62話
次もまた1週間後に……。
暗転した視界が戻っていき、地に足がついたような感覚と共に意識が覚醒する。イベントステージ[ダンジョン街]へと降り立った。
溢れかえる人に賑わう喧騒。辺りから滲み出る不安と期待に乗せられて、自然と気分が高まっていくのを感じる。少し熱気に当てられて目眩がしてきそうだ。
「か、かなと……」
「みぃ!」
僕を呼ぶ声にふと隣を見ると、みぃが青い顔をしてふらついていた。慌ててみぃを支えて状態を確認する。
この人混みに当てられて気分が悪くなったのだろう。今でも人は増え続けている、これからもっと密度が高くなるのは想像に難くない。
根元と佐鳥はどうだろうか、近くにいると思うんだけど。
「あっ、いたいたソウ! こっちこっち!」
僕のプレイヤーネームを呼ぶ声に顔を向けると、女子二人が手を振っていた。多分根元と佐鳥だろう。根元はともかく佐鳥は一瞬分からなかったけど、リアルとあまり大差ない。
根元は現実で女になっているときの姿そのままだし、佐鳥は種族通り吸血鬼っぽいけど現実とさほど変わらない。みぃ? みぃはどんな姿でも分からないわけがないな、敢えていうなら少し大人びてるような気がしなくもない。
「すぐそっちに行く! ミーナ、少し掴まっていて」
「……わぁ」
みぃを抱き上げると翼を広げて空に上がる。
溢れる人混みを上から見下ろし低空を飛行する。上から見ると改めて人が多いな、みぃの気分が悪くなるわけだ。何人かが僕の真似をして空を飛び始めている、早めに行こう。
「……みぃ。大丈夫?」
「うん。もう大丈夫、特効薬は奏だね」
治るの早いな。
根元の近くまでいくと、根元はジェスチャーで今いる大通りから外れた所を指差した。とりあえずここから離れようということだな、確かにこの流れの中で降りるのは効率が悪い。
大通りから横に外れた道。そこも人通りは凄いけど、端っこは案外そうでもない。
無事にみぃを地上に降ろして着陸する。根元と一緒にいた佐鳥はみぃと両手でハイタッチすると、僕を見て首をかしげた。
「相馬くん……だよね?」
「おう、ここではソウな」
今まで分からなかったのか……。いや、確かに現実の自分とは少し変えているから分からなくなるのも不思議じゃない。逆に根元は1発で分かっていたのが不思議だ。
髪の長さも目の色や大きさも違うと、現実で会っていても分からなくなるものだ。だからこそ元の体をベースにしたアバターであってもプレイヤーネーム呼びが普通である。まぁ、みぃや根元みたいに分かる人は分かるんだけど。
ついでに佐鳥は種族的な特徴を除くと髪色を濃い赤に変わっただけで分かりやすい。
プレイヤーネームは僕が[ソウ]、みぃは[ミーナ]、佐鳥は[マッキー]、根元が[ミズキ]。
「ってミズキは本名そのままじゃん。いいのか?」
「う、うん。むしろ……名前そのままで登録しておいてよかったというか、なんというか」
うん? まあ本人がいいならいいんだけど。
なぜか根元はみぃに頬をつねられている、羨ましい。
「そ、それじゃあこれからどうしようか?」
「そうだな。とりあえずダンジョン街を見て回らないか」
これからを促すマッキーに提案する。
一通りダンジョン街を散歩するのは悪い案じゃない、まずは街の情報を集めないとな。ダンジョンはその後でいいだろう、せっかくだから4人で楽しんだ方がいいし。
「私はいいと思う、いきなりダンジョンに挑むのも抵抗あるし」
「そもそもダンジョンの位置すら分からないんだけどね」
ミズキの言う通りである。ダンジョンやダンジョンポイントを使える店をまず探さないといけない。
ここから見える大きな三つの塔がそうなんだろうけど、行ってみないと分からないからな。
「私もそれがいい。人が多い気がするし」
確かにすぐに行くとまたミーナの体調が悪くなりそうだ。どうせすぐにダンジョンの場所は知れ渡るだろうし、混みやすいのは予想ができる。
