わないならその方がいいと思うよ!」
「……そうね」
ミーナのフォローに目を背けて返事するトリア。トリアもエネミーに遭遇することなくボスに行き着くとは思わなかったのだろう、乾いた笑いは周囲の雑音に掻き消えた。
「トリアさん。あの赤く光っているマスは」
マッキーが指差したのは並んでいるプレイヤーの最前列、その少し前から階段までを囲むように光っているマスのことだ。
この空気をどうにかしようと話題を探した成果である。
「それはダンジョンボスを囲む……言わば境界線のようなものね。1度入るとボスを倒さない限り基本出ることは出来ないわ」
「よくあるボス部屋みたいな感じなんだね。昔ソウが語ってたっけ」
「それじゃあ2層からは赤いマスを探せばいいんだよね」
「上も今みたいになっていなければね」
マッキーの結論にトリアは遠い目をする。
少し時間を置いてダンジョンに来たため、もう既に2層も攻略されているかもしれない。リポップした瞬間にひたすら討伐されるこの階層のボスが可哀想である。
「まあ私が案内すればいいんだけどね。それをすると楽しめないでしょ?」
「ダンジョンを彷徨うのも醍醐味だもんね」
「私の案内は最終手段ね」
「トリアとも一緒に迷いたいな」
「迷うこと前提なのね!」
ソウなら最短コースで攻略するだろうが、ミーナ達にはその気がない。攻略に興味が無い訳じゃないが、それが全てでもないのだ。周りのプレイヤーからしたら羨ましい限りである。
「あっそろそろ私達の番だよ」
「今のうちにクリーチャーを呼び出しておくのが良いわ、赤マスを越えるとSPが全回復するから勿体ないわよ」
「りょうかい!」
ミーナは敬礼してホルダーに手を当てた。こねこも頭の上で敬礼してトリアの胸を貫いたのはマッキーしか見ていなかった。
「あっミーナ、数を呼ぶよりも1体を強化していった方がいいわ。マッキーもね」
「うん。わかった」
ミーナが呼びたしたのは『ねこ』。にゃーと鳴いて寄り添うねこをミーナが持ち上げて片手で撫でる。ミーナは撫でながら『ねこ』を強化していく。
強化に必要なSPは召喚時に消費するSPの1.5倍になる。また2回目はその1.5倍、3回目はその1.5倍と必要SPは加速的に増える。
そしてクリーチャーは一定回数強化することによってその姿を変える。
『ねこ』も幾度目かの強化で進化を遂げた。その姿はどこか愛らしく、とても愛らしかった。
……体の構造などは変わらず、ただ大きくなった。大型犬ほどに。
「私も呼ぶね。『バンパイニャ』」
--うにゃー!
マッキーが召喚したのは一昨日に喫茶店で見せたデフォルメ吸血鬼が猫耳をつけたバージョン。その名もバンパイニャ!
「ミーナちゃんは猫ちゃんを呼ぶと思ったから、私も吸血猫ちゃんを出してみました!」
「……マッキー」
「な、なにかな……トリアさん」
マッキーの前に立つトリアはいつになく真剣だ。真剣すぎて表情は消え去った。
マッキーは返事を返すが、その表情に一歩どころか2歩引いた。
「触っても……いいかしら?」
--うにゃ?!
血走った眼、だんだん荒くなる吐息、バンパイニャはトリアを見た瞬間マッキーの腕の中へ隠れた。首を振ってイヤイヤと伝えるバンパイニャ。
しかしマッキー、断る勇気は持ち合わせていなかった。バンパイニャの拒否を見なかった事にしてトリアの前へ差し出した。
「どうぞ!」
--うにゃぁぁああ!!
もはや残像が出るほど首を振るが、我を失ったトリアには何の意味も持たない。ガッチリと胴体をマッキーに掴まれ逃げ出すことも出来ない、血走った眼で手を伸ばすトリアを見て青い顔を更に青くする。
最早ここまで……。バンパイニャが諦めて目を瞑ろうとした時、微かな浮遊感と同時に視界が揺らめいた。
「もう、トリア。そんな風に迫っちゃバンパイニャが怖がっちゃうでしょ?」
救世主ミーナ登場!
