51話
朝起きていつも通り窓を開け、みぃの家を見ると美唯菜ママと目が合った。
…………見なかったことにしよう。
視線を逸らした先には、背中に2つ穴が空いている服が……。
昨日勢いで背中の翼で服を破いてしまったんだった。今回でダメになってしまった服は2着目だ、正直ヤバい。
寝てる時は破れてしまった服に翼を通して寝ているけど、外に出るときはそうはいかない。普段魔力付与で隠しているだけあって出すと必ず破れるのだ。
そういえばこの前、僕と同じ天族が翼を広げて飛んでいたな。服……どうしているんだろ。
いやそれよりもこの2着だよな。とりあえず正直に母へ報告に行くしかないか。買ってもらった服だけに申し訳ない気持ちはあるけど仕方ない。
僕は着替えるために制服を持ち、そこで固まった。
……破れている。そういえばこの前学校でみぃを助けに行った時になりふり構わず飛んでたなぁ。
これも……仕方ないかあ。
早く着よう。
背中の破れた所に翼を入れ、魔力付与をして小さくしていく。やっぱり破れてる所が目立つな。
その後は破れた2着の私服を持って部屋を出る。
「おはよう、奏」
「おはよう、父さん」
「どうしたんだ? その服は」
リビングに来てそうそう言われてしまった。
なんだかばつが悪い。背中の翼を広げて、服の敗れている所を指でジェスチャーする。
「あぁ、そういうことか。まあなんだ……ドンマイ?」
軽いな父よ。
「っていうわけで母さんに報告しようと」
「あー奏のは母さんが買ってるんだったか。その歳で親に選んでもらうからこうなるんだ」
「返す言葉もないね。でもなぁ、服とかあまり興味湧かないし」
「興味湧かないというよりも分からないだけだろ」
「否定出来ない」
何がいいとか全く分からないんだよな。
それに母のセンスは信用できる……と思うし。自分では分からないけど、今のところ変ではないらしいし。
とりあえず破れた服はソファにでも置いておいて、顔洗いにいこう。服のことで忘れてただけだけど……。
洗面所から戻るといつものように父が仕事に出かけ、母が見送りに行く。僕は母が作っている朝食を引き継いで皿に盛り付ける。
「おはよう、母さん」
「おはよー、これ置いてるから行く前にでも着替えるんだよ」
リビングに朝食を持っていくと、母が学校の制服を片手に言ってきた。
「え、それって」
「この前、背中がボロボロなのを見てね。いると思って買ってたんだよー! 超絶可愛い有能お母さんを褒め称えてもよいぞっ」
「ははーっ!!」
超絶可愛いなどという戯言は隅に追いやって、さっそく制服を着替えることにする。
……ん? あれ、これも穴が空いてる。というよりも翼を入れるスペースのような。
「それは特別製でね。ハネをしまったり、大きくする時にその穴から出るようになる仕組みなんだよ」
おおー!
それは凄い。もし翼を広げても服を破らずに済むね。
「さすが有能母さんだ」
「超絶可愛いが抜けてるよ」
「そういうのは父さんに言って」
「あとこの破れてる服は直しておくね。ついでに出し入れ特別バージョンにしてあげるから」
父さんェ。
朝食を食べ終わると母は仕事に行き、僕は家を出る準備をする。
制服が一新されたことで気分もいい。今までは翼が押されられて妙な圧迫感があったけど、今は入れるスペースがあって快適だ。
この翼、神経が通っているみたいなんだよな。多分くすぐられると弱いタイプの。誰得だよ。
家を出てみぃの家を見ると、佐鳥と目が合った。
みぃ家の塀にもたれ掛かっていたからそっちに目がいったのだ。……え。なにしてんの。
みぃはまだ家から出てきていないようだ。とりあえず佐鳥の所へ行くか。
「佐鳥、なんでこんな所にいるんだ。てか怪我は大丈夫なのか?」
「相馬くん……。うん、外傷はトリアさんが治してくれたらしくて、ちょっと血が足りないくらいかな?」
苦笑いする佐鳥。確かに顔色は良くない気がする。
というかまだ病院にいると思っていたんだけど。
「私が美唯菜ちゃんと登校したくてここまで来ちゃったんだ。VRの中で一緒に登校するのは美唯菜ちゃん的に無さそうだったし」
僕と一緒に登校する方を選んでくれたんだろうか。自信過剰かもしれないけど、そうだったら嬉しいかも。VRだとゲームの違いで一緒に登校できないし。
でもやっとできた友達なんだから、そっちを優先したらいいとも思うんだけどな。