「それじゃあ街を探索するってのでいいな?」
「うん。あっ、ちょっと待って、トリアを呼ばないと」
ミーナは懐からトリアのカードを取り出す。……トリアが居れば街のことなんて何でも……いや、止めておこう。
「ミーナちゃん、猫ちゃんは呼ばないの?」
「うん。人が多いし、踏まれたらいけないから……こねこだけ」
トリアを呼び出す前に[こねこ]のカードも取り出す。そのあとすぐにミーナはトリアとこねこを召喚した。
召喚演出と共に現れるトリアとこねこ。トリアはミーナの正面に、こねこは頭の上に召喚された。
「え、トリアさん? え、えっ……さっきカードから」
「何か問題でもあるかしら」
「あっいやそういうわけじゃないんだけど、ちょっと驚いたよ」
そういえばトリアがこの世界の住人なのは知らないんだったっけ。僕も始めは驚いたんだけど。
といっても驚いていたのはミズキだけで、マッキーは少し目を見張っただけだった。ミーナから聞いていたのかな。
「でもこれならカードの中にボク達も入れそうだよね」
「もちろん入れるわよ」
「……え」
「もちろん条件があるのだけどね」
それは初耳だ。カードの中に入ることが出来るなら、僕もミーナのカードの中に入ってWORLD CREATUREをする事が出来るんじゃないか。その条件っていうのが凄く気になるところだ。
でもそれより、召喚されたトリアにミーナが抱き着いているのを当たり前かのように受け入れている方が気になる。とてとてとてっとトリアに向かう姿は凄く……凄く羨ましいものだ。正直変わってほしい。
……なっ、今トリアが僕を見て鼻で笑ってきた! ぐぬぬ……ちくせう。
「あの、トリアさん」
「なにかしらマッキー」
トリアもVRゲームでのマナーは知っているようだ。おずおずといった風にトリアに話しかける佐鳥をゲーム内の名前で応えている。頭の上に名前が表記されているし、そういうものだと認識しているだけかもしれないけど。
「この前は、その……ありがとうございました。危ないところを助けてくれて。それと……ごめんなさい、私のせいで」
「それ以上は言わなくてもいいわ」
「……トリア、さん。ごめんなさ──」
「ああ、誤解をしていたらごめんなさい。そういう意味じゃないの。私はミーナが無事ならそれでいい、危険な目に合わせたのには思うところが無いわけじゃないけど……でもミーナはそれを許したはずよ。なら私からは何もいうことは無いわ」
男だな。いや女なんだろうけど。
僕的にも自分の力を見誤っていたのを気付くことが出来た、危ない状態だったけど無事に事態が収拾した。結果良くても、結局僕も危機感が足りていなかったからな。
「ソウ、ボクのいない時に何かあったの?」
「ん、あぁ……ミズキは居なかったな。この前あったクラスと集まりの後にちょっとな」
「そうなんだ……。道理でミーナとマッキーが急に仲良くなっていたんだね」
うんうんと頷くミズキ。ほんとスルースキル高いな、普通なら根掘り葉掘り聞くところじゃないか?
「かなっ、ソウ。話し終わったよ、早く行こ?」
トリアに抱き着いていたミーナが寄ってきて僕の腕をとる。一瞬ミズキをちらっと見ていたけどどうしたんだろう。
まあいいか、今はミーナと腕を組んでいることの方が重要だ。前を見ればトリアとマッキーは僕を見て待っていた。
「よし行くか!」
さっきより少しは落ち着いた街の通りを5人で進む。今まで人が多過ぎて見ようともしなかったけど、見える家一つ一つにNPCがいたりして生活感が溢れているな。
イベントサーバーの数は300万、その全てがこのクオリティなんだよな。
「まるで本当に生きてるみたいだよな」
「あら、失礼ね。本当に生きているわよ」
僕の呟きにトリアが反応する。トリアは家の中の住人に手を振ると、住人も手を振り返していた。そこに決められたプログラムのような不自然さは無く、AIとは思えないほど生活の一部として自然な流れだった。
