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54話


 5時間目は体育だ。

 みぃのお弁当を一つ一つ噛み締めながら食べ終わると、すぐに教室を移動する。


 「根元もこっちでいいんだよな」


 僕と根元は一緒に男子更衣室へ歩いている。

 このまえ根元は性別を女に変えてくるという訳のわからないことをしでかした為、一人違う教室で着替えたのだ。

 今は男なんだから男子更衣室……だろう。流石に男の姿だし、ジロジロ見られないだろうし。


 「うん。一応男子更衣室で着替えるよ。前は体が女性だったから興味本位で見る人もいるだろうけど」

 「あぁ……まあ、いそうだな」

 「それはそれで気持ち良さそうだけどね。皆が見ている中で裸になるなんてっ」

 「やっぱり別の教室の方が良かったんじゃないか?」


 その方が平和そうだ。


 「えー。(かなと)はボクの裸……見たくないの?」

 「根元。お前、今男だからな。分かってるよな」

 「つまり女の姿なら見たいと……大丈夫、高江さんには言わないから」


 すごくいい笑顔だ、控えめに言って殴りたい。


 「おーい。口に出てるよ」

 「わざとだ、問題ない」


 更衣室に行くと一瞬根元に視線が集まる。

 そんな中、堂々たる足取りで着替えようとする根元。それをチラッチラッと何人かが視線を向けたり、凝視していたりしていた。

 なんだなんだ?! お前ら男の裸に興味があるのか?!

 もしや何かあるのかと思い根元を見ると、片手で胸元を覆い隠していた。


 「いやんっ、えっち!」

 「違ぇ!」


 酷い誤解だ。

 ていうか何もないじゃないか。そう思い視線を戻そうとすると、窓に一つの影が見えた。

 目を凝らして見てみると、空を飛んでいることが分かる。金髪で背中から白い翼があるようだ。


 「……ボーイフレンドが見てるぞ」

 「なっ!」


 着替え途中の根元に指差して教えると、無言で一つのカードを顕現させた。表情は皆無だった。


 「『エクスプ--

 「ストップストップ! それ絶対やばいやつだから!」


 咄嗟に根元を押さえつけ、カーテンを閉める。

 危ない。僕の目の前で殺人が起きるところだった。


 「……どいて相馬くん。アイツ殺れない」


 ダメだ。目がマジだ。


 「ほ、ほら。男同士だし裸見られても問題ないよな、な? だから落ち着こう?」

 「例え男同士だとしても、如何わしい目で見てくるストーカーに裸を見られるのは生理的に無理。それに嫌がる相手に覗きなんて許されるはずが無いよね」

 「ぐぅ……正論」


 根元が拘束から逃れ、カーテンを開ける。

 さっきと同じカードを掲げながら発動キーを唱えようとしたが、その動きは途中でまた止まった。


 「いなくなってる」

 「乙成……難を逃れたな」


 不完全燃焼で着替え始める根元に、流石に逃げるよなと思いながらも違和感が残る僕。

 とりあえずもう一度カーテンを閉めて僕も着替える。周りの皆は着替え終わり、この場所には僕と根元しかいない。


 「ちょっと探して文句でも言ってくる」


 そういって更衣室を出ていく根元。

 残った僕はというと、閉まったカーテンを開けて窓を開けた。


 「流石にやりすぎじゃないですか? 乙成先輩」

 「…………バレていたか」


 暫く窓の外に顔を出していると、乙成がどこからも無く現れた。


 「何をしたのかは分かりませんでしたが、違和感があったんで」

 「ふっ、流石というべきかな。幻惑のカードというカードがあってな」


 確か根元も使っていたな。確か5秒間、自分の想像した幻を見せるカードだったはずだ。

 まあ種明かしは置いといて。


 「で、これ以上あいつが嫌がる事をするつもりなら……僕ももう黙っているわけにはいかないんですけど?」


 本当は事を荒立てるつもりは無かったけど……こうなれば仕方ない。

 根元は子供の頃からの友達だ。本気で嫌がっているかどうかなんてすぐに分かる。……クラスの男子に見られても平気なくせに、乙成に見られて嫌がるのは何故だか分からないけど。