ミーナは素早くマッキーからバンパイニャを抱き上げてトリアの魔の手から救う。
ミーナが頬を膨らませてトリアを注意すると、トリアも少し冷静になったようだ。
バンパイニャがキラキラした目でミーナを見ると、マッキーはそれに気付いて苦笑した。
「ご、ごめんなさい」
「いえいえ。バンパイニャもそんなに怖がらないであげて、凄く優しい人だよ?」
--うにゃぁー
トリアはバンパイニャを見て眉を下げて落ち込む。
バンパイニャはマッキーに諭されたあと、トリアを見て恐る恐る近付いた。
--うにゃ
「……バンパイニャ」
自らトリアの腕の中に飛び込むバンパイニャをトリアは優しく包み込んだ。
「ごめんね、バンパイニャ」
--うにゃー
トリアは優しくバンパイニャを撫でて目を細める。
ミーナやマッキーもそれを見て笑いあった。
トリアの意外な一面を見たマッキーだったが、今までのイメージを良い意味で払拭された。少しお堅い印象も持っていたマッキーであったが、可愛いところがあるなと親近感が湧いてくる。
ミーナも『トリア可愛いでしょ』と笑い、マッキーが『凄く可愛い』と笑いあったのだ。
そして後ろからマッキーの肩を叩く他プレイヤーが一人。
「あの、次ですよ」
『…………あっ』
★
【ダンジョンボス[飛行ゴブリン]撃破】
【SP1獲得】
FANTASYダンジョン第5層。
数多のプレイヤーがダンジョンを攻略していく中、その最前線にソウはいた。
右手に紫色の光剣、名前の横に表示される称号は[強き者]。
周りにプレイヤーはおらず、ソウだけが単独で第5層を攻略した。
「ふぅ……これでSP5か。ボーナスダンジョンだな」
これまで1層から5層まで攻略する毎にSPを1獲得した。これからも攻略するごとにSPが手に入るならクリアできる人からするとボーナスダンジョンだろう。特にソウは称号[強き者]の効果によりエネミーは寄ってこず、ダンジョンボスや稀にくる雑魚エネミーも紫光剣・アーダルベルトのおかげでひと振りで塵と化す。ソウからするとボーナスでしかなかった。
おかげでソウは少し退屈していた。
ミーナ達とは違う理由で暇を持て余している。なお装備のランクを落とす気は無かった。
「一旦街に戻るか……」
ソウは称号を外し第6層に上がると、そのままダンジョン入り口へ転移する。
このダンジョンには各階層に転移装置があり、1度来た階層へ転移するすることが出来る。
ソウは入り口へ戻ると、そのまま人の流れに逆らうようにダンジョンから離れる。
FANTASYダンジョン側にある広場にはプレイヤーが集まり、パーティも募集していてある程度喧騒に溢れていた。
広場から出るとプレイヤーも疎らになり、NPCの姿もよく見かけるようになる。
中にはNPCから依頼らしきものを受けているプレイヤーもいた。
ソウは適当に街を見ながら散歩する。ダンジョンから出て街を歩くのにこれといった理由もないが、ずっとダンジョンで作業のように攻略するのは案外疲れるものだ。
街で息抜きするのもイベントを楽しむには必要なことである。
ふと目に入った武器屋で武器を眺め(買わない)、ふと目にした防具店で防具を眺める(買わない)。
「DP全然ないんだよな……今のとこボス5体分だもんな」
買わないのではなく、買えないのだった。
武器屋では紫光剣を超えるようなものは売っていなかったのだが、防具店では欲しい物が幾つかあった。Gではなく、DPで買い物が出来るから資金をそこまで気にする必要は無い。所詮イベントが終われば使えなくなる通貨だし、何より欲しいと思わせる防具も置いてあった。問題はDPが貯まるまでその防具店に置いてあるかだが。
まあ無いものは仕方ない。ソウは別段気にすることもなく防具店を出ると、また当てもなく街を歩きだした。
そうして暫く、そろそろダンジョンに戻ろうかと思ったところである人影を見つけた。
「よっ! ミズキ。誘拐は犯罪だぞ」