「でもサーバーが300万あるんだったら、全く同じAIが300万人いることになるのか」
「……そうね、世界線で捉えてみなさい。幾つも枝分かれした世界があるとして、いま私達が歩いているこの場所は300万ある世界の一つなのよ。元となる存在は同じでも世界が違えばAIの歩みもまた変わるわ」
つまり300万の世界には同じ存在がいても、全てが同じじゃないんだな。だからといって全く違うっていうわけじゃなさそうだけど。
でもそうしたら他のサーバーでの攻略情報はあまり当てにならないかもしれないな。
「もちろん決められた役割を持って生まれてくる子もいるけど、それでも同じじゃないのよ」
「つまり運営が用意したサブイベント的なやつも、サーバーによっては無くなってる可能性も……」
「あるかもしれないわね。逆に新しいサブイベントも起きるかも知れないわ」
それはまた……。違うサーバーの情報に踊らされて徒労に終わる可能性もあるのか。勝負はサーバーを決める所から始まっていたんだな、内容が分からないだけに悩んでも意味の無いところだけど。
まあ近くではしゃいでるミーナとマッキーを見ていると考えていることがどうでも良くなるんだが。やっぱりゲームは楽しまないとな。
「ということはトリアさん。もしボクがこの街でイベント後にも取引を独占して取りつづけることが出来たとして、違うサーバーでは同じ所で独占して取引をしている人は居ないかもしれないってことかな?」
「概ねその通りね。そんなことは稀にしかないでしょうけど」
ミズキがトリアに問いかけて、トリアがそれに答える。
トリアはWORLD CREATUREからなのに、SIMのことも分かるんだな。僕は何を言っているのかよく分からないけど。
「そういえばミズキ、さっきからメニューを開いてるけど何をしてるんだ?」
「ああこれはね、買い物をしてるんだよ」
「買い物?」
「見てみる?」
ミズキは開いているメニューを僕に見せてくれる。
メニューの中はカタログのように色んな物が表示されていて、買い物とミズキが言ったようにこの中の物が買えるみたいだ。
ん? 内容が今変わった?
「分かった?」
「メニューの中身が変わったな」
「そうなんだよ。ボク達SIMでの買い物は店で買う他にメニューから買える物があるんだけどね、立つ位置によってメニューで買えるものが変わるんだ」
「ああ、だからメニューをずっと開いていたんだな」
でもこれならWORLD SIMが商人になって世界を歩くのは様になってるな。CREATUREは知らないけど、FANTASYは今のところ街一つで済むし。場合によっては地球の裏側までいって欲しい物を手に入れる必要もあるかもしれない。
「イベント限定とかで手に入るものがあるかもしれないからね、チェックしとかないと」
「ずっと見ていたらぶつかるぞ」
「ぶつかりそうになったら教えてよ?」
「あほか」
舌を出して笑うミズキから目を外して前を見ると、ミーナとマッキーが店の前でなにやら盛り上がっていた。
「そういえばトリアはミーナの所に行かないのか?」
「今回はマッキーに譲ってあげてるのよ。それにミーナも同じ世界の友達と楽しんでいるならその方がいいわ」
「そういうものか……? ミーナは気にしないと思うけど」
第一そんなことを言えばミーナ怒るぞ。
トリアがミーナを大切に思っていることは知ってるけど、大切にし過ぎて変な方向に考えが行ってないか?
だけど気持ちは分かるぞ、僕もミーナを大切にし過ぎるあまり思考が崩壊するからな!
「あとは、あなた達が一線を越えないか監視するためね。これが一番重要といっても過言じゃないわ」
「いや過言だろ」
僕がミズキと何かあるわけないだろ、どうしてそんな思考になるんだよ。ってミズキ、なんで恥ずかしそうにこっちを見てるんだ!