「あんま無理すんなよ。みぃが心配するから」
「うん、ありがと。気をつけるね」
佐鳥は背中に黒色のコウモリのような翼と、口から覗かせる八重歯など、吸血鬼みたいな見た目だから顔色悪いと本当にそれっぽい。
少し良くないかな? っていう程度だからあまり気にならないと思うけど、もしもっと悪くなっていけばまんま吸血鬼である。
「おはよ」
みぃがひょこっと僕と佐鳥の間から顔を出す。
ピコピコと動く猫耳がキュートだ。
「おはよう、みぃ」
「ん。おは」
「お、おはよう。美唯菜ちゃん」
「おは、よう」
佐鳥が来ることを初めから知ってたんだな。佐鳥もそんなこと言ってたし。
「そういやトリアは?」
「トリアは、ママと、いるって」
そうか、そういえばトリアは生徒じゃないから学校には行けないのか。
「そっか……。トリアさんにも改めてお礼を言いたいけど、またの機会だね」
「また、VRで、会お?」
「う、うん! いいならフレンド登録も──」
「もち」
なんだか仲良さそうだ。だけどちょっとジェラシー。
フレンド登録とか出来ないし、ゲームが違うし。
WORLD FANTASYとWORLD CREATURE、WORLD SIMはリアルに影響する三種のゲームだけど、お互いが繋がっているわけじゃない。だからWORLD FANTASYの僕と、WORLD CREATUREのみぃとはフレンド登録が出来ないのだ。
「それで西の森のね──」
「うん。ドロッ、プ、チケが──」
そして話について来れない。無念である。
僕もWORLD CREATUREにしてれば良かったかな。いやいや、結果論だ。僕はWORLD FANTASYがしたかったんだ、変えられない。変えられないのだよ!
一緒にゲーム出来なくて、同じゲームの話が出来ないのは思ってたより辛いぞ。根元はWORLD SIMらしいから3人とも分かれてしまった感じだし。
一人会話に入ってこれずトボトボと歩いていく。
バス停までくるとちょうどバスが来たところで、急いで乗車した。
「おはよう。今日は佐鳥さんも一緒なんだね」
「おう。おは、よう? 根元だよな」
しばらくして根元がバスに乗ってきたが、その姿は三種のゲームが発売される前の姿だった。つまり男の格好である。豊満な胸はどこへやら。
「おは」
「おはよう、根元くん。この前はありがとね、昨日の企画を発案してくれて」
そういや根元が提案したんだったっけ。おかげでみぃに友達が出来たわけだ。
「……ありが、と」
みぃもそっぽ向きながらお礼をいう。
ツンデレか! 根元と恋仲には……発展しないだろうな。
「え、相馬くん……なんでそんなに睨んでるの?!」
「なんでもないよ。なんでもないよ」
「本当に!? なんか目つきが極悪人だけど!」
「まあ冗談はさておいて、男に戻れたんだな」
「目が冗談じゃないって言ってるよ……設定画面の反映で変えれるんだ」
確かこの前も言ってたような……。
種族等の外見その他情報を現実世界に反映しないように設定すると男に戻れるんだっけ。
天族である僕が種族情報を反映させないでいると種族スキルは使えなくなるんだけど、人族の根元はどうなんだろう。元々人族だからスキル使えるのだろうか、いや根元はWORLD SIMだから関係ないのか。
「それにしても戻って良かったのか? あんなに喜んでいたのに」
根元は身体が女になってそれはもう喜んでいた。
戻ることはないと思っていたんだけど……別に胸が恋しい訳でもないんだけどっ。
「あーうん。一応保険?かな。ボクの胸を見れなくて残念だった?」
「ああそうだな」
「〜っ!!」
ん? いや冗談だからな。ちょっとしたイタズラ心なだけで。
無い胸を隠して照れても意味無いからな。誰得だよ。
「みぃ、いひゃい」
横からみぃが頬をつねってくる。
ムーとした表情でいかにも不機嫌ですよと言っているかのようだ。
「かなと、浮気?」
「ち、ちちち違うから! さっきのはほんの軽い冗談だから!」
「じゃ、根元……んと、わたし、どっちの、胸、すき?」
「そりゃみぃの」
「きこえ、ない」
「みぃの胸の方が好きだ!」
一体何を言わせるんだ。鬼畜すぎる。
こんな所を関係ない人に見られでもしたら。あーいるよ、今まではバスに乗るのは僕らだけだったのに。
「相馬くん……」
見るな佐鳥!
そんな冷たい目で僕を見るんじゃない!