ソウが見たのは小さな女の子と手を繋いで歩いているミズキ。
傍から見たら仲のいい姉妹のように見えるが、ミズキの外見こそ女性でも中身は男である。……少なくともソウからすると。
「誘拐なんて人聞きの悪い……。どっからどう見ても姉妹だよ!」
「…………おにいちゃん、私が……ううん。おねーちゃんにお願いして付いてきて貰っているの」
「そっかそっか。お名前は?」
「……ひより」
ミズキを庇って説明する女の子、よく出来た子である。
むしろ擬似丁髷でネックレスをした男が名前を聞く方が犯罪臭するだろう。……とにかく容疑は晴れた。
「ソウはいつもボクを犯罪者にしたがるよね」
「悪い悪い。あっそのシュシュ似合ってるぞ」
「…………皆で買ったやつじゃん……その時褒めてよ。…………ばーか!」
「それで何をしていたんだ?」
途中ミズキの声が小さくてよく聞こえなかったが、罵倒だけ聞こえたソウは話を進めることにする。
ソウは女の子──ひよりの頭上を見てNPCだと判断する。そこで何か依頼を受けていることを察して邪魔したと思ったが、イベント中の依頼内容が気になって聞いてしまった。実は他のプレイヤーが依頼を受けている所を見てうずうずしていたのだ。
「えっとね……ひよりちゃんのおじいちゃんが病気で、それを治すために薬を探しているんだけど」
「ん? なんか歯切れが悪いな」
「その薬が通常ステージで手に入る物で」
「持っていないのか」
「うん」
珍しい。ソウはそう思った。
超ゲーム好きのソウに付き合える位のミズキである。本人は否定しているが、その実力が並大抵のものでないはずが無かった。特にミズキの得意分野だとソウが知っているだけに意外だった。
その薬がどんなものなのか知らないが、ゲームがリリースしてからまだ1週間だ。手に入る薬など限られてくるだろう。
ミズキが手に入らないというならよっぽどの物なのかもしれない。
「この街でも売ってることには売ってるけど、手持ちのDPだと買えなかったんだ」
「ちなみに何の薬なんだ?」
「えっとね、『赤のポーション』っていうんだけど」
候補だった『紅のポーション』はひよりが見て違うと断定したことにより『赤のポーション』だと確信した。
実際ひよりは『赤のポーション』を見るとコレだと喜んだ。……買えなかったのだが。
ミズキからすると思っていたよりランクが低すぎたのだ。次からは気を付けようと感じていたミズキだった。
思えば『赤のポーション』はHPを200回復させるアイテムだ、リリース1週間くらいなら妥当と言えるだろう。それに比べて『深紅のポーション』はと若干悲しくなる。
ソウが回復薬なんて持っているわけないと諦めて、
「あぁ、それなら持ってたっけ」
「……へ?」
思考が付いて来なかった。
「いやだから持ってる、その『赤のポーション』」
「え? いやだってソウがポーションとか似合──」
「よし分かった、要らないみたいだな」
「いやごめんいるいる! ちょうだい!」
一体僕をどう見ているのか小一時間問い詰めようか。
ソウがそんなことをするとミーナが黙って無さそうだ。
「ほい」
ソウはアイテムから所有権を放棄してミズキに渡す。
通常ならトレード機能を使ってやり取りをするが、ミズキはそれを苦笑いして受け取った。
所有権がミズキに変わり、これでミズキは無事ひよりの依頼を達成出来るようになった。
「まったく、SIMと取り引きできる機能まであるのに。でも……ありがと」
「おう」
暗にミズキから法外な取り引きも出来たことを言ったが、ソウにとってそれは考えもしなかった。
ソウはそれに触れずに感謝の言葉だけを受け取る。
「それじゃあボクは行くね」
「ああ、またな」
「うん! じゃあ行こっか、ひよりちゃん」
ひよりは頷いてミズキの手を握る。
ミズキがソウに手を振ると走っておじいちゃんの家に向かった。
残されたソウは一人背伸びをするとミズキとは逆の方向へ歩き出す。
「さて、ダンジョン行くか」