もじもじして照れなくてもいい! というかそんなに胸を強調しないでくれ、つい目が入ってしまうと……。
「……ソウ? 何見てるの?」
「み、ミーナ!? いや、これは違うんだ」
「やましい事を考えている人は皆そう言うのよね、ミーナ」
「トリアの言う通り。私の奏センサーに引っかかったと思ったら……胸、胸なんて!」
ご乱心である。奏センサーってなんだよ、やけに高性能だな。
しかしこの場合どうフォローすればいいんだ。どう言っても火に油だ、というか奏センサーってなんだよ。僕は美唯菜センサーの警報音が鳴りまくりだよ。
「そ、それよりも」
「それより?」
トリアうるさい。
「さっき店で何を見てたの? 凄い楽しそうだったけど」
「あっそうだ。みんな来て! いい物があるんだ」
よし、話を逸らすことに成功。
僕はミーナの手に引っ張られて連れていかれる。
ミズキはその後を追うように歩いて、
「ほらトリアも早く早く!」
「え、ええ」
僕を連れたミーナがトリアの前までいき、空いてる片手でトリアの手を掴んだ。
ミーナに連れられてやって来た店は主に装飾品が置いているようだ。ブレスレットやリボンだったり、他にも指輪なんてものもあるな。
その装飾品は女物のものが多くて、ミーナ達が騒いでいるのも無理はないか。ミズキは店に入った途端に凄い速さで物色し始めていたし。
「トリアトリア! これ付けてみて!」
ミーナが取り出したのは赤い紐状のリボン。付けてみてと言いながらもトリアの髪にリボンを結んでいく。
「あぁ〜! やっぱり似合うね!」
「うんうん! 絶対トリアさんに似合うと思ったんだ」
「そ、そうかしら」
うん、確かに透き通る銀髪に似合うな。トリアも満更でもなさそうだ。
さっきミーナとマッキーが店の前にいたのはこれだったのか。
「ミーナちゃんはやっぱりこれだよね」
マッキーがミーナに見せたのは猫マークが並んだ髪留め。猫獣人で猫の髪留め、猫好きが一発で分かるな。でもどこに掛けるんだろうか、猫耳があるから邪魔にならないだろうか。
と思っていたら本来耳がある所の少し上に横から付けていた。……ふむ、可愛い。
「どうかな、ソウ?」
「控えめに言って最高」
「……えへへ」
元々が最高だと表現に困るな。どう足掻いても最高以上になるじゃないか。
「ミーナはこれも似合うと思うわよ」
トリアが選んだのは白い花が沢山ついているヘアピン。何の花かは知らないけどこれは映えるな、元々綺麗な黒髪によく合う。変な男が現れないか心配なくらいだ。
「ミーナちゃん可愛いー! ソウくん、ミーナちゃんちょうだい!」
「無理だな」
「マッキー、私にも許可を取ってちょうだい。渡さないけどね!」
暴走しかけたマッキーを僕とトリアが撃沈させる。変な所で気が合うな、いや当然か。
しかしトリアも暴走気味だ、これはミーナを確保しておかないと。
「ん? ミーナ顔赤いぞ」
「誰のせいかな? 急に抱き寄せるから」
とりあえずスクショ撮っておいた。
「それじゃあ戻してまた買いに行こう?」
「だね」
そういってマッキーはトリアからリボンを受け取り、ミーナから髪飾りを外す。
「買わないのか? 結構気に入っていたと思っていたんだけど」
「本当は買いたいんだけど、これ全部DPでしか買えないみたいなんだ」
そういうことか。ミーナもトリアも当然のように外していたから実は気に入ってなかったかと思った。
というかそれって始めから買えないって分かっていたってことだよな……気にしないでおこう。買うから店に寄るんじゃないよな、楽しむために入ったんだよな。僕も楽しかったし。
「皆おまたせー! あれ、待ってなかった?」
マッキーが商品を棚に戻した所でミズキが店の奥から帰ってきた。
その両手には様々な装飾品があって……全てこの店の物だろうか。他にもブレスレットだったり、いつのまにか髪を結んでいたり。
「ミズキ、泥棒はしたらダメだぞ」
「これは買ったんだよ! 絶対言うと思った」
「買ったってミズキちゃんも私達と同じでDPは無いはずだよね?」
マッキーの言う通りで始めはDP0のはずだし、本当にどうしたんだろう。
DP無しで買い物が出来るのはトリアくらいなものだろう。……分からないけど。
「ボクはWORLD SIMだよ? 交渉次第ではお金が無くても買い物も出来るし、DPだって手に入るよ」
「一体何をすればそんな事が出来るんだよ。魔法使うなんて反則だ」
「何って普通に手持ちを売ったり交換したり、色々だよ。魔法使ってるのはソウでしょ」
しかしまあタイミング良く来たな、運がいいのか悪いのか……。少なくともミズキにとっては悪いだろうな。
目を光らせているミーナとマッキーに気付くのは時間の問題だ、むしろ察しのいいミズキならもう気付いているかもしれない。あからさま視線を2人から外していた、ミズキのスルースキルフル活用。
しかし2人は強引にミズキの視界に入る、ミズキは逃げられない!