 「ハッハッハ! ……自分でもよく分からないのだよ。今までの女は勝手に寄ってきた。富、名誉、地位、権力、これさえあれば落とせない女はいない……はずなのだ。どんなやつでも金をチラつかせると俺に靡く。なのにどうして瑞輝は靡かない、どうすれば俺に靡く」


 乙成は心底理解できないといった風貌だ。

 下手に金があるから、それ以外の接し方が分からないんだろうか。まあ、教えてやる義理はないけど。


 「まず、僕の友達をそこら辺のやつと一緒にしないで下さい。世界中の金をかき集めても『買える』わけないでしょう」


 根元はそういうやつだ。金や権力に靡く玉じゃない。

 それに根元は男なのだ。女がいくら靡こうとも男には関係ないことだ。……いやこれは実際女になったんだから女でもあるのか。


 「それに惚れた女のことくらいちゃんと見ろよ」

 「…………裸をか?」

 「……本気で言ってます?」


 ならこの話は終わりだ。

 授業ももうすぐ始まってしまう、急がないと。


 「いや分かっているんだが、分からないのだ」


 どっちだよ!


 「こんなことは初めてだ。瑞輝を見るといてもたってもいられなくなる。俺が俺じゃないかのようだ」


 …………どうやら乙成は本気で根元に惚れているみたいだ。

 金持ちの道楽だと少し思っていたんだけど。


 「だからストーカーのように纏わりついても良いと?」

 「違う。違うんだが……いや、お前の言う通りかもしれない」


 乙成は困ったかのように笑い、空を見上げる。

 僕としてはやり過ぎなければ言うことはないけど。


 「俺も少し態度を改める必要がありそうだ。すまない、俺の愚痴を聞かせてしまったな」

 「まあ、僕にどうしてそこまで話すのかは疑問に思っていましたけど」


 昨日初めてあったばかりのはずだ。しかも一言も声を交わしていない。今回が初めてだと思うし。このプライドが高そうなお坊ちゃんがどうして僕に愚痴を言うのかは謎でしかない。


 「それはお前が……いや止めておこう」

 「いや最後まで言ってくださいよ」


 そこ隠されると気になるじゃないか。


 「ふっ、最後にお前の名前を聞いておこう」

 「え、あー。相馬(そうま)(かなと)です」

 「では奏……さらばだ!」


 そういって乙成は空に上がっていった。

 結局教えてくれないのかよ!


 仕方ない、今日話した先輩のことだ。理由なんてどうでもいいか。

 もうすぐチャイムが鳴るし早くグラウンドに行こう。

 僕一人となった更衣室を出るためにドアを開く、八つ当たりもかねて少し力が強かったかもしれない。


 「いてッ」


 ガンっと鈍い音と共に手に伝わる衝撃。

 反射的に扉の向こう側を見ると、根元がうつ伏せで倒れていた。


 「根元、どうしてこんな所にいるんだよ。先に行ったんじゃなかったか?」

 「あ、はは。ちょっとね」


 苦笑いをしながら濁す根元。

 まあそんなことはどうでもいいんだ。早くしないとチャイムが鳴る。


 「とりあえず急ごう。早くしないと遅れるぞ」

 「うん、そうだね。行こ」


 倒れてる根元に手を貸して起き上がらせると、グラウンドへ走り始める。少しでも遅れるとグラウンド10周させられるって聞いたことがあるから急がないと。


 ──きーんこーんかーんこーん


 ここからなら窓からグラウンドまで飛んだら早くないか?

 それならまだ間に合うかもしれない。……チャイム鳴ったけど。


 「現実逃避したらダメだよ。……ほら、ボクも一緒に走るから」

 「へーい…………すまん根元、先行く」

 

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