僕はミズキの肩を叩いて同情の眼差しを送る。
「ミズキ、諦めろ。僕にはどうすることも出来ない」
★
「折角のDPが無くなったよ……。これから増やす予定だったのに皆無だよぉ!」
前を歩くミーナを見れば白い花がアクセントの『純真のヘアピン』が、トリアを見れば『紅のリボン』が、マッキーを見れば『猫耳カチューシャ』が……ん?
そして街のガラスを見れば丁髷のようにゴムで縛られた髪に、ガラスのネックレスを掛けた自分が映っていた。
「……どうしてこうなった」
「ソウのソレに関してはボクも楽しかったし」
「どういうことだよ」
ミズキは目を逸らして乾いた口笛を吹いた。
しかしこの装飾品……案外高いみたいなんだよな。あの短時間でよくここまでDPを貯めれるなぁ。
「DPは後で返してくれるって言ってたしいいんだけどね、ソウのスクショで手を打ったし」
「ちょっとまて、どういうことだ」
「あっそろそろダンジョンに付くんじゃない?」
ミズキはすぐさま話を変えて前を指差す。塔のような形をしたダンジョンが3つ、ログインした時から見えていたけど近くでみると随分大きいな。
真ん中にあるのがFANTASYとCREATUREの合同ダンジョン、そこから左にFANTASYダンジョン、右にはCREATUREダンジョン。左右にあるダンジョンは真ん中の合同ダンジョンよりもかなり距離が開いていた。
「け、結構人がいっぱいだね。大丈夫? ミーナちゃん」
「う、うん」
ダンジョンの入口付近は大きめの広場のようになっていて、物凄い人がごった返していた。
少し寄り道をしていたとはいえ、イベントが始まってまだ時間も経っていないから当然といえば当然だけど。確か1サーバー3千人だったよな、満員だと考えても集まりすぎじゃないか?
「みんな楽しみだったんだね」
「リアルにも影響するから尚更だね」
「ミズキちゃんは夢のないこと言うなぁ」
マッキーはミズキに口を尖らせて愚痴る。
ミズキの言い分も分かるんだけどな、しかも初イベントだし俄然やる気が湧いてくるだろう。
「両方だな」
「両方だね」
おっミーナ、息が合うな。
「私はこうやって皆でゲームが出来てそれだけで楽しいな」
「相変わらずミーナは天使のようだな」
「えっ、えっ!」
ほら2人もミーナを見習いなさい。
この愛くるしい生物の考えを少しでも持つのです。
「私はミーナと居れるならどこでも構わないけど」
トリアは例外、一切歪みないからな。
僕の腕の中に閉じ込めたミーナをトリアに奪われてしまった。ちくせう。
「それで、これからどうする? ダンジョンに潜るならポイントで応援するよ?」
「んー。この中で行くのはちょっと……」
「キツいよな」
ミズキが言ってるポイントで応援っていうのはSIM専用のポイントで、応援されるとそのパーティーがポイントに応じて強化される。
でもマッキーの言う通りこの中でダンジョンに行くのは骨が折れそうだ。僕やミズキはともかくミーナやマッキーには厳しいだろう、トリアは全然平気そうだけど。
「あら、ミズキは100ポイントしかない応援ポイントを簡単に使っていいのかしら?」
「元々ボクはソウ達に全ポイント注ぎ込むつもりでいるからね。それに、あそこにいる人達みたいな使い方をするより全然マシだよ」
ミズキは広場の中心から端にかけて見回す。そこにはパーティーを募集等をしている他に応援ポイントを『売って』いる人達がいた。周囲に見えるようにFANTASYのLvが幾つ以上限定とか、CREATUREの〜とか条件を出している所もチラホラと見かける。
これ僕の天族のレベルを教えたら人が殺到しそうだ。
「強さの信用も出来ない人にポイントを使って自分の報酬を下げる真似なんてしたくないよ。イベント開始すぐで応援ポイントの価値が定まってない今の内に高値で売ろうとするのは分かるけど、このさき他の用途が見つかったらどうするんだろうね? SIM同士のやり取りも含めて」
まあ先が見えていない証拠だな。目の前の利益に目が眩んで後の事を考えてない。確かに応援ポイントが想像よりも価値がなくて、全て好条件で売れたら良いんだろうけど……ここの運営がそんなことになるようなイベント内容にするわけないよな。
「ってことはミーナとマッキーは人混みで、ミズキはあの中に混ざる気がない。それじゃあここから少し離れて休憩するか」
「だね」
「「さんせーい!」」
「私はミーナが行くところについて行くわ!」
パーティー募集なんてしなくてもここにいるし、ダンジョンに潜らないならここに居座る意味もない。
早めに退散してゆっくりしよう、まだイベント初日なんだし焦る必要ないと思うし。てかトリア、従者みたいになってるぞ。
そうと決まれば早速動こう。
ダンジョン広場の外側を回り、裏側へと進む。
裏側へ行き少し歩くと、さっきまでの人混みが嘘のようにプレイヤーの気配が少なくなった。
「ここまで行くと人も少なくなっていくね」
「だねー。なんだかちょっと落ち着くよ」
これを見るとほかのプレイヤーがどれだけダンジョンにいるのかが分かるな。きっと他の二つのダンジョンにも同じくらいに人が集まっているだろうし。
「ここを曲がると小さな広場があるわ。そこで休めばいいんじゃないかしら」
「ほんと!? それじゃあそこに行こう!」
「ちょ、ちょっとミーナ。そんなに急がなくても広場は逃げないわよ!」
少し疲れ気味のミーナは休める場所があると知って走り出す。休めると思えば力が出てくるって不思議だよな。あとミーナを追うトリアが完璧に保護者になってる。
僕達もミーナを追って道を曲がる。するとすぐに寂れたような広場があり、ミーナが手を振っていた。
「ミーナさん楽しそうだね」
「ああ、ありがとな」
「それは何のありがとうかな?」
「さあなんだろうな」
公園のような広場には子供一人いなく、寂れたベンチがポツンっと置いてあった。なんだかいかにもイベントが起きそうな場所だな。
「これはまた……誰も立ち寄らなさそうな場所だねー」
「でもおかけで開いてるよ? 座ろ。トリア、マッキー」
二つあるベンチの内、一つに三人揃って座るミーナ達。
僕達も横のベンチに座るとやっと一息付いたような気がした。座る時にキィッっと甲高い音がしたのには突っ込まないでおこう。変にリアルだな。
「みてみて」
「……ん? 木だな」
ミズキが指差した所を見ると木があった、木しかなかった。深緑の木々が並んで現実と同じ夏を感じさせた。以上。
「もう夏だからやっぱり運営もそれを意識したかもね」
「季節外れの雪とかが降るのもVRの醍醐味なんだけどなぁ」
「季節に合わせるのもネトゲの楽しみだよ」
「だなぁ」
なんだか座っていると眠気がくるな。ミーナの方を見ると猫達を呼び出していたり会話に花を咲かせている、疲れが取れないだろう。女子の休憩は休憩じゃないのか。というかちょっと寂しい。
ん? マッキーとこのバンパイアじゃないか。デフォルメされた姿は案外愛くるしい外見をしているな。そうかそうか、慰めてくれるのか。
「あっそうだ! お弁当作ってきたんだ、皆で食べよう?」
「今シートをだすわね」
ちびバンパイアをヨシヨシしているとミーナが思い出した様にベンチから立った。それに伴ってトリアがカードを地面に投げる。
地面に浮いたカードから青いレジャーシートが出現し、ミーナがカードをホルダーから取り出した。
「『お弁当』。ほら、皆もこっちだよ!」
「ああ、今行く!」
弁当か、まさかこうやってゲーム内でミーナの手作り弁当を食べれるとは。休憩最高だな!
ブルーシートに入ってちゃっかりミーナの隣に座る。
「ソウくん……」
「何か?」
「ソウから見ればよく我慢したほうよ、マッキーはこっち座りなさい」
「はーい」
「……んん? 我慢?」
もう一つ開いていたミーナの隣をトリアが座り、マッキーがその横に座る。そして良くわかっていないミーナは一人で首をかしげていた。
「それじゃあ開けるね」
全員が座った所でミーナが弁当を開けた。
「おおー!」
「ソウ、そんなに嬉しそうだと……照れる」
バスケットのような入れ物に色とりどりのサンドイッチ、まるでピクニックに行くような中身で男心をくすぐられる。
量も全員分はあって、朝早くから用意してくれたんだろうか。
「トリアと一緒に作ったんだ。皆の分もあるからどんどん食べてね」
「わ、私は挟んだだけよ」
そっぽを向いて赤くなるトリア。
僕の脳裏にはミーナとトリアの二人で和気藹々とサンドイッチを作っている光景が浮かんだ。のんびりとしたいい光景で一人ほっこりしてしまう。
「ありがとう! ミーナちゃん、トリアさん!」
「二人ともありがとう。すごく美味しそうだよ」
「い、いいから早く食べなさい! 冷めるわよ!」
「冷めてるよ」
「もう、ミーナっ」
ドヤ顔で言うミーナにぷくっと頬を膨らませるトリアだが、ミーナが笑うとつられて笑ってしまうのだった。本当にサンドイッチを一緒に作ったんだな、こんなに照れているトリアは初めてだ。
「じゃあ……いただきます」
『いただきます!』
ミーナを合図にバスケットに手を伸ばした。色々な種類があって手が迷ってしまうな、中には鶏肉まで入っているものもある。あっ、それ取ろうとしたやつ!
「んっ! 美味しい、美味しいよこれ!」
「そ、そう?」
「うん! ミーナさん凄いよ。ほら、ソウも食べてみて」
「あ、あぁ」
ミズキに促されるように手渡されたサンドイッチを食べる。ミーナの作ったものは何でも美味しいに決まっているし、そもそもサンドイッチに味の差なんてうぉおお!
「うまい!」
今まで食べてきたサンドイッチは何だったんだ、いやサンドイッチにここまでの可能性があったとは……。
一口食べると止まらない、また一口また一口また……無い、だと!?
「がっつぎすぎよ、まったく」
「あははっ、トリアさんお母さんみたい」
「マッキーも笑ってないで食べなさい」
「むぐっ!」
衝動に従ってサンドイッチを両手持ちで食べる。うん、美味しい。
トリアが照れ隠しでマッキーの口に小さめのサンドイッチをねじ込んだ。というかトリアが反応しすぎで食べてない。
「はい、トリアも食べないと。あ〜ん」
「ミーにゃっ! ……もぐもぅ、ごくんっ」
トリアが食べていないのを感じたのか、ミーナがサンドイッチを取りトリアにあーんする。トリアは驚いてから素直に飲み込むとミーナはウンウンと頷いていた。
……ふむ。
「ミーナ」
「なに? ソウぅっん」
僕も便乗してミーナにサンドイッチを食べさせる。そしてミーナは半眼で僕を見たあと、口元にもって来ている僕の手を掴んだ。
「うおっ、ちょっ、ミーナ」
ミーナは僕の手を掴んだままサンドイッチを食べる。無論そのサンドイッチは僕がミーナに握られている手で持っており……。
「ミーナっ、それは手だから! サンドイッチじゃなくて手だから」
──パクっ
「ソウ……おいしいね」
んっ〜!!
それはサンドイッチが美味しいという意味だよな、決して僕の手が美味しいっていう事じゃないんだよな。
あぁ……ミーナが僕の手を舐めてる。
「これはボクの番だね。はい、ソウ……あ〜ん」
「ちょっ、ミズキまでっんぐ!」
「あ"ぁ"ーわだじのきゃなとにー」
ミーナ手を口に入れたまま喋らないで、舌の……舌の感触が……歯の感覚が……。
ミズキもサンドイッチを口に無理やり入れないで、美味しいはずなんだけど今は味が分からないから!
ミーナもサンドイッチ食べ終わってるよね! こら、指を舐めるんじゃありません!
「んっ、美味しかった」
やっと手から離れたミーナは顔を紅潮させて微笑んだ。
それは普段見せるミーナよりも大人びていて、なんていうか……妖艶で、その姿に思わず生唾を飲み込み……むせた。
「ゴホッゴホッガホッ……サンドイッチが……喉に」
ミズキにサンドイッチを詰め込まれたのを一瞬忘れてた。味なんて無かった、あえて言うなら甘かったような。
「まったくミーナもやり過ぎよ」
「いぇい」
「それで、この流れでいくと……」
トリアの視線につられてミーナと僕がマッキーを見た。
円を囲むように座っている僕達はマッキー、トリア、ミーナ、僕、ミズキの順で座ってる。
そしてマッキーの口にサンドイッチを放り込んだトリア、そのトリアにあ〜んしたミーナ、そのあとミーナにサンドイッチを食べさせた僕、僕の口にサンドイッチをねじ込んだミズキ……となると。
「え? 私!?」
「あはは、別にやらなくてもいいと思うんだけど」
「ミズキがやられる番だからって遠慮しなくてもいいぞ」
「そうよ、別に恥ずかしがる必要はないわ」
いや恥いよ。
「あーうん、じゃあ」
「え、マッキー?」
困惑するミズキにマッキーがサンドイッチを差し出す。マッキーは表情を固めて無であろうとしてる、けど微妙に照れてるのが分かるな。
「まってまって、マッキーほんとにするの?」
「ほら早くしてよ、恥ずかしいんだから」
「う、うん」
マッキーがミズキから顔を背けながらサンドイッチをミズキの口へ持っていく。
ミズキもぎこちなく口を開けて、マッキーのあーんを受け入れた。
「……美味しい」
なんとも恥ずかしそうな美味しいだろう。しかしここが寂れた広場で良かったな、こんなド真ん中で注目間違えなしだもんな。
「ソウもこれ」
「ん? ミーナ?」
「あ〜ん」
「ん。あーん」
横で恥ずかしそうに食べてるミズキを尻目に、ミーナが僕にサンドイッチを口元へ持ってきた。戸惑いなく食べる僕だけど、どうしたんだろうか? 何の脈略も無かったけど。
少し疑問に思っているとミーナはミズキをチラッと見てから言った。
「なんでもないよ。気分だもん」
まさか、ミーナ……。妬いているのか。
さっきミズキにサンドイッチを食べさせられたのに嫉妬しているのか……?
いやしかし、ミズキだよな。そんな事があるのか、でもそうだとしたら。
「もうミーナ可愛すぎだわ」
「へ?」
「あっ」
口に出してしまった。
とりあえず誤魔化すためにミーナの頭を撫でておく。ミーナが可愛すぎて衝動に従ったわけじゃない。ないったら無い。
『ご馳走さまでした!』
ミーナがバスケットをしまって、トリアがシートを消す。
それにしても美味しかったな、ミーナに料理スキルなんてものがあったらカンストしてそうだ。
「これからどうする?」
背伸びして身体をほぐしているとミズキが聞いてきた。
これからか、ダンジョンに潜りたいけど今日中は合同ダンジョンに行けないだろうし……。
「別行動しないか? FANTASY、CREATURE、SIMでやることがあるだろうし。ぶっちゃけFANTASYのダンジョンに行きたい」
なにも皆で集まって行動するだけが一緒に遊ぶことじゃない。こうして集まれるのは貴重なんだろうけど、それでイベントが進むとも思わないし。
「ソウはそういうと思ってたよ。ミーナさんたちはどう?」
「私達もCREATUREのダンジョンに行ってみたいなと思ってた所なんだ」
確かに合同ダンジョンはともかく、FANTASYやCREATUREのダンジョンはそろそろ人が少くなってもいい頃合いだろうし。
「それじゃあ別行動で決まりかな」
「そうね。また何かあれば連絡したり、時間を決めてここに集まればいいと思うわ」
「そうだね。フレンド登録は出来るのかな」
「このイベント中は出来るわよ。コールも出来るようになるからしておくといいわ」
フレンド機能にはメッセージを送ったり、通話が出来たり色々な機能がある。イベント中ってことはイベントが終わると出来なくなってそうだけど、やっておくに越したことはないな。
「ミズキはこれからどうするんだ? 応援ポイントも使わないしダンジョンには潜れないし」
「んー。適当にぶらぶらするかな? 応援ポイントは半分賭け事みたいなものだし、他にSIMならではの何かを探すことにするよ」
運営からあまり紹介されていなかっただけにSIMは何かありそうだよな。
フレンド登録を済ませると僕達は別々に動き出す。
FANTASYとCREATUREのダンジョンは反対側にあるから、僕とミーナ達は逆方向に歩き出す。ミズキは見送るようにその場で手を振っていた。
手を振り返して前を歩くと、一人の女の子が広場に入ってくる。
女の子はNPCで僕とすれ違うように広場の中心へと走っていった。この広場で遊ぶ子供もいるんだな、寂れているし人が来ることも少ないと思っていたけど。
それよりもまだ見ぬダンジョンだ。一体どんなダンジョンだろうか、イベントだからやっぱり特別なんだろうか。
僕は心を踊らせながら広場を出て、FANTASY専用ダンジョンへ向かった。
「……おねーちゃん。おねがい……助けて」




